ホラクラシー、進化型組織という概念が日本に入ってくる何年も前から、ホラクラシー経営を実践しているダイヤモンドメディア株式会社。(※「ホラクラシー 」の解説はこちら)代表の武井浩三さんには、手放す経営ラボラトリーのアドバイザーも務めてもらっています。
今回登場するのは、創業メンバーの一人である関戸翔太さん。
ちょうど給与制度をガラリと変えるタイミングだったようで、会社が変化する瞬間のリアルなお話をたくさん聞かせてもらいました!
僕たちは、ホラクラシー経営がしたかったわけじゃない。
坂東:今は、ホラクラシーというか『自然経営(じねんけいえい)』という言い方をしてるんですよね。
関戸さん(以下敬称略):社内のメンバーは、普段あまり自然経営という言葉について意識することはないみたいですけどね。
坂東:え、そうなんですか?
関戸:僕は本来、『ホラクラシー』とか『自然経営』とか、肩書をつけるのがあまり好きじゃないんですよ。
坂東:それは意外ですね。
関戸:会社のみんなもそんなにこだわっていないんじゃないかな。
坂東:そもそも、ホラクラシーであることにコミットしているわけではないから?
関戸:そうですね。結果的にこうなっただけなので、こういう組織構造であることを誇りに思ったりはしません。
ホラクラシーでも自然経営でもどっちでもいいみたいな(笑)
坂東:では、どうしてこういうかたちに?
関戸:オープンでフラットな組織にしたくて。根っこにあるのは「一人じゃなくて、仲間とモノづくりがしたい」という想いなんですよね。
坂東:なるほど。
関戸:仲間って基本的には上下じゃなく横のフェアな関係じゃないですか。
そもそも僕自身、上司とか部下とかいう言葉にアレルギーがあって。
坂東:アレルギー?
関戸:イヤなんですよ。上司がいるのも、部下を持つのも。
坂東:部下を持つのがイヤという人は珍しいですね。
関戸:フラットな組織で、みんなでリスペクトし合いながらモノづくりがしたいんですよね。
僕はデザインはできないけど、デザイナーから自分の想像を超えるデザインが上がるとすごく嬉しい。
特定の誰かじゃなく『みんな名義』でモノができあがっていく過程が楽しいんです。
坂東:なるほど。そこにフラットな組織がフィットすると。
関戸:そうですね。
坂東:フラットって、良い面もあれば悪い面もあると思うのですが。
関戸:基本的に面倒くさいです(笑) 全員と深く話さなきゃいけないし、気も遣う。
ただ、音楽バンドとかそういうチームってたいてい最初はフラットな関係からスタートするんですよね。
坂東:そうですね。気の合う仲間が集まって「一緒にやろうぜ!」みたいな。
関戸:ダイヤモンドメディアも、はじまりはそんな感じなんです。
僕らは学生ベンチャーで、創業メンバーは、当時全員が大学生。
そのあとに同世代の仲間を中心に増えていって、フラットな関係でスタートして最初はそれがすごくうまくいった。
坂東:大きくなるにつれてだんだんとうまくいかなくなってきた?
関戸:そう。それで、いろいろ試行錯誤して組織を変えてきたんですが、
今ちょうど大きく転換するタイミングに来ているんですよ。
「うちのチームは好きだけど、会社のことはよくわかんない」
関戸:創業期は、自分の仕事がそのまま会社の成長に直結するので、全員意識高く働いていました。
会社への愛情も深かったですね。ちょうど組織の変遷をまとめた資料があるんですが、そのときの状態はこんな感じです。
坂東:なるほどなるほど。
関戸:そこから成長期に入り、全員がフラットなまま人数も増えていくと、こんなイメージになると思うんですが、
関戸:実態としてはこんな感じで。
坂東:お~!これはわかりやすい。
関戸:中心まで矢印が届くのは、創業メンバーとか、会社の目的や成長にコミットしている人ですね。
ただ規模が大きくなると、個人の意見と会社の成長がリンクしにくくなってくる。そこで、チームを複数に分けました。
事業も複数立ち上がっていたので、事業ごとに自立したチームをつくって。
坂東:なるほどなるほど。
関戸:ただ、今度はチーム同士の連携が薄くなってしまったんです。
「この先会社をどうしていこうか」という会話が生まれにくくなってしまった。
坂東:それぞれが、会社じゃなくてチームにコミットしているというか。
関戸:そうです。会社愛が育たなくなってしまったんです。チームでの役割に集中するほど、
周りのチームがどんどん目に入らなくなって。で、人って目に見えないものには攻撃的になるんですよね。
坂東:なるなる。否定的になります。
関戸:「あっちのチームはちゃんと仕事してんのか?」とか。
すると、『あっちのチーム=自分たち以外』と捉えて、
「うちのチームは好きだけど会社全体のことはよくわかんない」みたいなことを言う人が増えてきてしまったんです。
坂東:はいはい。
関戸:おまけに、上司・部下という関係をおかない組織体制だったので、リーダーという役割も置かなかったんですよ。
すると、チームの中も統制が取れなくなり、実態としてはこんな感じになっていました。
坂東:お~~!ビジュアル化うまいですね。
関戸:あざっす!(笑)
坂東:全員がリーダーシップを持って働ければいいけど、実際はそううまくいかないと?
関戸:そうですね。
坂東:そこからどうやっていったんですか?
関戸:先月やっと方針が固まったばかりで、これから実践していくところなんですが、
チームの在り方をゼロから再定義したんです。
『ホラクラシー』なのに、『ヒエラルキー』?!
関戸:アプリの設計開発などで有名な「株式会社ゆめみ」さんの組織形態が、僕らがやりたかったこととドンピシャで。
そこに倣ってチームの再定義をしたんです。具体的には、リーダーは置かないんですけど、
チームの存在意義や責任範囲の決定権を持つ『コミッター』という役割を置きました。
そしてその周りに『コントリビューター』というコミッターをサポートする役割の人を配置する。
坂東:なるほどなるほど。
関戸:あと、『親チーム』『子チーム』という概念も新たにつくりました。
坂東:上下関係とは違う?
関戸:上下というよりは、親子なんです。例えば、「ダイヤモンドテール」
という不動産会社向けのホームページ制作を中心に担う「ダイヤモンドテール事業部」が親チームだとしたら、
部内の開発チームや営業チームが子チーム。親チームが事業戦略を担うので、それぞれのチームを人に例えるなら、
親チームが子チームのコミッター的なポジションになり、そこにはヒエラルキーが生まれるんです。
坂東:確かに、階層になりますね。
関戸:一般的なヒエラルキーと違うのは、人が階層化されているのではなく、事業が階層化されているということ。
例えば僕が、ダイヤモンドテール事業部のコミッターをしつつ、開発チームのコントリビューターになることもあり得る。
つまり、人同士はフラットなんです。
坂東:チームにヒエラルキーがあるのに、人間がフラットということはあり得るんですか?
関戸:「親チームと子チームのコミッターを兼務することはできない」というルールを設けて成立させています。
チームの意思決定はコミッターが担うのですが、
たとえ親チームのコミッターであっても子チームの決定を覆すことはできません。
坂東:なるほど。逆に今までは、どうやって意思決定してたんでしょう?
関戸:チームで話し合い、その都度決められる人が決めていました。会議の場で「あいつが決めるんじゃない?」と、
みんながなんとなく思っている人に視線が集中して。でも本人は「いや別に俺は……」というケースもあり、
ときどき大事な判断が抜け落ちてしまうこともあったんです。
坂東:はいはい。抜け漏れが出てしまう、と。
関戸:誰もコミットしていないプロジェクトが生まれてきたり。
坂東:なるほど。
関戸:そういうチームって熱が無いんですよね。
「何かを成し遂げたい」という想いから生まれるのではなく、単なる「機能」
として求められてチームができているので。
そこで、会社としての熱を保ちつづけるために、今回チームの再定義に踏み切ったわけです。
現状に、違和感を持てるレベルまでようやく成長できた。
坂東:規模が増えたことで熱が保てなくなってきた、と。
関戸:そうですね。オープンでフラットだからって、それだけでは別に何も生まれないんですよ。
坂東:はいはい、それだけではね。
関戸:僕らは、例えば「出社せず家で働きたい」という人がいたらその選択も受け入れていた。
オープンでフラットな文化づくりに注力してきたんです。
そこから事業の成長に意識を向けたとき、一番必要なのは、
やっぱりコミットできる人を1人でも多く育むことなんですよね。
坂東:そのための研修とかもありますけど、そういうことはやっている?
関戸:研修とかではなく、内発的に「会社にコミットしよう」という想いを生み出していきたいんです。
そのとき大切になるのは、『会社が何にコミットしてるのか?』。これまではそこが曖昧になっていた。
まずは、それをしっかり決めて、そのコミットをみんなで分担していくみたいな。
坂東:会社は事業の発展にコミットしてるんじゃないんですか?
関戸:本来そうですよね。僕もそう思います(笑)
坂東:そこをもう少し各論に落としていくということ?
関戸:そうです。プロセスの設計をしたり期限を決めたり。
あとは、一般的な会社でいう『ビジョン』とか『ミッション』みたいなものを定めようと思っています。
坂東:逆に、今までそれが無かったのがすごい(笑)
関戸:マジで無くて(笑)個人的には、うちの会社ってアーティスト気質な会社だと思ってるんです。
武井は音楽にルーツがあるし、僕ももともとダンサーですし。
坂東:ダンサーだったんですね!どれくらいやっているんですか?
関戸:高校からですね。3年ほどブランクがあったんですが、社会人になってから再開しまして。
今はMAY’Sというアーティストのバックダンサーとマネージメントのサポートをしています。
ちょっと宣伝させてください(笑)
坂東:へ~、男女ユニットなんですね。
関戸:ヒップホップ界隈では結構有名だと思います。
で、彼らみたいなアーティストって、すごい成り行きで生きてるんです。どんぶり勘定だし(笑)
自分の衝動に従ってゼロから1を生み出す人にはそういう人が多い。
坂東:感覚とか本能に忠実に生きていこう、と。
関戸:そうですそうです。だから、目標とか計画とか決めるの嫌いなんですよね。敷かれたレールも嫌いだし。
そういう感覚じゃないといい音楽って生まれない。
坂東:確かに、計算からは生まれなさそうですよね。
関戸:僕らが今までミッションとかビジョンがなかったのも、ある意味正しかったのかなって思ってるんです。
「事業目標がないのはおかしい」って言われても、あまり違和感を覚えなかった。
坂東:当時は何のために事業をやっていたんですか?
関戸:大切にしていたのは、クオリティです。
例えばダイヤモンドテールというホームページ制作サービス。
業界の競合サービスを見ると、初期費用が50万円くらいの企業が多いんですが、うちだと300万くらいです。
坂東:メチャ高いですね。
関戸:メチャ高いんです。それでも必要としていただけるのは、戦略の質やコンサルティングの質、
デザインの質に徹底的にこだわっているから。それで十分成立していたので、目標が無くても別に問題はなかった。
それが今、人数が増えたのに事業があまり成長していない実感があって。
一つ上のステージに行くためにはどうするか、というフェーズに来ている。
坂東:これまではアーティスト集団だった?
関戸:そういう感性でやっていました。武井がよく言うんですけど、
「僕らは自然経営というより、野生だったかもね」って。
確かにそうだなと思って「もう少しちゃんと決めようか」、と。
坂東:関戸さんは10年やってきて、一度も違和感を覚えたことは無かったんですか?
関戸:僕はうちの会社に入るまで、WEB制作とかまったく未経験だったんですよ。
なので最初の5、6年は修行のつもりでやっていました。
ダンスもそうですが、基本がものすごく大事だと思っていて。
それができていないダンサーとかはパッと見てすぐわかる。
坂東:そうなんですね。地道な練習とか反復が大事になる?
関戸:同じことばっかやってます(笑) この仕事も同じで、
基本ができていないとクリエイティブなモノづくりはできない。
で、基本を叩きこんでいるときって、目の前のことにとにかく必死なので、
会社がどこに向かっているかとか気にならないんですよ。
少し極端ですがそもそも基本ができていないやつに発言権なんてないと思いますし。
坂東:まずは仕事をできるようにならなきゃ、みたいな。
関戸:そうです。それで5、6年修行して、
ここ3年くらいでようやく経営の基本とか会社がどこに向かうのか、とかに目が向くレベルにまで成長できたかな、と。
そこからですね、HR周りの取り組みを積極的にやり始めたのは。
坂東;なるほど~。
関戸:だから「やっと違和感を持てるようになった」という言い方が正しいかもしれない。
逆に、実力もないのに最初から「ちょっと違和感ある」とか言う奴ヤバいですよね(笑)
ダンサーの感覚からしても、そういうのは嫌だな、と。
坂東:確かにヤバいですね(笑)
関戸:なんかすみません。すごく独自の話になっちゃいまして(笑)
ダンサーという独自の感性で、会社組織の課題について語ってくれた関戸さん。
後編はいよいよ、新たな給与制度の仕組みに切り込みます!お楽しみに!