現在は、ティール組織、ホラクラシー、自然経営といった次世代型の経営スタイルの総称。
(※「ティール組織」の解説はこちら)
(※「ホラクラシー 」の解説はこちら)
ヒエラルキーではない組織で、社員の主体性が発揮され、組織が成長中のものを括っている。
■手放すもの
経営トップのエゴ/役職とそれに紐づく権力/管理/固定観念(こうでなければならないという過去の踏襲や習慣)
■手に入るもの
社員の自主性/権限委譲/変化に対応し進化し続けることのできる組織構造/採用力/事業の成長/利益
「手放す経営」では組織そのものの在り方を変えるという、組織課題の本質的なアプローチを行います。
手放す経営ラボラトリーは、手放す経営の導入を目指す企業のサポートを実施しています。
手放すラボでは、固定観念を手放し、次世代型組織づくりに邁進している経営者のインタビューを行なっていますが、今回のインタビューは、突き抜けています。
自分で創業した会社から手放された過去を持つ、「タイガーマスク(通称:タイガー)」さん。
そんなタイガーさんにその過去を聞いてみました。ライターのyuriがリポートします。
創業したアプリ開発会社が大当たり
坂東:今日はタイガーマスクさんにお越しいただいています。
タイガー:タイガーと呼んでください。
坂東:まずはどんな会社を経営していたのか教えてくれますか?
タイガー:スマホに特化した電子チケットのアプリを開発する会社を経営していました。今でこそ普及しだしてきているサービスですが、2011年創業当時は珍しいものでした。
坂東:チケットっていうのは、アーティストのコンサートとか?
タイガー:そう。チケットの用途って入場管理だけに限られているじゃないですか。でも、それだけではなくて権利を証明する証明書としても使えないかなと。コンサート会場への入場だけに留まらず、例えば飛行機の搭乗チケットや、クーポン券にも使えるようになったら、世の中の権利をすべてスマホアプリで取り扱えるんじゃないかなと思ったんです。
坂東:今は割と当たり前になりつつある発想ですが、当時はなかった?
タイガー:そうですね、当時はありませんでした。その頃はQRコードを使って、読み取り端末にピッとかざして完了するという流れだったんですけど、もともと僕はロスやハリウッドでクラブのオーガナイザーをしていたこともあって、現場目線で考えたときに読み取り端末を用意することを、とても面倒に感じていました。
数千人規模になってくると、入口が何個もないとさばけず、時間借りをしている会場で「入場で1時間押しました」という事態になったら、それだけで大損です。
とはいえ端末を十分に用意することも、そのための電源を用意することも難しい状況がありました。
坂東:端末のレンタル代もありますしね。
タイガー:はい。そこで、QRコードの読み取り端末がなくてもスマホだけで完結できる電子チケットを作れないかという考えが生まれました。紙のチケットってビリっともぎって承認されるじゃないですか。それをスマホ上でやったらいいんじゃん!と。
「電子もぎり」って名付けました。入口の人がスマホに表示されている電子チケットの上で人差し指をスッと動かすだけで、もぎれたようなアニメーションが表示されるんです。音も「ビリッ」て出て、ちょっとバイブするというような。スマホだけでチケットのもぎりを完結させて入場できるっていうシステムです。
実は紙のチケットって、神経を使ってもぎれって言われてるんですよ。「これは、もしかしたらお客様にとって一生に一度の思い出かもしれない。それを忙しいからといって雑に切って、ビリッて雑に切るのはダメだ」と。
坂東:一生とっておくかもしれないし。
タイガー:そう。だから、入場にとても時間がかかっていました。でも、電子もぎりだと指でスッとやるだけで切れるんで、スピードが少し速くなります。このサービスを特許を取って展開させました。
坂東:すぐに広まりましたか?
タイガー:サービス内容の紆余曲折を経て、ビッグアーティストのコンサートやプロスポーツの試合、スキーのリフト券などでも使っていただけるようになりました。
坂東:どうやって利益を得ているんでしょう?使用料?
タイガー:チケット会社さんと一緒で、手数料をいただいています。販売手数料のようなものですね。
坂東:それで、会社が急成長したわけですよね。
タイガー:そこからは資金調達で入るお金も大きくなって、さらに取扱高が増え、売上高、従業員数も増えました。ところが……
坂東:(ごくり)
全会一致での解任劇
坂東:会社は伸び盛りですよね。その会社はお一人で始めたのでしょうか?もしくは、誰かと?
タイガー:中学時代、高校時代の友人と三人でつくった共同経営で、それぞれが株主でもありました。
坂東:社長は誰だったのでしょう?
タイガー:僕です。
坂東:だけど、手放された?
タイガー:そうなんですよね。
坂東:ずばり、なぜ手放されたのでしょう?
タイガー:端的に言うと、自分が結果を出せなかったから。完全なる実力不足です。
しかし今だから言えますが、解任騒動の最中はそんな風には受け止めれていなかった。
自己の責任ではなく、経営方針の違いが原因だと考えていました。
というのもの、3人のうちの1人は創業時から「自分の事業をやりたいから、立ち上げ後1年で卒業する」と話していて、本当に卒業しました。そして残ったもう一人と僕がどんどん違う方向に向かっていってしまったんです。
考えをすり合わせることに時間を使って、成長スピードがどんどん落ちていきました。最後は「誰が原因なんだ」と犯人探しみたいな状況になってしまって…
坂東:それで?
タイガー:最後は取締役会で決断が下されました。取締役会には議長がいて、だいたい社長が担当します。だから、僕が議長なんです。事前に共有されていた議案を僕が読み上げました。「社長解任に賛成の人は、挙手してください」。誰も賛成するわけないと思っていたら、自分以外の全員が挙手していました。その瞬間、僕の解任が決まったんです。
坂東:なるほど……。その場面、すごいですね……!
タイガー:「マジか」と思いましたね(笑)。
坂東:そのときを振り返るとどんな思い?
タイガー:当時は、理解できなかったですね。「なんで俺が?」って思いました。
坂東:まさかと。
タイガー:そうそう。当時は、自分が全てをつくったと思っていたから。完全に天狗ですよ。もちろん今は、そんなふうには思っていないのですが。
ただ、同時に「これは何か良いきっかけなのではないか?」という思いもありました。
坂東:良いきっかけ……ですか?
どんなことでも「良いきっかけなのでは?」と思う癖
坂東:社長解任が「良いきっかけ」とは、どういうことでしょうか?
タイガー:解任される少し前、自分がやりたいことからだんだん逸れてきているように感じることがありました。
もちろん、自分がつくった会社なので、一生懸命やっていたし、命がけでした。
でも、サービスを運営するうちに、「他社はこうやって、成果を出しているから、これもやってみよう」とか、気付いたら他社のモノマネになってしまっていて。そしてそれは、以前在籍していた会社の状況に似ていました。「じゃあ、その会社にいた時と同じじゃん」みたいに思えることもあって。実は、そんなタイミングでの解任でした。
僕は、何に対してもポジティブにとらえる癖があるんです。社長解任という事実も「何か良いきっかけなのでは?」と思えるまで、時間はかかりませんでした。
坂東:ポジティブだなぁ。解任されて教訓になったことはありますか?
タイガー:たくさんありますね。教訓しかない! まず、スポーツでは当たり前ですが、経営においてもルールを知らずに試合に臨むのは不利だと学びました。
坂東:経営とか、会計とか?
タイガー:はい、組織のメカニズムなどもそう。ただ自分のスキルさえあれば良いと思っていましたから。
坂東:スキルというのは何についての? ビジネスをつくる?
タイガー:そうですね。ビジネスをつくる点で、社長が優秀だったらそれで良いと思っていました。 具体的に必要だと思うのは営業やアイデア、お金を集められる人脈や信頼があるかどうかとか。
坂東:それは自信もあったし、できていた?
タイガー:そうなんですよ〜。笑
でも、それだけではダメでしたね。個人の能力だけでは、限界があると思い知りましたし、一番大きかったのは、ルールを知らなかったことでした。プロの世界は甘くない。「無知は罪」ってことです。
坂東:「無知は罪」……! 深い!
「何者」でもないことの辛さ
タイガー:若いうちしかできないことをしたいっていう気持ちが強くありました。その上でどうせ経験するなら、どでかい失敗をしてやろうと。
手堅いビジネスをやるのは、別に20代じゃなくてもいいと考えていたんです。安定した企業の正社員を辞めて起業したので、なおさら。
坂東:やりたいことに正直になろうと思ったんですね。
タイガー:それって何だろう?と考えた時に、当時の僕が行き着いたのが「大きく調達して、会社を大きくする」ってことだったんです。
この場合の「大きく」の定義は「たくさんの人に届き、たくさんの人を幸せにし、たくさんの売り上げをつくる」というイメージです。そこに対して、思いっきり若気の至りでぶつかっていけたのは、後悔ありません。
坂東:なるほど。では、つらかったことはありますか?
タイガー:解任させられたあと、「今何しているの?」っていう質問に対して明確な答えがない時がつらかったですね。「その質問に対して答えがないのはダメなことなんじゃないか」と勝手に思い込んでいました。ただ、そのネガティブ思考がポジティブに変わるのも時間がかかりませんでしたけど。
その時、簡単に答えをつくりにいかなくてよかった。
おかげで時間をかけて「本当はどうしたいのか?」を自分に問い続けられました。
問い続けることで見えた未来がありました。
坂東:さすがポジティブシンキング。
創業した会社を解任になるなんて、なかなかショッキングな出来事だと思いますが、なんでも解釈の仕方次第ですね!
タイガーさんのお話は、予期しない出来事に打ちのめされている人や、社長という役職を手放したいとお悩みの経営者にも参考になるかもしれないですね。タイガーさん、本日はありがとうございました!
無知は罪、と思い知ったタイガーさん。
現在は世の中のルールを投資を通じて学びつつ、次なる事業を構想し実行しています。
タイガーさんのポジティブな挑戦は続く・・・
編集後記
タイガーさんの淡々とした口ぶりは、社長とはこうあるべき、といった固定観念を「手放した」清々しさを感じました。
手放されたのは事実だけど、それをどう捉えるか。手放されたことで、開けた道がある。
「本当はどうしたいのか」と問い続けたタイガーさんの次なる挑戦が、とても楽しみです!
手放すラボ主催!進化型組織がテーマのイベントのご案内
いよいよ組織変革を進めたい!という経営者を対象に、進化型組織へのアップデートを体感できる機会です。
進化型組織を自社に取り入れたいと思ったら!