はじめに
2022年2月1日にLAPRAS株式会社の代表を交代された島田寛基さんへのインタビューをお届けします。
LAPRAS株式会社(旧株式会社scouty)は2016年創業。
履歴書不要の転職サービス「LAPRAS SCOUT」を手がけ、人材業界では異例のサブスクリプションモデルを採用。ユニークな取り組みにより注目を集めるスタートアップ企業。
進化型組織の一つ、ホラクラシー経営を実践している会社としても有名です。
※ラプラスの組織ハンドブックをウェブ上で公開されています。おもしろいので、ぜひ見てみてください!
2020年9月には3.5億円の資金調達を行い、これから!のはずですが・・・突然の社長交代を発表!
なぜ創業した会社を手放すに至ったのか?
そこに苦悩や葛藤はなかったのか?
今回は退任直後の島田寛基さん(以下、島田)に手放す経営ラボの所長、坂東がお話をお伺いしました。
ゲスト:島田寛基さん
2015年、京都大学で計算機科学の学士号を取得。大学時代にはGoogle(日本法人)でインターンシップのほか、Incubate Fundにてさまざまなスタートアップ企業でのテック面での支援を経験。2016年、イギリスのエディンバラ大学(The University of Edinburgh)大学院で修士号「MSc in Artificial Intelligence」を取得。2016年、日本初のAIヘッドハンティングサービスを運営する株式会社scouty(現LAPRAS)創業。5年半CEOを務め、2022年2月をもって代表を辞任。
社長を手放す!ここに至った2つの背景
坂東:本日はよろしくお願いします。
島田:よろしくお願いします。
坂東:正直、びっくりしました。まだ会社としても若いのに、早々に手放しちゃうんだって。
島田:あ、はい。(笑)
坂東:さっそく、ズバズバ聞いていきたいんですが…(笑)
ズバリ社長を手放そうと思ったきっかけはなんだったのでしょうか?
島田:そうですね。基本的には退任記事に書いてあったとおりですが、まず背景が2つあって。1つは、ある程度会社が自走できるカタチになったこと。
もう1つは、そのタイミングで自分に何ができるかを考えたときに、以前のようにバリューが発揮できない、と感じてしまったことなんです。
坂東:おぉ・・・。1つ目の「ある程度会社が自走できるカタチ」というのは、ホラクラシーの効果で?
※ホラクラシーに関しては島田社長のコラムをご覧ください。
島田:はい。会社の中で権限移譲がかなり進んでいました。自分の役割で残っていたのは、採用や資金調達、ビジョン策定くらいだったでしょうか…。
坂東:なるほど、そうだったんですね〜! 2つ目の「自分に何ができるかを考えた」というのは具体的にどのようなことを考えてみたんでしょうか?
島田:はい。選択肢は大きく2つ、新規事業を創るか、既存の事業を10倍スケールできるポイントを探す施策に取り組むか。
で、自分がやりたいのは新規事業だったので、そのアイデアを練りました。
坂東:ほうほう。
島田:もともとは代表を交代するという選択肢はなかったんですよね。
なので、LAPRASの中で新規事業をやろうと思ったんです。
だけど、やろうと思ったことが、あまり既存事業とうまく連動できるイメージが湧かなかったんですよね。だったらLAPRASとは切り離して考えた方が良いのではないか、と思ったんです。他のメンバーにも相談したのですが、最終的にそっちのほうがいいのかもしれないという結論になりました。。
社長が交代!その時、社長は、投資家は・・・!?
坂東:なるほど。社員さん達には止められなかったんですか?
島田:ビックリする人もいれば、応援してくれる人もいて、反応は様々でした。
坂東:そうだったんですね。ちなみに、今回、代表を手放す件について何が一番大変でしたか?
島田:うーん、やっぱり交代するという決断をするまでですかね。なかなか結論が出せなくて、でも状況が変わらなくて、ずっと悩んでいました。
坂東:言い出しにくかった?
島田:はい。とくに投資家の方々ですね。自分に期待して投資をしてくれている人たちだと思っていたので。
坂東:たしかに。「島田さんだから出資するよ」という投資家が多そうです。
島田:そう。簡単には納得されないと思っていたんですけど自分の気持ちを正直に話してみたら、わりと理解してくれて。それで少しほっとしました。そのあと社員全員に1on1をしたり、オフサイトミーティングしたり・・・、気持ちを伝え合うということをしました。
坂東:なるほど。すごく丁寧に進められたんですね。
島田:はい、ここはとても大事なことなので。
ホラクラシーでの権限移譲がうまくコツ
坂東:少し話を戻しても良いですか?
島田:はい。
坂東:先ほど、「権限移譲がかなり進んでいたから」とおっしゃっていましたが、権限移譲を現実化させるのってすごく難しいと思うんですよ。
島田:というのは?
坂東:ほら、よくあるじゃないですか。権限を渡したつもりで、実は責任だけ押し付けていたとか。
島田:あー、それに関して言えば、うちはホラクラシーを導入していたので、権限は完全にドメインという形で管理されていました。
※「ドメイン」とは他者が犯してはいけない領域のこと。優先的に意思決定することができる領域。
坂東:なるほど。でも仕組みがあっても、うまく機能するとは限らないと思うんですよね。
実際、ホラクラシーを導入しても、なかなかうまくいかない企業の話を耳にします。
島田:そうですね。そこはやっぱり採用の段階で自律できるポテンシャルがある人を採用していたのが大きいと思います。
特に後任の染谷さんがいなかったらこうはなっていないと思うし、仕組みと人と、両方必要ですね。ホラクラシーを導入するだけではうまくいかないと思います。
坂東:なるほど。ちなみにホラクラシーって運用コストがかかると聞くんですけど?実際どうでした?
島田:オンボーディングのコストはかかると思います。でも慣れたら楽ですね。ミーティングの効率もかなり上がります。同じフォーマットに従って行うだけなので。
※オンボーディング・・・採用した社員の「受け入れ~定着・戦力化」を早期に行なうための施策
坂東:育成の部分に関してはどうですか? よく「立場が人を育てる」と言いますが、役職のないホラクラシーではどうなんでしょうか?
島田:それでいうと「アサインが人を育てる」ということはあると思っています。
実際に、アサイン後にいきなり輝きだす人もいました。アサインされると言うことは、責務と権限を持つということ。小さい権限を少しずつ渡していくことで、結果的に上手く回っていたのではないかと思います。
坂東:あー、そうか! アサインを繰り返していくと、結果的に責務と権限を使うことが少しずつうまくなっていく。それが育成の要素になるのかもしれませんね。
島田:はい。あとは根本的な自分の性格もあったかもしれません。基本、面倒くさがりなので、どんどん権限移譲していくことに、特に抵抗がなかったというか。笑
坂東:あー、分かる。(笑) 全部、マッチしてたんだ。
島田:はい。
坂東:ちなみにホラクラシーのデメリットはありますか?
島田:そうですね。ホラクラシーというか、株式会社との相性には限界がある気がしています。
坂東:どういう意味ですか?
島田:責任者と意志決定者が明確に切り分けられない部分があります。
例えば、私がAというプロダクトが良いと思っているけれど、プロダクトチームの方針ではBがいいとなった場合。私には権限がないので、会社としてはBでいくことになるわけです。
坂東:はい。
島田:投資家の人に説明する責任を負っているのは代表である私なんですが、「私はAがいいと思ったんですけど、プロダクトチームの方針でBになりました」なんて言えないじゃないですか。
坂東:そうですよね。
島田:でも例えばこんなことはあり得るんです。
私はBがいいと思って、プロダクトチームにそれを伝えたら、僕たちはAが良いと思ってるので、このプロジェクト辞めます、とか、極端な話だと退職することもできるんですよね。
ただ、代表である私は通常、途中で辞めることが許されない。ホラクラシーの場合、責任はあるけど必ずしも権限があるとは限らない。
坂東:たしかに。それは辛いですよね・・・。
島田:とはいえ、権限移譲するという意思決定をしているのも自分なので、委譲している限り自分の意思決定だと思って考えないといけません。
坂東:なるほど。
島田:もともと私はモノづくりに興味があったんです。でも投資家目線で考えると、島田が何をしていようが関係ないじゃないですか。極端な話、事業が伸びて株価が上がっていけばいいので。
結果的に社員も輝いているし、それはそれで良かったのかなって思っていますけどね。
坂東:そうなんですね。その気持ちが、次の事業に対する想いに繋がっていたりするんでしょうか。
島田:そうですね。だから次の組織づくりはもう少し責任と権限をセットにしてやっていきたいなと思っています。
創業社長は辞められない? 新しいCEOの在り方
坂東:私はホラクラシーの仕組みは良く出来ていると思っています。そういった組織の場合、もしかしたら島田さんのような、プロデューサーというか、クリエイターのような方は、0から1までを終えたら、お役御免で次に行くというのが良いのかもしれませんね。
島田:まぁ経営者のタイプにもよるとは思いますけどね。
これまでは、創業者は少なくともイグジットまでやらなければいけないみたいな風潮があったと思うんです。
IPOしてしばらくしたら会長職になる、みたいな。
でもこれからの時代は、CEOの在り方も自由であっていいと思っていて。創業者だからイグジットまでやらないといけないというのではなく、途中で交代してもいいし、そのときどきでフレキシブルに一番良い人に渡していければいいんじゃないかな、と。
坂東:そうですね。ただ、私の感覚だとイグジットまでやらないともったいないと思ってしまうんですけど。(笑)
株はどうされたんですか?
島田:一部を残して、染谷さんに譲渡をしました。
坂東:え、そうなんだ!
島田:はい。やっぱり投資家としても、代表にはある程度インセンティブを持たせて、責任をもってやってもらいたいというのがあったので。
坂東:島田さん自身は納得してのこと?
島田:細かい条件などは完全に本意ではないものの、自分で言い出したことなので、そういう意味では納得感はあります。
坂東:じゃあ今後は株主として関わる感じに?
島田:取締役は辞任したので、株主として関わっていくという感じになると思います。
坂東:なるほどね。次の展望はもう決まっていらっしゃるんですか?
島田:はい。近々新しい会社を設立する予定です。詳細はまだお伝え出来ませんが、子供の頃からの夢を叶える方向にいきたいなと思っています。
子供の頃からゲームを作るのが好きで、そこに原点回帰しようかなと思っています。
坂東:なるほど。楽しみにしています。またお話きかせてください! ありがとうございました!
=================================
【編集後記】
「島田さん、いい人過ぎませんか?」
今回、編集に当たって正直な感想を述べるとするなら、この一言に尽きます。
自分で創業した会社の株を(一部を残したとはいえ)譲渡。責任は抱えつつ、自分のやりたいことよりも、社員のやりがいを優先。
淡々とお話されておりましたが、その葛藤たるや、想像を絶するものだったのではないかと、インタビューを聞いて感じました。
その反動かもしれません。次の事業のビジョンを語る姿が、まるで少年のようにキラキラしていて、とても印象的でした。
島田さんが創る次なる世界。
私も手放す経営ラボも、応援していきます!
ありがとうございました!