2007年創業、従業員数350名を超える株式会社フリープラス。訪日観光関連事業を通じて、世界中に日本のファンを増やしてきました。そんなフリープラスが2019年6月、ティール組織への移行を宣言。(※「ティール組織」の解説はこちら)
何がきっかけだったのか。具体的に何をどうやって変えるのか。そして、組織改革は成功するのか。手放す経営ラボラトリーでは、創業者である須田社長に密着取材を敢行。これから1年に渡り、失敗も成功もすべてリアルタイムでオープンにしていきます!
(写真左)株式会社フリープラス 代表取締役リードリンク須田 健太郎
1985年 マレーシアのクアラルンプール生まれ
2006年 流通科学大学 中退
2007年 株式会社フリープラス 設立
訪日観光業に特化したベンチャー企業
従業員:351名
(写真右)株式会社ブレスカンパニー 代表取締役 坂東孝浩
早稲田大学卒業。2011年株式会社ブレスカンパニー設立。これまで規模の大小を問わず多種多様な組織の課題解決に携わってきた。しかし、環境の変化が激しさを増してくるとともに、社員教育や人材採用などの各論では根本的な課題解決ができないと感じ始め、2018年手放す経営ラボラトリーを設立。「“人が集まる組織“への進化」をテーマに、最先端の組織や経営スタイルを研究。自社でも“手放す経営“を実践している。
「行くのが楽しみで仕方ない」。そんな会社を作りたかった。
坂東:なぜティール組織へ移行しようと思ったんでしょう?
須田さん(以下敬称略):大学生の時に、「大人ってなんてつまらなそうなんだろう」って思ってたんですよ。朝の満員電車に乗ってる人たちを見て。
坂東:わかります。死んだ魚みたいな目をしてる人とかいますね。
須田:大学生の自分は、良い時も悪い時も感情をストレートにぶつけ合っていた。将来の夢を情熱的に語ったりとか。でも、それって大人になると『格好悪いこと』になっちゃうのかなと感じていたんです。
坂東:確かに大人って、妙に冷めている人が多い。
須田:「ありのままで生きた方が楽しそうなのに、なぜ大人になると変わってしまうんだろう」って。だから自分は大人になっても今の気持ちを忘れたくないと強く思っていました。自分が将来会社をつくったら、仲間たちみんなでワクワク楽しめる会社にしよう、と。
坂東:当時から将来は起業しようと決めていたんですか?
須田:20歳には決めていました。で、22歳で会社を創業するわけなんですが、大学3年生で中退をして、21歳から22歳までの1年間、別の会社に就職してたんです。そこで創業資金300万円を貯金して「会社運営ってこんな感じか」というのをなんとなく学んで、22歳で独立。当時から理想の会社像みたいなものはあったんですが、その1年の社会人経験でしか会社運営についての知識がないので、とりあえずは一般的な型を引き継いで会社をつくりました。ちょうどそのころ、友人の勧めでリカルド・セムラー著の『セムラーイズム』っていう本を読んだんです。中古で高値がついている伝説の本です。それを一気読みして、びっくりしまして。自分が働いてきた会社とか、自分の今の会社運営とか、これからやろうとしていることともまったく違った。「これで成り立つなら絶対にやった方が面白いな」と思いましたが、「ホンマにできるんか?」という想いもあって実行する至りませんでした。
坂東:これまでの常識とは真逆の内容ですからね。
須田:そうなんです。なので、セムコ社の経営手法は頭に入れつつも、一般的な会社の運営の枠組みを参考にしつつ、FREEPLUSにとって、もっといいやり方はないか?を常に模索してきました。
FREEPLUSの特徴の一つでもある『全員が敬語で話す』っていうのもそうですね。
坂東:なぜ『全員敬語』に?
須田:僕、役職者が威張っているのが許せないんですよ。役職が何のために存在しているのかというと会社の目的を達成するためであって、威張るためではない。『役職者=威張れる』ということができないように、色んなものをはぎ取っていったんです。全員敬語で話しましょう、というのもその流れで生まれました。
「役職者が言うことだから従う」という、考え方が大嫌い。
坂東:以前からそういう想いはあったんですか。
須田:常に思ってますね。大人の世界に対しての反骨心がすごくて。
坂東:なるほど。
須田:子どものころから「勉強しろ」とか言われても、なぜ俺が偏差値を追求しなきゃいけないんだ?と(笑) 自分が納得していないにも関わらず、大人が敷いたレールに沿って生きるのが嫌だったんですよね。
坂東:へ~!尾崎豊の世界観ですね(笑) 何がそんなに嫌だったんですか?
須田:色々ありますよ。例えば、僕は22歳で会社作ったので、経営者の会とか行くと一番若い。で、「タバコ買ってきて」とか言われることがあるわけですよ。
場を乱さないように「わかりました」って言うんですが、心の中では「なぜこいつのためにタバコを買いに行かなきゃいけないんだ?」と思っていた。尊敬している人に頼まれるなら全然いいんですけど、単純に年下だからとか、後から入ってきたからとか、そんな良くわからない理由でパシりにされなければいけないのか、よくわからない。
坂東:「お前の何が偉いんだ?」と。
須田:そうですそうです。社会人1年目のときも、ある会社に営業に行ったらすごい見下されたんですよ。これはビジネスマンとしてではなく、人間として感じたんですよ。
あんまり納得がいかなかったので、「あなたは、私がソニーの幹部でも、私に対して同じ対応をするんですか?」って。
坂東:言ったんですか?!
須田:言っちゃいました(笑) ティールのリーダーの考え方に近いんですけど、役職があるからこの人の言うことを聞くとか、すごく嫌いで。この人が素敵だな、この人の意思決定に従った方が効果的だなと心から思えば従うけど、それとは関係なく「こういう枠組みがあるから従え」みたいなのは嫌でしたね。リーダーになるべく人がリーダーになることが目的達成に対して効果的だと思っています。
坂東:大人の世界というか、社会全体に対しての反骨心ですね。
須田:そうですね。あと、僕がこういう考え方なんで、意思決定すると大抵少数派になる。民主主義って多数決で決まるので、どうしても「お前は違うかもしれないけどこれに従え」みたいな圧力を感じるんです。ティール組織への移行も、その経験が積み重なった結果なのかなと思います。
坂東:なるほどなるほど。そういう原点があって、色々試行錯誤しながら組織づくりも進めてきた。その傾向は昔から変わっていない、と。
須田:『セムラーイズム』を読んで、「こういう会社作りたいけど、なかなかここまで振り切れないよなあ」という想いの中で、色々と試行錯誤をつづけてきました。その後、上場準備のプロセスも経験するんですけど、上場企業に求められる経営や内部統制などは性悪説がベースにあるので、統制と管理が求められる。
会社が拡大してきており、上場企業に求められる経営システムを導入し始めると、学生の時に見たような会社員を生み出して行ってしまうんじゃないかと思いました。自分が嫌だなぁと思っていたことを、自分が推進している。僕の夢は世界企業を作って死ぬことなんですが、統制と管理によって会社を成長させることが、本当にやりたいことか?と疑問に思ってしまった。
坂東:今の経営論ではそれが常識ですもんね。
須田:2018年の11月に『ティール組織』という書籍に出会ったんです。読んでみると、私たちが考えてきたことや、やってきたことが体系的にまとめられていた。さらに尖らせた形で会社経営をしている会社が世界に何社も実在している。まさに、背中を押された気持ちでした。
世界企業を作るにしても、資本市場を活用した上場企業を作って監視と統制の元に企業を拡大していくよりも、ティール組織として進化させる方が、僕は絶対楽しいしワクワクすると思った。たとえ、世界企業になるための歩みが遅れたとしても、挑むべきだと思ったんです。
事業の現場を知らない社長は、意思決定すべきじゃない。
坂東:それまでの組織に課題があったから改革することになったと思うんですが、どんな課題がありましたか?
須田:色々ありますよ。例えば、メンバーのことを想って新しい制度をリリースしても、必ずどこかで不満が出る。それは別にいいんですが、問題なのはその不満が噂として聞こえてくること。直接言ってくれれば改善できるのに、不満を持っている人同士が裏でグチを言い合っているだけなので、対処のしようがない。そしてもう一つ、大きな課題として感じていたのが、自分の意思決定の遅さ。
坂東:えっ!遅かったんですか。
須田:ここ1、2年、自分の意思決定がトレンドに乗れていないなと感じることがあって。俺、ダメだなあ、と。
坂東:へ~!
須田:僕が出した大きな方針が明らかに遅れている。自分が現場に出ていないことも影響していると思います。
坂東:なるほど。だから現場主導での意思決定をもっと促進した方がいい、と。
須田:もちろん意思決定の種類にもよりますが、絶対その方がいいと思いました。稟議が上がってきても「別にいいんじゃない?」って感じで。内容もあんまり見てないですしね。
坂東:見てない?!
須田:あ、もちろん見てはいるのですが、「あなたが言うなら、それがいいんだろう」と言うイメージです。そもそも僕、事業に対してあまり強いこだわりを持っているわけではないんです。
坂東:へ~!それも意外ですね。
須田:この事業をやりたくて会社をつくったわけではなく、自分が死んでも幸せな人間を増やしつづけられる組織を作りたい、そういうものを残して死にたい、という目的で会社作ってるので、事業に一切こだわりを持ってないんですよ。
坂東:じゃあ、この事業でなくてもいい?
須田:全然いいです。だから、この事業は僕がいなくても全然回る状態になってます。逆に、僕の方が事業に関することは良くわかっていない。そういう人間が意思決定するのはむしろ良くないだろう、と。
坂東:理屈としてはそうでも、なかなかそこまで決裁権手放せないですよね。
白い心と黒い心、両方あわせ持つのが人間。それなら、白い心が発動しやすい組織にすればいい。
坂東:会社の存在目的に『人々の美しい心を通じて、人々の喜びを生み出す』とありますが、『美しい心』って、どういう状態を言うんでしょう?
須田:前提として、人間の心は美しい心とそうじゃない心、白い心と黒い心が50%ずつあると思っていて。それは、生物が進化する過程で両方必要なんだと思うんですよね。
坂東:生物の進化!なんか壮大な話になってきましたね。
須田:白い心というのはいわゆる良心みたいなもの。誰かが困っていたら助けてあげたいとか、財布を拾ったら警察に届けようとか。一方で、こっそりパクっちゃおうかな、という黒い心もゼロにはならない。例えばうちの業界で言うと、旅行客を集めてツアーを組んで、やたら高い化粧品やサプリを売るショップに連れていくと、キックバックがあるんです。旅行客が2万円買い物したら、1万5千円くらい入ってくる。
坂東:えっ、そんなにぼったくるんですか!?
須田:そうなんです。やたら儲かる。だから無くならない。でも、自分の家族にこのツアーをオススメできるかというと、できないですよね。我々としては、自分の愛する人とか大切にしている人、つまり普段白い心をもって接している人に、自信を持って勧められるビジネスをやりたい。そのときの気持ちが、我々が言う『美しい心』です。
坂東:須田さんは普段から『白い心』『黒い心』という言い方をしてるんですか。
須田:そうですね。その方がしっくりくる。なぜかというと、美しい心の反対語って『汚い心』になるじゃないですか。でも僕は別に黒い心が汚い悪いと思ってなくて。
坂東:なるほど。生物にはどちらも必要だ、と?
須田:そうですね。必要だからこそ存在している。
長年会社やってきたら、ときには裏切られたり騙されたりするじゃないですか。けれどそれだけで、その人が丸ごと悪い人だと思わないようにしようと考えてきました。騙された側としては、「あいつは極悪人だ」と一生恨むこともできるし、「たまたま黒い心が出ちゃったんだね」と認めることもできる。どちらがその人と長く付き合えるかというと、後者だと思うんです。
坂東:黒い心が出やすい組織もあれば、逆に白い心が出やすい組織もきっとありますよね。
須田:そうですね。だから、白い心が出やすい文化にしたいんです。全員敬語で話すのもそのため。ティール組織になる前から「役職者が言うから正しい」ということはありませんでした。FREEPLUS note っていうwikipediaみたいなもので、役職者の好みや解釈に依存しないような仕組みを作っていたので。上司が変わるとルールが変わるほど働きにくい組織はありません。
坂東:先日アリババの社長の話を聞いたんですが、アリペイユーザーって、その信用度がジーマクレジットというかたちで数値化されるらしいんです。それで、中国人が合コンするとき、今は女の子からまず「ジーマクレジット見せて」と言われるんですって。
須田:へ~!最初に見るのが、仕事とか学歴じゃないんですね。
坂東:そうなんです。950点満点なんですが、高ければ「すごいね!」となるし、500点以下だと人間扱いされない(笑) 色んなデータの集計によって数値化されていて、たとえばシェアサイクルのサービスを利用した際、自転車をちゃんと所定の場所に戻せば点数は上がり、乗り捨ててしまうと点数が下がる。
須田:へ~!面白い!
坂東:以前は乗り捨てし放題みたいな状態だったのが、このルールができてから、今は9割以上がちゃんと戻ってくるらしいですよ。
須田:すごいじゃないですか!!!!!!!
坂東:そういうことだと思うんです。結局、白い心を発動するための仕掛けじゃないですか。
須田:確かにその通りですね。
坂東:それって、ティール組織の『情報の透明化』とも繋がるんですよね。すべてをオープンにして白日の下にさらすので、何をしてもいいけどすぐ全員にバレる。それによって黒い心が発動しにくくなっているんです。一般的な企業は情報の透明化ができていなくて、役職者だけがアクセスできる情報が存在するから、黒い心が発動してパワハラとかセクハラとかが起こっちゃう。白い心が発動しやすくなる仕掛けとか仕組みが、次世代の組織の大きなポイントだなあと僕は思っています。
須田:まさにその通りで、性悪説とか性善説とかどちらか一方の立場に立つのではなく、人間にはどちらの性質もあるという前提で、いかに白い心を発動しやすくするかっていうことが大事なんだと思います。
ティール組織移行を決めた背景には、須田社長が子どものころから感じていた『社会への違和感』がありました。続いて、組織改革を断行するにあたり具体的に何を変えたのか聞いてみたのですが、須田社長からは「想像以上にやることはないですよ」という意外な言葉が……。