2024年11月18日に東京オート株式会社にて、DXOのDOJYOプログラムの内容を活用した「違っていいワークショップ」を行いました。今回は「一人一人の想いを大切にする組織」を目指す中村社長にワークショップを行った経緯や当日の様子を伺いました。
一人一人の想いを大切にする組織を目指し〜東京オートの社員126人で体験した「違っていいワークショップ」〜
大本菜美(以下、大本):まずお二人の自己紹介をお願いします。
中村浩志(以下、中村):中村浩志です。私は栃木県小山にある自動車販売会社「東京オート」の2代目経営者です。創業は東京ですが、今は栃木を拠点にしています。会社では自動車販売だけでなく、整備、車検、板金塗装、保険、レンタカー事業まで、車に関するあらゆるサービスを提供しています。正社員130人、パートナー含め200人以上が働き、5つの店舗とレンタカー拠点、テクニカルセンター、本社を合わせて8拠点で運営しています。個人的には去年秋に還暦を迎え、家族は妻と2人の子供の4人暮らしです。
乾真人(以下、乾):乾真人です。手放す経営ラボラトリーの第1号研究員として5年ほど関わっています。それまではサラリーマンをしながら化粧品のネット通販を運営し、「人と関わらずに生きるにはどうするか」を模索していました。でも、ある時孤独を感じ始め、ティール組織の本を読んで衝撃を受けました。自分らしく人と一緒にいられる組織が広がればいいなと思い、ラボやDXOに関わる中で浩志さんとも出会い、ここにいるという感じです。
ティール組織導入の失敗
大本:浩志さんが初めてDXOを最初に知った時はどんな風に感じられたんですか?
中村:同じ栃木に会社がある、お布団工房のゆうちゃんから「DXOって知ってます?」と言われ、気になったので検索してDXOのサイトに行きました。テキストを見た時は、「体系的になっているな」という印象です。動画で見た時も、一般民間企業のセミナーってほとんどトップダウン的なセミナーが多いですが、そうではない。本当にティールだなと感じさせるようなところがありました。難しい言葉を使わないでテキストや動画も作られていて、非常に根本的で深いものを感じていました。
これはやっぱり体験してみないとと思って、体験会に出て本当に良かったです。体験して思ったのは、やっぱりこれって理論とか理屈を知る、というより体験して感じてもらうのがいいなと思ったんです。会社でDXOのテキストを配って、読んでねと言っても多分読む人いないし、動画も全部見る人ってほぼいないだろうから。
DOJYOの触りだけでもいいから1回体験してもらうことで、共通の体験ができて、もっとこれから社内で話しやすくなるかなと。また、そういう世界に触れることで、こういうあり方もあるんだなというのを知ってもらうと、いいのかなと思い、今回の「違っていいワークショップ」という方向に向かっていきました。
大本:浩志さんがDXOの体験会の8期に参加されましたが、そこからすぐに今回のワークショップをやろうという話になったんですか?
中村:すぐではなかったですね。8期の体験会が終わった後で、DXOをどういう風に会社に導入しようかと悩んでいて、乾さんとZoomで1対1で話す機会もあり、相談しました。全社員が集まるビジネスミーティングの場でワークショップをできないでしょうかということで、今回準備したところです。
大本:DXOを導入したいと思ったのは、今後の東京オートさんの未来の世界観と通じる部分があったのでしょうか?
中村:というよりも、ティール組織を1回目指して大失敗したんです。今も成功してるのかというと失敗してるんですが、そもそも目指すもんでもないのを目指したということがつまづきでした。フラットな組織にしようと、全社員の給料を公開したり、評価も相互評価にするとか色々やったんですが、もう総スカンでした。退職する人も結構出たりとか。2年前に創業50周年を迎えましたけど、組織のあり方とかが曲がり角に来てて、うまくいかなくなってる。うまくいかなくなってるからと言ってティールを目指したけど、どうもうまくいかない。
目指すものとか目指す理想とか経営理念とか、そういうのを掲げてても、それって結局自分事にならない。社長が言ってることだからっていう話にしかならない。本当に悪い人はいないんだけど、人と人の間にうまくいかなくなってしまうことがあって、関係性が悪くなったり、業績が悪くなったり、他責になったりする。DXOは「人のあり方」を追求していくものだと感じていて、その「あり方」っていうのを改めて向き合って、お互いの「あり方」を認められていけば、人と人の間にあるうまくいかない事がなくなって、良い循環が生まれるんじゃないかと思ったんですよね。
DXOでは初めての120人規模のワークショップ
大本:ワークショップには準備とかどれくらいの打ち合わせを経て実現された形になるんですか?
乾:準備は多分ワークショップの3ヶ月くらい前でしたかね。その頃から準備していました。当日の参加者数は、126人になったんですがワークショップなので、理屈じゃなくて体験していただくことが大事。セミナー的に一方的に教える場になっても意味がないから、どうしたら126人の方に体験していただけるのかと言ったところを事前に打ち合わせさせていただきました。
インストーラーが、僕含めて4人が現場に行ったんですが、4人で126人の方にワークショップって難しいので、東京オートの社員の22名の方に、ファシリテーションをお願いしました。マックス6人のテーブルが22卓あったので、22名ほどになりました。事前にZoomで、どんな風にファシリテーションするのかといったことを理解してもらうために、22人の方向けのワークショップを開催して、当日はこんな形でファシリテーションしてくださいというお願いをしました。当日は、僕たち4人がファシリテーションしている方のフォローに入っていきながらという形で進めていきました。
大本:ファシリテーションをする22名の方は挙手制とか立候補制だったんですか?
中村:スタートは立候補制だったんですが、数名の方しか手を上げられなかったんで、最終的には各拠点から2、3人ずつ選んで欲しいという話になりました。その中で希望した人もいたかもしれませんが、選ばれる形で、ファシリテーターを担っていただいた方もいます。中には新入社員の方まで入っていました。
大本:1日で126人のDXOのワークショップをするというのは、初めての取り組みだったそうですね。実施する前はどんな心境でした?
乾:いやもうドキドキしてたというか、僕にとってもめちゃくちゃチャレンジなことでした。8人というのが1つの単位としてDXOの中で持ってるんで、ワークショップ自体は多くても16人くらいでやらせてもらうのが今まででした。120人こうやって1度にというのは未知の世界だったんで、最初は難しいんじゃないかなとも思いました。体験してもらうのに126人の方に一気にというのはできないんじゃないかなという気持ちもありました。やったことがないので、やってみないと分からないと思いながらも、せっかく浩志さんがそういう機会を作ったんで、なんとかそこには応えたいという思いがありました。
大本:浩志さんは、準備の段階で感じられていた期待とか不安なこととか、どんなことが頭にありましたか?
中村:全社員が集まるビジネスミーティングは、コロナもあって4年ぶりに開催ということになったんですが、以前から100名以上でワークショップをやったりしていたので、DXOは初めてでしたが、体験するということはできるのかなとは思ってました。やってみて、思った以上に真剣にちゃんと取り組んでくれていたのかなと思います。
過去のワークショップでは、勝手に離席してタバコに行っちゃう人がいたりというのがあったんですが、今回のワークショップは、ほとんどの方が離席したり、参加しないという方はあまりなかったです。全くいないわけじゃないですが。どうしてもそういう方も出てきちゃうんですが、でもほとんどの方は前向きに取り組んでくれていました。
私から乾さんとかに何度かお伝えしたのが、体験することに一番意味があること。その結果が成功か失敗と言っても何を持って成功か失敗なのか。私もティール組織を目指して失敗しましたけど、でも経験にはなるわけです。何らかの体験ができたら、もうそれでいいので、その体験を各自がどう受け止めるのかは、その人の考え方とか価値観にもよります。一般的なセミナーだと「今日は、こういうことを持ち帰ってもらいたいと思います」みたいなのを伝えたりしますが、DXOって別に持ち帰ってもらうものってないですよね。私としては、DXOを触りだけでも体験してもらったというところでは、意味があったと思ってます。
会社でも個人の感情を置き去りにしないコミュニケーション
大本:ワークショップ当日で印象的だった出来事はありますか?
乾:まず東京オートの社員の皆さんがワークショップに本当に前向きに参加してくださるその姿勢というか、スタンスみたいなところがすごいなと思いながら、見させてもらいました。多分それは、浩志さんが1回ティール組織をやろうとして失敗したとおっしゃってますが、そういう取り組みをされてきたことの積み重ねがあったからこそなんだろうなと思いました。
反対に僕個人的なことで言うと、僕のあり方が「せっかく126人も集まってDXOのことを体験してもらうんだから、どうしたらもっと変わるんだろう」とか「どうしたらもっと分かってもらえるかな」みたいなことがあって、何があってもいいというスタンスのあり方に、僕がなかなか入れなかったという反省はすごく持っています。
大本:普通は、浩志さんが「こういうものを持ち帰ってほしい」ってなりそうなところを、乾さんがそのように感じていたのが面白いですね。
中村:ティール組織で結構すっ転びましたからね。それに比べれば、ワークショップがうまくいかないというのはあんまり大きな問題じゃなかったんです。
乾:やらせてもらう方としては、本当にそれは助かるというか。とはいえ、126人もの方が集まってきて1日使うっていうのは貴重な時間じゃないですか。だから、なんとか持って帰ってもらいたいってどうしても思うんですよね。
大本:乾さんとしては願いとしてどんなこと持って帰って欲しいなという願いがあったんですか?
乾:「アイ・メッセージ」というのを、今回のワークショップの基本に置いたんですが、会社の中って、価値観を揃えていきましょうとか、1つの目標に向かって皆で一緒に、という中で組織が動いてるので、どうしても個人個人の思いとか感情みたいなことが置き去りになっていく。そんな状況の中でそれぞれで違ってても、それぞれの持ってるものを互いに認め合って、それを互いに大事にし合っていくという関係性ができたら素敵なことだなと思うんですよね。それをアイ・メッセージといった切り口から「こういう世界観もあるんだ」みたいなところを感じてもらえるワークショップにしたいという僕の欲が捨て切れなかったって感じです。
大本:めちゃくちゃ素敵です。社長である浩志さんがそのメッセージを前に出しすぎちゃうと、社員の方が圧を感じられたりする中で、浩志さんも「失敗してもいいよ」というスタンスでどんと構えて、代わりに乾さんが欲を持って挑んだというのもドラマを感じます。
中村:隠れた意図として、1つ私が成功したのは、乾さんが持って帰ってもらいたかったものと、私が持って帰ってもらったことが「アイ・メッセージ」というのは共通してるんですね。それは何らかの形で持って帰ってもらったと思います。組織力診断とか意識調査とかやっても関係性も良くないし、他責でユー・メッセージの世界なんですね。でも、アイ・メッセージだと思ったことを伝えることもできるし、それを伝えて、ディスられたりマウントされたりってこともない。「ここは安全だね」、「いつも話しやすいね」って感じることができる。それを体感すると強烈なユー・メッセージだったり、マウントしてくる人がいたら「あの人はユー・メッセージなんだな」とか「マウントしてるね」と分かるんですね。そうしないと「この人は圧があるな」とか「感じ悪いな」ってなる。
お互いのあり方って同意しなくてもいいんですよ。ただ否定はしないで受け止めているだけで認めるってことになるし、その方が自分の考え以外に他人の考えも分かって多様性も生まれるしいいじゃないっていう。そういう余白ができた時になんかこう少しずつ変わってくのかな。本当にその1粒の種を蒔いたという形になったと思ってます。
あえて伝えないワークショップの目的
大本:参加者アンケートではどのような反応がありましたか?
中村:ポジティブな点で言うと、お互いの考え方を知るいい機会になったねということで、お互いのメンバーの考えとか意見っていうのが知ることができたと。それは正しいとか判断したり評価するという場ではなく「そう思うんですね」って受け止め合う場だからコミュニケーションの向上に繋がったと感じてます。あと、お互いを褒め合うことでモチベーションが上がったと。別に意図的に褒めてるわけじゃないんですが、ポジティブなフィードバックはしますよね。「それは違うと思います」みたいなフィードバックしかしなくて。新たな考え方の導入ですね。普段他のチームの人ってほとんど交流がないので、そういった人たちと交流することで新しい視点、考え方を得ることができたという人が多かったです。
ネガティブなコメントっていうわけではないんですが、「ワークショップの目的を明確化すべき」、「何を目標にしたワークショップなのか理解できません」と。ですが「アイ・メッセージを持ち帰ってもらいたいです」っていうのを、出しても良かったかもしれないけど、「今日はこれを持ち帰ってもらえます」って目標をかけるわけじゃないですか。だからこれはいいのかなという感じですね。
乾:アンケートは事前に僕も見させてもらっていて、その感想に対して僕も浩志さんと同じような感覚を持っています。感じてもらいたいということと何か身につけて欲しいという研修的なこととって、その世界観の違いがそれこそティールの世界観なので仕方ないというか。そこの世界観の違いを橋渡しするのがDXOの役割だと思ってるから、そういった意味では感じ取ってくださった方と、なんだこれって思った方がいらっしゃるということで、ちょうどその間をやるのかなって思いました。
中村:これまでの「今日はこれを持ち帰って明日から必ずこの3つだけは実行して成果を出しましょう」みたいな感じの研修に慣れてる人からすると、これは一体何を意図してるんでしょうってなっちゃうんですね。
そういう「この研修何なんだよ」ってなるだけで成功だと思っています。それって違和感を感じてるじゃないですか。なんか違う世界観が入ったんですよ。それが拒絶だったり、わけわかんねえでもいいんですが、とにかく受け取ってくれたってことですよ。その人の中にあるものとはちょっと違う異物で「何なんだろうこれは」って考え始めますからね。
大本:今回のワークショップを受けて、今後どのようにしていきたいか教えてください。
中村:2つの方向で考えています。1つの方向としては、年に1回でいいからこういう機会を今後持てると良いなと。もう1つは、各現場の長の人と対話する機会を毎月持っているんですが、人間関係とかがうまくいかなくて困ってるというところがあったんで、じゃあDXOをやってみようかっていう方向に持っていけたらなと。ニーズがないところにやろうって言うとティール組織で失敗して、今度はDXOをかよってなるんで、やはりトップダウンだけでやるのは違うと思っています。もう少し人と人の間が良くなって、お互いを認められると、もっと力を発揮できるようになると思ってる所です。
ワークショップを通じて、すごい自分が問われるなと思ったんですね。結局自分って何をしたいんだろって。何を感じたいんだろっていう。「これをやりましょう」とかっていう形で押しつけちゃうと、自分はどうありたいのかとか、自分はどう感じるのかっていうのは薄まっていくと思うんですよね。しかも答えはないじゃないですか。
そういった意味で、DXOを実際に導入してうまくいった会社、時間がかかっている会社それぞれあると思いますが、5年から7年くらいかけて、ゆっくりと気がついてくでもいいかなと思っています。強制じゃなくて、とりあえずまた今年もこういう場を提供しますよと言っていう感じですね。
自分の体感を大事にする
大本:最後にそれこそDXOを自分の会社に取り入れたいなと思われている社長さんとか、DXOにすごく興味を持ってる方に向けて、一言メッセージをお願いできればと思います。
中村:これも出会いなんで、出会うべくして出会うっていうのもあるし、何らかの形でDXOに出会って興味持ったら、体験するっていうのをお勧めしますね。テキストや動画で世界観とか理論的なところは理解できるんですよ。でもやっぱり感じるものなので。もっと言うと、うちも車売ってますけど、なんでお客様が車を買うのかって言ったら、安いからとか、このスペックが気に入ったからとかっていうよりも欲しいから。やっぱりエモーションがあって初めて買うし、買うんだったらこの人から買いたいってなるのが一番理想的ですよね。だからそれと同じようにDXOについても、理論体系が素晴らしいとかこのロジックがいいとかじゃなく「なんかこの感じがいいんだよね」っていう。ともすると今までそれって曖昧って言われたんだけど。でもその感情ってあんまぶれないと思うんですよね。
乾:150人近くいる会社の社長さんから目標に向かうんじゃなくて、体験、体感を大事にして欲しいって言えるってすごいことだと思うので、出会いとおっしゃいましたが、僕たちも浩志さんと出会えて良かったなと思います。
中村:僕も乾さん、大本さんに出会えて良かったです。
大本:すごいほっこりしました。ありがとうございました。