ティール組織(進化型組織)について解説します
新しい組織の形とされる「ティール組織」は、近年様々なメディアに取り上げられ、日本にも浸透してきました。ティール組織は、ホラクラシーや自然経営といった進化型組織の一つとして捉えられています。
その中でもティール組織は、従来の組織モデルが抱えてきた問題点を克服できる可能性を持っていることによって、大きな注目を集めている組織モデルです。
この記事では書籍に基づき「ティール組織の概要」や「ティール組織とそれ以外との違い」「ティール組織を目指す上でのポイント」について解説します。会社経営や人事に関わる方は、ぜひご参考ください。
目次
2-1. Red組織(衝動型組織)
2-2. Amber組織(順応型組織)
2-3. Orange組織(達成型組織)
2-4. Green組織(多元型組織)
2-5. Teal組織(進化型組織)
3-1. エボリューショナリーパーパス(存在目的)
3-2. セルフマネジメント(自主経営)
3-3. ホールネス(全体性)
4-1. ティール組織が最も優れているわけではない
4-2. ティール組織は業種や規模に関係なく適用させることができる
4-3. ティール組織は手法ではない
1. ティール組織とは?
「ティール組織」とは、フレデリック・ラルーが2014年に書籍『Reinventing Organizations』で提唱した組織理論のことです。
日本語版である書籍『ティール組織』は、2018年に発刊され、従来の組織論とは一線を画す新しい組織モデルに、大きな反響を呼びました。
ティールは、青緑色という意味の英単語です。
ラルーは、組織の進化過程を5つに分類した上で、それぞれのモデルを色分けしました。その中で、最も新しい組織モデルをティール(青緑色)で表しています。
ここで提唱されたティール組織とは、「目的に向かって、組織の全メンバーがそれぞれ自己決定を行う自律的組織」のことを指します。ティール組織では、上司が部下の管理を行わないなど、従来の組織モデルでは考えられなかった特徴をもっています。
ラルーの書籍が、日本語版で『ティール組織』というタイトルで発刊されたこともあり、ティール組織という言葉は、日本国内で広く知られるようになりました。
しかし、ティール組織が具体的にどのような特徴・性質を持つ組織形態であるかを理解している人は多くありません。
そこで以下では、「ティール組織と他の組織モデルとの違い」や「その具体的な特徴」について詳しく解説していきます。
2. ティール組織に至るまでの5つの段階
組織の進化段階は、最終形態であるティール組織を含めて、5つに分けられます。5つに分けられた進化段階の色分けは、次の通りです。
ここでは、最も原始的な組織形態であるレッド組織からティール組織まで、各進化段階について、順番に解説します。
2-1. Red組織(衝動型組織)
レッド組織は、今から1万年前に生まれた最も古い組織形態です。現在でも、マフィアやギャングなどに、レッド組織が存在します。
「オオカミの群れ」であるとレッド組織は称されるように、圧倒的に強い力を持つ個人による恐怖支配が特徴です。レッド組織の秩序が恐怖支配に基づく理由は、自己中心的な考え方のメンバーによって組織され、自分以外の人間を脅威であると相互にみなしていることによります。
リーダーは、恐怖によってメンバーを支配することで自身を脅威から守り、他のメンバーは自身の安全を守るためにリーダーに従わなければなりません。個人の力に大きく依存しているため、再現性の低い組織であることも特徴です。
レッド組織の焦点は、現在のみに当てられているため、短絡的・衝動的な行動が多く見られます。
2-2. Amber組織(順応型組織)
アンバー組織は、権力や階級、制度などの概念が組み込まれた組織モデルです。政府機関や宗教団体、軍隊などがアンバー組織に該当します。特に、「軍隊」のような階級制による上意下達の組織であることが特徴です。
個人は自己中心的な欲求によって行動するのではなく、組織の中で自身に割り振られた役割に沿って行動します。その結果、特定のリーダーに依存する必要がなくなり、再現性が高く長期的に安定して継続できる組織モデルとなりました。
アンバー組織内は、ピラミッド型の権力構造によって構成されており、トップダウンで指示が下されます。ルールに基づいて安定的な運営ができることが長所です。しかし、同時に常に同じような手法で業務が行われるため、変化に欠けています。
競争よりも階級構造の秩序が重んじられ、変化の多い時代には十分な対応ができないことも事実です。
2-3. Orange組織(達成型組織)
オレンジ組織は、基本的な階級構造は維持しつつも、環境の変化に柔軟に適応できるように発展した組織モデルです。現代の一般的な企業は、オレンジ組織に当てはまるとされています。
オレンジ組織では、ピラミッド型のヒエラルキーが存在しますが、個人は成果を挙げることによって昇進できます。そのため、より柔軟で時代にあった才能を活かすことができ、イノベーションを可能にできる点が特徴です。
成果を挙げることを第一の目的としており、効率を追い求めるために、徹底した数値管理がオレンジ組織では行われます。このような運営形態によって、時にオレンジ組織は「機械」に例えられる点が特徴です。
成果によって昇進が可能とする制度は柔軟さを生み出す一方で、メンバーに対して常に変化対応と生存競争を求めることに繋がりました。その結果、オレンジ組織は、人間らしさを失い、過重労働のような労働問題を引き起こしています。
日本でティール組織が話題を集めた背景には、このような組織のあり方に対して、働き方改革のような形で見直しが求められている現状とも符合していると言えるでしょう。
2-4. Green組織(多元型組織)
過度な競争により人間らしさを失ったオレンジ組織に対して、より個人が人間らしくあることを追求した組織形態がグリーン組織です。グリーン組織は、家族的だと称されることもあります。各メンバーの主体性を尊重し、現場に十分な裁量を与えるボトムアップ式の意思決定プロセスが特徴です。
組織のリーダーは、メンバーにとって活動しやすい環境を作り、あらゆる制限や差別を撤廃することによって、全ての人が平等に機会を得られるように気を配ります。グリーン組織において、リーダーの役割とは、縁の下の力持ちとしてメンバーを支えることです。
協働・協力を理念に掲げるグリーン組織では、多様なメンバーのコンセンサス(合意)を重視することで、全てのメンバーにとって働きやすい環境を目指します。
しかし、コンセンサスを重視するあまり、意思決定プロセスが膨大となり、企業の場合はコンセンサスを得ている間に、ビジネスチャンスを逃してしまうというデメリットもあります。さらに、メンバーの多様性は認めているものの、組織内のヒエラルキーは残っており、決定権限はマネジメント側にあることがほとんどです。
2-5. Teal組織(進化型組織)
ティール組織は、組織を「一つの生命体」として捉えます。各メンバーが体の組織のように自律的かつ調和的に協働するためです。これまでの組織とは異なり、強力な権限を持つリーダーが存在せず、現場のメンバーが多くのことを決定するという特徴があります。
ティール組織は他の組織モデルと比べて、現場での意思決定が最大化される理由は、メンバーが組織の社会的使命を明確に意識し、理解しているためです。メンバー間のコンセンサスを得ることよりも、目の前の課題を解決させることの方が、組織の目的を実現するためには重要であると考えられています。
そのため、ティール組織は、グリーン組織のように意思決定に多大な時間を要することもありません。
ティール組織は全メンバーが対等に渡り合える環境を実現しています。組織はメンバー全員のものであり、各メンバーが組織の目的を達成するために必要な行動を取ることができると考えられている点が、ティール組織の特徴です。
ティール組織のメンバーは、個人が自己実現を目指す過程で生まれる集団の力を信じ、組織の社会的使命実現を目指します。「組織に対して自分ができる最善のこと」と「自分の目標」が一致しているため、メンバーは常に自己成長を続けながら活動することが可能です。
3. ティール組織において重要な3つのポイント
現在、ティール組織であるとされる企業は複数あります。しかし、登場したばかりの組織形態であるため、ティール組織を確立できる明確な手法は、まだ存在しません。
しかし、ティール組織の企業には、いくつかの共通項が存在します。中でも、ティール組織の提唱者であるラル―が重視する考え方が、次の3つです。
ここからは、ティール組織の根幹をなす3つの考え方について、解説します。
3-1. エボリューショナリーパーパス(存在目的)
エボリューショナリーパーパスは、「存在目的」と訳されます。
従来型の組織形態では、固定化された目標を追求することが、メンバーには求められていました。しかし、ティール組織では、環境の変化などに応じて、組織の目的も常に進化すると考えられています。
ティール組織のリーダーは、常に“耳を澄ませ”、「なんのために?」と、組織の存在目的を確認し続けることが必要です。その結果、組織が陳腐化していくことを防ぎ、生命体のように組織自身を変化させ続けることができます。
ティール組織におけるエボリューショナリーパーパスの例として有名なものが、会議における「誰も座らない椅子」という空席です。これは「組織の存在目的」を表すもので、常に目的を確認しようというメッセージであり、また必要に応じて、誰かが着席し組織の声を代弁することができます。
このように、組織が現在どのように変化しているのかを意識することで、新たな目的を求め進化し続ける組織を形成することが可能です。
3-2. セルフマネジメント(自主経営)
セルフマネジメントは、日本語で「自主経営」と訳されます。
ティール組織は、旧来組織のようなヒエラルキーに基づく指示系統を持ちません。そのため、主体性を持つ各メンバーが自身の裁量で意思決定を行うことができます。意思決定を社員全員が行うために、会社の情報は基本的に開示されており、透明性が保たれている点が特徴です。
この意思決定を適切に行うためには、他者の助言を得られるシステムが確立されています。しかし、裁量権はあくまでメンバー個人にあり、その判断は尊重されることが基本です。
組織をより良くするためのアイデアがあれば、各々で実験し、その過程で生まれるメンバー間の協力により賛同者を集めることで、大きなプロジェクトにすることができます。上司から一方的に指示されることはありません。
セルフマネジメントの考え方では、社員に大きな裁量を与えるため、経営者は社員を信用することが不可欠です。互いに信頼感を持って働くことで、それぞれが自律的に思考し、イノベーションが生まれやすい環境となります。
3-3. ホールネス
ホールネスは、日本語で「全体性」と訳されます。
ティール組織では、各メンバーが自分の力を最大限に発揮できる環境を作ることが欠かせません。そのため、ティール組織を目指す企業は、メンバーがありのままの自分自身を出せる場所でなければなりません。
これまでの企業は、自社の利益に繋がる側面でのみ社員を見てきたため、社員も会社とプライベートの顔を使い分けることがほとんどでした。しかし、そのような状態では、メンバーが持っている本来の力を発揮することはできません。
ティール組織は、個人の多様性を最大限尊重することで、心理的安全性を確保します。安心して各メンバーの個性を最大限に発揮できる環境を作ることにより、自分と組織が持つ目的のために最大限の力を発揮することが可能です。
ティール組織を目指す企業の中には、自分らしく居られる環境を作るために、勤務中の社内に子どもやペットを連れて出社できるところもあります。
4. ティール組織に対するよくある誤解と正しい認識
ティール組織は、近年誕生した組織形態であるため、誤った認識を持つ人も少なくありません。
そこで、「ティール組織に対する一般的な誤解例」と「ティール組織への正しい認識」を解説します。自社組織のティール組織化を検討している方は、正しい認識を獲得するために、ぜひご確認ください。
4-1. ティール組織が最も優れているわけではない
確かに、組織発達の歴史から見ると、ティール組織は最も進化した組織形態ですが、あらゆる組織と比べて、最も優れたモデルであるとは言い切れません。
組織の目的やメンバーの個性などによっては、ティール組織ではない組織形態が望ましい場合があります。例えば、軍隊や警察のような組織では、指揮命令系統が明確なアンバー組織が望ましいです。
ティール組織は、従来の組織形態にあった問題を解決し、新しい組織の在り方を提示しました。しかし、組織の目的などによっては、ティール組織以外の組織が望ましい場合があることについて、理解することが大切です。
4-2. ティール組織は業種や規模に関係なく適用させることができる
ティール組織は、小規模なスタートアップや一部の業種にしか適用できない組織形態ではありません。ティール組織を形成している企業の中には、数万人の社員を抱える企業も多く、業種も様々です。
提唱者のラル―たちが、実際にティール組織を形成している企業について、リサーチを行った結果、企業規模や業種にはバリエーションがありました。数万人規模の大きな組織においても、組織とメンバーの間に信頼関係が構築されれば、既存組織からティール組織へと生まれ変わることは可能です。
4-3. ティール組織は手法ではない。
ティール組織とは、手法(具体的な手続き)ではなくパラダイム(認識の枠組み)です。
ボトムアップなプロセスにより、社内全体で目的を共有し、常に目的を問い進化し続けることによって、組織の保守化を防ぎ、革新的な組織経営へと繋がります。
現在、ティール組織であると分類されている企業の多くは、その発達過程で組織とメンバーの意識改革を続けた結果、ティール組織へと進化しました。決して、ティール組織を最初から目指していたわけではありません。
そのため、ティール組織を形成する具体的かつ明確な方法論は存在せず、それぞれの組織によって、改革のプロセスは異なります。
ティール組織が持っている3つの特性(エボリューショナリーパーパス/セルフマネジメント/ホールネス)を自社で実現する不休の努力こそが、具体的な方法論ともいえるでしょう。
まとめ
ここまで書籍『ティール組織』をベースに解説してきました。
ティール組織は、組織形態の進化過程において、最も新しい組織のモデルです。従来の組織に生じていた問題を克服し、「意思決定の素早さ」と「組織とメンバーの成長」を可能にできる組織モデルといえます。
ティール組織では、メンバーと組織の信頼関係を構築し、メンバーが自律的に意思決定を行える環境・制度が欠かせません。そのため、既存組織を一朝一夕でティール組織化することは困難です。
しかし、企業組織の規模や業種に関係なく、組織とメンバーの意識改革によって、ティール組織に近づけることはできます。働き方改革が重要な企業課題となる中で、ティール組織への理解を深めることは、社員が持つパワーを最大限発揮できる組織へと進化し、ひいては会社のビジョンを実現できる組織となることでしょう。
手放す経営では、こういった進化型組織へと進化するためのサービスを提供しています。
詳しくは、サービス案内をご覧ください。