上場準備まで進めていた株式会社フリープラスですが、2019年6月、管理と統制が求められる上場企業とは真逆のティール組織への移行を宣言。(※「ティール組織」の解説はこちら)
手放す経営ラボラトリーでは1年という長期に渡って、FREEPLUSの組織改革に密着させてもらうことになりました!具体的に会社に起こる変化を、リアルタイムで発信していきます。第2弾では、給与制度を改革するにあたっての紆余曲折に切り込みました。
ティール組織への移行は、想像以上にやることがなかった。
坂東:ティール組織へと移行するにあたり、具体的に何をどう変えたんでしょう?
須田:想像以上にやることはなかったです。
坂東:え〜!そうなんですか。
須田:なぜかと言うと、ティール組織の理論では、あまり細かくルールで縛ったりしませんから。最低限の枠組みを作り、後はメンバーに任せる方がいい。今まで色々やってきたことを考えると、全然楽ですね。
坂東:なるほど。ティール導入にあたって社内で議論はあったんですか?異論とか反論は?
須田:もちろん議論や反論はありましたが、そんなのは聞かないです。
坂東:おっと!、き、聞かない!?
須田:ティール組織は導入しない方がいいと言う類の意見は、参考にしませんでした。
坂東:ハッハッハッ(笑) そこはゴリっとトップダウンなんですね!
須田:やると言ったらやる。ティール組織の書籍にも書いたあるように、”ティール組織の考え方と相反するが、すでに組織が出来上がっている場合は、CEOの強い意思決定による導入が必要。
その通り、ティール導入時には圧倒的な意思決定権を行使しました。
坂東:なるほど。でもその通りだと思います。組織の基本的なデザインを決めるのは経営者の役割ですからね。
須田:俺はやる。メンバーが、やりたいとかやりたくないとか、知らない。嫌な奴は辞めたらいいって感じでしたね。
坂東:覚悟決めてますね。ティール組織を導入するにあたって、タスクフォースチームがあったようですが、そのメンバーはどうやって決めたのですか?
須田:公募です。
坂東:やりたい人が集まったのか。じゃあ、そこからは楽ですね。
須田:そうですね。そこから話は早かったです。例えば、ティール組織の書籍の中で『非常事態宣言』ってあるじゃないですか。その宣言が発動されたらピラミッド型組織がパッとできて、指揮命令系統ができるという仕組み。「どういう状況になれば非常事態宣言って出せるんだろう?」と一度チームで議論になったんですが、結局みんなが本当にFREEPLUSのことを考えていたら、そんな仕組みって要らないよねと行きついた。
坂東:そもそも誰が非常事態宣言を出すんだ?ということですよね。
須田:そうそう。全員が会社の存在目的に向かって動いていれば、指揮命令系統が必要になったときには勝手に生まれる。いちいち制度として作ること自体が違うんじゃないか?と。非常事態宣言の仕組みって、社長を筆頭とした役職者が自分に権限を戻すための防衛ラインに過ぎないので、本当の意味でのティール組織であれば、そんなのは要らない、と。
坂東:他には、具体的に何を変えましたか?
須田:役職をなくしたり評価制度を変えたり色々やりましたが、大きかったのは結果として上場企業になることを諦めたことですね。
坂東:うぉ~~~!そうきましたか!
須田:上場企業に近い形で会社を運営(管理・統制の仕組み)していた会社がティール組織へと移行するんですから、かなり大きな変化ですよね。社長個人のオペレーションを変えるのとはわけが違う。そういう意味ではうちは事例としては面白いと思いますよ。
坂東:確かに!これから1年間密着するのが楽しみです。ティール化しようと決めたとき、上場はやめるという意思決定が出たんですか?
須田:やめると言うか、ティール組織をとるのか上場するのかの選択ですね。
管理と統制して上場しても自分がやりたいと思っていた組織とは違うと思ったのです。
坂東:上場準備する中で、管理型の組織になっていくことに違和感があった?
須田:僕は管理されるの大嫌いですから。でも、自分がやりたいことをやるには、そうした社会の枠組みにはまらないと無理だと思っていた。
坂東;なるほどなるほど。それがティール組織に出会って考え方が変わった、と。
須田:そういうことです。
給与制度改革で社長の月給は、手取り22万円に。
坂東:給与制度はどう変えたんですか?
須田:それまでバリュー給という独自の評価制度を運用していたのですが、無くなりましたね。
坂東:無くなったんですね(笑)
須田:うちの報酬体系って、2008年からずっと360度評価だったんです。当時から僕は『特定の人間の評価が介在しない』ということが大好きだったので。
坂東:なるほど、もともとそういう感覚だったんですね。
須田:特定の誰かが評価するとなると、悪いこと考えるやつが出てくるので。後はもともと売上とか利益とかそういうことでも評価していないですね。
坂東:まさに、上場企業ではありえない文化(笑)
須田:最初は、FREEPLUSの文化にマッチする仕事をしているか、という定性的な基準をもとに全員で評価し合っていました。それで、評価が高い人は3か月に1回定期昇給していくというシステムで11年くらいやってきたわけです。ただ、多くの人が3年以内に退職してしまう。定期昇給って長く働いている人がメリットを享受できる仕組みなので、途中からあんまり意味を成さなくなっていました。
坂東:確かにそうですね。
須田:そこで、バリュー給という評価制度を考えて導入したんです。360度評価という点では同じですが、定期昇給は無しにして、単純にバリューが高い人に給料を多く出そう、と。過去3ヶ月の全チームの成果を公表して、どのチームが結果を出してきたか、どのチームがこれから結果を出しそうか、どのチームが会社にとって必要不可欠か、数字を見てドライに評価する。で、いちばん多くの票を集めたチームに給与の財源を多く分配しました。
坂東:なるほどねえ。でも、それも無くしたと。
須田:無くしましたね。
坂東:これからはどうなるんですか?
須田:5月に自己申告プロセスってのをやりまして。
坂東:あ~、それはもうすでにやったんですね。
須田:終わりました。6月からティール組織へ移行しているので、6月からの給料は自己申告で決まっていますね。
坂東:給与原資の総額はどうコントロールしたんですか?
須田:一切コントロールしてないです。
坂東:ん?してない!?
須田:してないですね(笑)
坂東:マジっすか!それでどうなったんですか?人件費総額の想定をオーバーしたりはないんですか?
須田:してないです。給料の上限も設けずにオールフリーではじめたんですが、給与の変化の幅は80%~130%くらいに収まりました。
坂東:想定内に収まったんですね。これは本当に興味深い。みなさん、何を基準に自分の給与額を決めたんでしょう?
須田:自己申告の前に、会社の財務状況をまとめた資料を全員に渡したんです。会社全体の収益はこうなっていて、どこの部署がいくら収益を出しているぞ、と。それを見たうえで「この四半期で自分はこれをやります」という宣言とともに1回目の給料申告をしてもらう。そうして集めた各人の申告額に加えて、「これをそのまま実施すると会社はこうなります」という予測や、各人の給与の増減額、給与額ランキング等のデータを全社員に公開したんです。
坂東:元々の給与額も公開したんですか!それは思い切りましたね。
須田:個人的には、思い切った感はまったくないですけどね(笑)
坂東:ハッハッハッ!(笑) 社内はかなりザワついたはずですよ!(笑)その後は、どのような給与決定のプロセスが?
須田:公開された情報を見て、同じチームの人には必ずフィードバックを実施します。内容は、選択式と自由記述式の2種類。選択式の場合、選べるのは「高いと思う」「低いと思う」の2択だけ。「適正」という選択肢はないんです。それがあると、みんなそっち選んじゃうから。
坂東:よく考えずに「まあ、いいんじゃない?」というのはナシだと。。
須田:そうそう。それはダメだよ、と。後は、自分のチーム以外の人にもフィードバックしたい人がいれば自由にしていい。で、その周りからのフィードバックを見たうえで、2回目の申告をするんです。
坂東:1回目と2回目で結果は変わりました?
須田:見てないですね。
坂東:見てないんですか!ハッハッハッ(笑) 想定していた人件費を超えてたらどうなってたんですか?無視ですか?
須田:無視です。そうなったらしょうがない、と。
坂東:すごい、肚くくってますね!。ところで、須田さんはどうなったんですか?
須田:ティール導入前に実験的にやろうと思って実施したのですが、結果的に下げてみました。笑
坂東:ハッハッハッ(笑) いくらになったんでしたっけ?
須田:手取り22万円です(笑)
坂東:すごいなあ。でも、すごくわかりやすい。須田さん自らが先頭切って行動で示しているから、社員の皆さんも実行せざるを得ないですよね。
給与を決める権限を移譲せず、権限移譲してるとは言えない。
坂東:意思決定プロセスについても、機能していますか?
須田:そうですね。事前に色んな方から「権限委譲しても、社員はいきなりそんなに意思決定してくれないよ」なんて言われてたんですが、うちの社員はみんなめちゃくちゃ意思決定してます。すごい変化していて、面白いですね。
坂東:目に見えて変わってきた?
須田:というか、聞こえてくる。ティールを導入して3日後くらいに、ある社員から声がかかって。「僕、バンコク子会社に移ることにしました。ビザ発行するんでサインしてください」って書類を渡されたんです。すぐサインしました(笑)
坂東:すごい!めちゃくちゃティールっぽい(笑)
須田:3日目ですよ。すごいですよね。
坂東:まあ、もともとそういう素地があったんでしょうね。
須田:素地はありましたが、全然物足りないと感じていた。結局、社員の主体性とか意思決定って、給料を自分で決めてもらわない限り生まれてこないんです。
坂東:本当にそうですよね。
須田:ティールの良いところだけ取ろうとしてもダメ。本当の意味で社長自身がどれだけ腹をくくれるか、どこまで社員に権限を付与できるのか。そこを中途半端にしちゃうと、ティール化のメリットは取れない。
坂東:結局、意思決定とかセルフマネジメントって「自分で自分を経営してください」ということ。なので、究極的には待遇とか給与まで自分で決められないと片手落ちになってしまうんですよね。
須田:やるからには覚悟を決めて本気でやらないと。
坂東:ありがちなのは「マネジメントの手法として、活用できそうだ♪」とツールとして考えるパターン。、リーダー自身は変わることなく、メンバーのマネジメントだけにティールを取り入れようとするケースをよく見ます。
須田:何が良い悪いではないですが、ティール組織でないなら、グリーン(多元型パラダイム)の組織だよってきちんと周知すべきだと思います。なぜならば、ティール組織導入と言われているのに、実際にはそうじゃなかった時、社員はきっとショックでしょうから。笑
合意された期待を形成し、合意されていない期待を排除すべきだと思います。
坂東:だからうまくいかないんです。「こんなに社員に権限を渡しているのに、なんでもっと自主的に意思決定してくれないんだ」とリーダーは訝るんですが、社員からすると、結局大事なところは渡されてない。だから「中途半端に権限委譲って言われても、意味ないよね…」と感じるんでしょうね。
須田:それはそう思いますよ。だからやっぱり、代表者の腹くくりの問題なんだと思います。
坂東:たとえ給料が22万円になっても(笑)
須田:そういうことです(笑)
売上目標も事業計画もない。すべて社員の意思に任せる。
坂東:売上目標とか事業計画はどうなってるんですか?
須田:無いです無いです。
坂東:おぉ、それも!
須田:はい。今までは上場も準備してたので、中期計画とかゴリゴリ作ってましたけど。
坂東:ぜんぶリセット、ですか?
須田:無くしましたね。
坂東:ハッハッハッ(笑) 各チームとも、自由にやってる感じですか?着地予測はどうですか?
須田:着地予測は出しています。なぜなら会社の倒産リスクをはらんでいるから。あと、それがないと銀行とも会話できないですからね。飛んでる飛行機の計器のような物です。
ただ、目標のように「着地予測に向かってがんばれ」とは言わない。チームで目標とか計画を設定するかどうかも含めて、全部自分で考えてくださいっていう感じですね。
坂東:なるほどねえ。幹部会議とかはもうやっていないんですか?
須田:それは元々やってなかったです。すべてLINEでやり取りする程度で。
坂東:ちょっと未来の話になるんですが、今後、既存のインバウンド系事業から離れたところで事業展開することも考えてるんですか?
須田:そうですね。インバウンドに縛られないように会社の存在目的を変えたので。
坂東:具体的に今後やりたいことは?
須田:新規事業として観光施設を今一つ立ち上げようとしているんですが、それ以外はまだ何も決まっていない。もともとあまり事業欲がある方じゃないので(笑)
坂東:これから出会う人や入社してくる人材によっても、未来はガラッと変わるんでしょうね。でも、そっかそっか、事業欲はそんなに強くないのか(笑)
須田:そうですね。僕、下手だと思いますよ。事業やるの。
坂東:ハッハッハッ(笑)
須田:ただ、事業よりも「人間とは何か」みたいなことを考えるのが好き。人間から派生する「組織とは何か」とか。だからちょっと特殊なタイプの経営者かもしれない。
坂東:わかります。ティールや次世代型の組織を追求する人って、こうした哲学的なことを考えることが好きな人は多いですよね。
須田:あ~なるほど。ぜひ話してみたいですね。
坂東:「そもそも」とか「何のために」が口グセみたいな人ばっかりです(笑) どこかで集まる機会を設けましょう。今日は本当にありがとうございました!
上場企業とは真逆の方向に舵を切った株式会社Freeplus。様々な施策を進めた結果、会社の未来はどうなるのか。手放す経営ラボラトリーでは引き続き密着取材を続け、組織に起こった大小さまざまな変化をリアルタイムで発信します。