会社組織の多くは、トップダウン式のヒエラルキー型組織です。それに対し、肩書きのない組織形態であるホラクラシーが近年、注目されています。ホラクラシーは柔軟な組織体制で会社を統治しようという、2007年にアメリカで提唱された、比較的新しい制度です。
今回の記事では、ホラクラシーについて詳しく解説します。メリット・デメリットから導入する際の注意点、運営方法についても紹介しているため、ホラクラシーに興味のある方は、ぜひ当記事を参考にしてください。
目次
1-1. ヒエラルキーとの相違点
1-2. ティール組織との相違点
2-1. メリットは?
2-1. デメリットは?
3-1. 導入は小さく始める
3-2. メンバー構成を入念に行う
5-1. ホラクラシーの組織体制
5-2. ホラクラシーの運営方法
1. ホラクラシーとは?
ホラクラシーとは、上司・部下の関係性や肩書きのない、組織構造のことです。ホラクラシーの下では、社員全員が対等な立場となり、個人やチーム単位で意思決定を行うことができます。従来のトップダウン式の組織体制とは異なり、効率的な組織マネジメントが可能です。
ホラクラシーの主な特徴としては、以下のようなものがあります。
〇柔軟な組織体制
前述したように、ホラクラシーには役職や管理職を必要としません。そのため、上司が部下の面倒を見る必要がなく、誰もがフラットな立場で意見を言うことができます。
〇長所を活かした役割分担
ホラクラシーは部署や人に仕事を割り振るという考えでなく、仕事(役割)に合わせてチームを作ります。そのため、プロジェクトに合わせて必要なメンバーを集めることが可能です。
業務を役割ごとに切り分け、個々人が自発的に意思決定をするため、それぞれの役割を明確にしなければなりません。
〇効率的な組織運営
チームの構成員それぞれが責任を持ってプロジェクトに取り掛かります。個々の意思がすぐに反映されるため、組織自体の意思決定もスムーズです。
また、上司の承認が不要であるため、社員の責任感の向上にも繋がります。
〇主体性の強化
ホラクラシー体制下では、上司に指示を受ける必要がありません。つまり、社員一人一人が自分で考えて動く必要があります。そのため、ホラクラシーでは個人の主体性が特に重要です。個人の主体性強化により、社内全体の底上げにもなります。
1-1. ヒエラルキーとの相違点
ヒエラルキー組織とは、取締役や部長、課長がいるトップダウン形態の会社組織のことです。
ここでは、「従来のヒエラルキー型会社組織とホラクラシーの違い」について、表を用いながら具体的に説明します。
ホラクラシーとヒエラルキーでは、会社の統治方法が異なります。
ホラクラシーの統治方法はルール(法律)です。会社内で共通ルールが定められていますが、その中で自由に行動することができます。
反対に、ヒエラルキーの統治方法は権限の分配です。取締役や課長、部長といったように、権限がある程度分配され、部下への指令・命令という形で統治されます。ただし、上下関係は存在しないため、社員間の情報格差はありません。
また、ホラクラシーとヒエラルキーでは、マネジメント対象も異なります。
ホラクラシーは上司・部下の概念が存在しないため、タスクをどうこなすのかというマネジメントを各自で行わなくてはなりません。一方で、組織ごとに仕事を行うヒエラルキーは、人がマネジメント対象のため、タスクを管理しやすいです。
1-2. ティール組織との違い
ティール組織とホラクラシー、どう違うの?と良く聞かれます。
どちらもが分散されていて、生産性を高めていくことができるという組織概念は同じです。
違いは、ティール組織はパラダイム(価値観)であって、やり方ではないこと。
(※「ティール組織」の解説はこちら)
そして、ホラクラシーはティールのパラダイムを具現化するためのフレームワーク(手法)のひとつだ、ということです。
2. ホラクラシーのメリットとデメリット
ここまで、ホラクラシーとは何かについて解説してきましたが、ホラクラシーの導入には、メリットだけでなくデメリットも存在します。
ここからは、ホラクラシーのメリット・デメリットをそれぞれ詳しく紹介します。自分の会社にとって良い結果をもたらすものであるかどうかを知るためにも、当項目をぜひご覧ください。
2-1. メリットは?
会社にホラクラシーを導入するメリットは、主に以下の3つがあります。
- 生産性が向上する
- ストレスの軽減に繋がる
- 柔軟な組織運営ができる
ヒエラルキー型の組織体制では、上司が部下の管理・監督をする必要があります。管理業務に人員を割く必要がなくなるため、全ての社員が個々の役割に集中することが可能です。上司による承認が不要で、意思決定のスピードが速いため、無駄な時間を削ることができます。
また、上下関係のある組織では、上司の判断によって大きく左右されるため、ストレスが溜まります。しかし、ホラクラシーではフラットな関係性で話し合うことができるため、不要なストレスが溜まることはありません。
社員それぞれの責任が重いため、良いストレスを与えることも可能です。適度なストレスはむしろ、生産性の向上に繋がります。
他にも、ホラクラシーは柔軟な組織運営を行うことができます。ヒエラルキー型の人員配置は部署ですが、ホラクラシーの人員配置はチームです。ホラクラシーでは、流動的なメンバーから構成されるチームを立ててタスクごとにチームを構成するため、適切な人員の配置を行うことができます。
途中でニーズがなくなれば、別のチームに入ったりと、臨機応変に対応することができます。
2-2. デメリットは?
ホラクラシーは一見、理想の組織体制に見えますが、デメリットも存在します。
- リスク管理が難しくなる
- 社員の自主性が問われる
- 新社員のオンボーディングのコストがかかる。
ヒエラルキー型の組織では、プロジェクトの規模に応じて、何段階もの承認を必要とします。しかし、ホラクラシーは承認段階がないか、限りなく少ない。意思決定権が分散しているため、生産性が向上する反面、リスクは高まります。そのため「社員を信頼すること」が求められます。
ただし、万が一ミスがあった場合、プロジェクトを担当した社員だけに責任を押し付けることはできません。従業員は保守的になってしまうため、ミスをしても全責任を負わなくても良い環境を整えなければホラクラシーのメリットを活かせません。
また、社員が自ら業務を積極的に遂行できる環境であれば、ホラクラシーは上手く機能します。しかし、社員が積極的に動いているのか、怠けてるのかを判断する管理職がいないため、社員の自主性を確認することができません。
経営者が社員の主体性を信じて役割を任せなければ、ホラクラシー自体が成り立たなくなります。
ホラクラシーでは「ホラクラシー憲法」というルールに基づいて組織運営をすることが求められます。下記で触れますが、ミーティングの進め方や、組織を変更する際のプロセスが厳密に決まっており、一般企業とはかなり違った独自の手法です。ですから、新卒や中途で新たに社員が入社してくるたびに、ホラクラシーの考え方や憲法を理解し、慣れてもらうまでにかなりの時間がかかります。それは既存の組織でホラクラシーを導入する際にも同じことが言えます。社外の専門家にサポートしてもらうか、社内の誰かが猛勉強をする必要があります。
3. ホラクラシーを導入する際の注意点
前項で、ホラクラシーを導入する際には、メリットだけでなくデメリットもあることについて紹介しましたが、デメリットを知ってホラクラシーの導入を諦める必要はありません。「導入する際の注意点」を意識することで、ホラクラシーを導入するデメリットは最小限に抑えることができます。
では、どのような点に注意すれば良いのでしょうか。ここからは、ホラクラシーを導入する際に注意したい2つの点について紹介します。
3-1. 導入は小さく始める
組織全体でホラクラシーを導入してしまうと、失敗した時のリスクが非常に大きいです。いきなり組織全体でホラクラシーを導入してしまうと、それまでの管理職の混乱や、上下関係が継続したままになってしまいます。そのため、まずは部署やチームのように、小さな単位でホラクラシーを導入しましょう。小さな単位で導入することで、その会社がホラクシーを導入する際の改善点が分かります。
また、小さな単位で導入することで、他の組織のメンバーにもホラクラシーが伝わります。いきなりホラクラシーを始めると、変化に対応しきれない社員も出てきますが、事前にホラクラシーについてある程度知らせておくことで、スムーズに移行させることが可能です。
3-2. メンバー構成を入念に行う
ホラクラシーを導入する際は、セルフマネジメントを行えるメンバーで組織を構成することが重要です。セルフマネジメント能力がないメンバーで組織を構成してしまうと、ホラクラシーは上手く機能しません。
また、気楽に話せる人をメンバーにすることで、メンバーの普段の仕事ぶりが分かり、ホラクラシーの効果をしっかりと調査できます。人柄について分からなければ、ホラクラシーの効果や改善点を十分に知ることができません。
また、構成員を把握できる人をホラクラシーのメンバーとして選ぶことも重要です。多くの会社はヒエラルキー型であるため、基本的に上司の指示を受けます。しかし、ホラクラシーは構成員個人の意思決定が重要となります。そのため、最初からセルフマネジメント能力のあるメンバーで構成することで、ホラクラシーは上手く機能させることが可能です。
4. ホラクラシーによく見られる誤解
ホラクラシーによく見られる誤解として、以下のようなものが挙げられます。
〇自由な組織であるため何をしてもいい
ホラクラシーは、権限が分散されているという意味で、自由度が高い組織です。しかし、ホラクラシーは、上司による管理がない分、ルールによって会社を統治する必要があるため、ルールが厳密に定められています。
本来、ホラクラシー組織とは、Bryan.J.Robertsonが提唱した考え方で、ホラクラシーは厳密なホラクラシー憲法が定められていることで成り立つとされます。そのため、ルールに法った統治をしなければ、ホラクラシーとは言えません。
〇管理者がいない
ホラクラシーの権限は、個人ではなくプロセスにあります。さまざまな決定を行う役割は上司ではなく、全員の意思決定によるミーティングです。チームの仕事は民主的なミーティングによって決定されるため、実際は全員の意思決定によって管理されます。
また、管理者がいない代わりに、明文化されたルールがあるため、ルールを破ることはできません。
このように、ホラクラシーはミーティングとルールによって管理されるため、管理者がいなくとも会社の方向性を定めることができます。
〇情報漏えいしやすい
ホラクラシーは、社員それぞれがほぼ同じ情報を持つため、情報漏えいしやすいといった誤解があります。情報については、ホラクラシーかどうかは関係なく、厳密な管理をしなければなりません。厳密な管理を行っていれば、ホラクラシーを導入しても情報が外部に漏れることはないと言えます。
5. ホラクラシーの組織体制と運営方法
ホラクラシーを導入したは良いものの、どのような組織体制にしたうえで、どういった運営を行えば良いか分からない方もいるでしょう。
最後に、ホラクラシーの具体的な組織体制や運営方法について解説します。ホラクラシーを上手く機能させるためにも、ぜひ活用してください。
5-1. ホラクラシーの組織体制
ホラクラシーの組織体制の特徴は、社員がそれぞれの役割(ロール)を果たすことです。つまり、この役割がホラクラシーの組織の構成要素となります。
役割の中には、「ある役割を果たすための役割(アンカーサークル)」といった、さらに細かい役割が複数あります。
例えば、車を製造して売っている会社では、車を販売して利益を出すことが、アンカーサークルです。そのアンカーサークルを達成するためには、製造したり、マーケティングを行ったりする役割(サークル)があるなど、ホラクラシーには、アンカーサークルを達成するためのさまざまなサークルがあります。
役割はサークルによって異なりますが、どのサークルにおいても有効な役職は、以下の通りです。
ホラクラシーでは、これらの役割と並行して、別の役割を担う可能性があります。必ずしも役割は1つに限りません。
5-2. ホラクラシーの運営方法
ホラクラシーの運営には、以下の2つのミーティングを行うことが重要です。
■ガバナンスミーティング
役割や、役割間の協力について話し合うミーティングです。セクレタリーがスケジューリングや議事録を担当し、ファシリテーターが会議を進めます。
会議で決められることは以下の3点です。
- サークルの役割を新しくする、修正する、削除する
- サークルのルールを新しくする、修正する、削除する
- サークル内の役割の人選
ガバナンスミーティングの一般的な進め方は、以下の通りです。
①提案
提案者が自分の提案についてプレゼンを行います。
②疑問点を明確にする
提案された内容に対し、参加者が理解を深めるために質問を行います。疑問をなくすことが目的であるため、意見や反論はできません。
③参加者が意見を述べる
参加者が提案に対して、自由に意見を言います。
④修正
参加者の意見を受け、提案者が修正を行い、再提案をします。
⑤反対意見を述べる
再提案された考えに対して、反対意見を述べます。
⑥話し合いが終わるまで議論を続ける
反対意見がなくなるまで、案の修正と反対意見を繰り返します。
■タクティカルミーティング
タクティカルミーティングは、それぞれのメンバーが現状をシェアする場です。
タクティカルミーティングの一般的な流れは、以下の通りとなります。
①チェックイン
ファシリテーターが、参加者の現状や、現状に関する考えを述べます。
②チェックリスト確認
それぞれの役割をチェックし、シェアします。
③メトリック
リードリンクから与えられる目標をシェアします。
④進捗確認
プロジェクトについて、「前回のミーティングからどれほど進歩したか」「他人に手伝ってもらいたいこと」などをシェアします。
これら2つのミーティングを通して、ホラクラシーは上手く機能します。
まとめ
ホラクラシーには、上司・部下の関係性や肩書きは必要ありません。そのため、個々やチームで意思決定をすることができたり、生産性を向上させたりすることができるなど、さまざまな効果が期待できます。
しかし、ホラクラシーはメリットだけでなく、デメリットもあります。そのため、ホラクラシーを導入する際は、セルフマネジメントができる人材を集め、小さな単位から導入し、導入によるリスクを減らすことが大切です。