「HRアワード 2018」優秀賞
「読者が選ぶビジネス書グランプリ 2019」マネジメント部門
「ITエンジニアに読んでほしい! 技術書・ビジネス書 大賞 2019」ベスト10
組織論をテーマとしたビジネス書としては異例の7万部突破!大ヒットとなった「ティール組織」。
(※「ティール組織」の解説はこちら)
その出版を手がけた英治出版株式会社も、ユニークな組織づくりをされています。
「あまり組織を大きくする気がない。社員の人数を必要以上に増やさないようにがんばっている。」
「応募者が履歴書を送ってきたら不採用」
社長の原田英治さんに、英治出版を立ち上げた経緯や、組織づくりで大切にしている考え方をお聞きしていきます。
■原田 英治さん プロフィール
英治出版株式会社 代表取締役。1966年、埼玉県生まれ。慶應義塾大学卒業後、外資系コンサルティング会社を経て、1999年に英治出版を共同創業。創業時から「誰かの夢を応援すると、自分の夢が前進する」をモットーに、応援ビジネスとして出版業をおこなっている。2018年から「親子島留学」を利用し、1年半、東京と島根県隠岐郡海士町の二拠点生活を送っていた。
坂東:皆さんこんにちは坂東孝浩です。今回も英治出版株式会社 代表取締役 原田英治さんをゲストに迎えてお送りします。
原田さん宜しくお願いします。
原田:お願いします。
坂東:前回会社を大きくしようとは思っていないという言い方をされていましたけど、ゆっくりでいいと。
原田:そうですね。大きくすることが目的じゃないってことですね。社員が幸せに働いてくれる。社員の成長だとか幸福感の方が優先なので、会社が無理に大きくなる必要はないんですね。特に、やっぱりネットだとかもそうですが、英治出版は出版業界で唯一ので金融商品取引業者でもあって。
坂東:何なんですか、それは?
原田:ブックファンドという仕組みをやっていたりして、プロジェクトごとで資金調達を可能にしいます。そういう意味では小さい会社だけど、大きな仕事ができる仕組みは社員にも用意されています。そういう意味では、会社が自体が大きくなるというよりも、自分たちの成長したいスピードに合わせて成長できればいいかな、と思ってはいるんですよね。
会社とか組織が大きくなると、混乱するというか複雑になっていき、まさに崩壊に向かうエントロピーが増大していくんじゃないかなっていうのもあります。
絶版にしない出版社ですからね。なるたけ、崩壊に向かうエネルギーが少ないほうが長く続いていくので。
ただ全く固定的に小さいままだと、社員の成長の支援がしづらいかったりすることもあります。全く大きくしない、と言ってるわけではなく、自分たちの心地よいペースで成長していければいいかな、と言う意味です。
会社って飛行機の操縦と似ているかなと思うところがあって。
飛行機は操縦したことはないのですが…
離陸の時には一生懸命ガーッと走って、ある程度高度を取るまでは、加速してい来ますよね。一定の高度が出てくると滑空性能が効いてきて、安定して飛べるということはとても重要で、これをどんどん上げていこうとすると、メタファと離れて行くかもしれないですが、機体を整備したりエンジンを大きくしていかないと、より高度なものに耐えられなかったり不調を来たしやすいですし。
坂東:巡航するということだとパワーはそんなにかからないし、快適に飛べても、もっと速くとかもっと高くとなると余計な負荷がかかるということですか。
原田:それもあります。もしこれがゆっくり飛べるとしたら一番いいパイロットなんじゃないかなと。相当腕のいいパイロットじゃないかなと、それに挑戦したいなと。
企業がどんどん大きくなって、じゃGAFA(ガーファ)だとか、宇宙ビジネスを目指すということに、みんなちょっと違和感を覚えているのではないかなと。
坂東:何のためにと?
原田:ですよね。恐竜が鳥になって進化して現代に残っているとするならば、あまりに大きくて食欲旺盛なものよりも、鳥ぐらいの生態系で生きられるものになった方が、機能としては進化して残っていくのに幸せなんじゃないかなと思っています。巨大化することが、必ずしも幸せな道とは限らない。何のために組織があるのかというよりも、組織が存続していくという意味では、成長はゆっくりな方がいい。
坂東:そして社員が幸せに長く働いてくれる。
原田:そうですね。本が「ワークライフバランス」という時に面白かったのは、ワークは作品という意味もあるということ。出版社にとってワークが作品だとすると、自分の人生よりもはるかに長く残るんですよね。だからどうしても絶版にしないということができたらいいなと思う。ワークが長く残っていったらいいなと思うんですよ。
坂東:そうか、後世に残るような価値のある発信をしたいし。支え続けたいということですね。
原田:ここの母体となる会社が倒産してしまうと、全て自動的に絶版になってしまうので。
坂東:あともう1つ、仲間と作る現実が自分の理想を超えて行く。とは?
原田:経営理念が進化してきたことに最初に気づいたのは3.11の夜なのです。
恵比寿の会社で揺れを感じて外に出て、帰れない社員は、飲み物を買ったりしていた時に、周りを見ると、恵比寿でも帰宅困難な人がいました。寒かったし、公衆のトイレだけでなく会社のトイレも活用してもらおうと、動きました。
今度は、固定電話が繋がりだして、家族と連絡を取りたい人もいるだろうということで、社員の一人が「英治出版を解放してもいいですか?」と言ったんですよね。
僕はそんなことには、全然意識がなくて、自分は帰れないし、社員を帰さないと…と、思っている時。これからどうなるんだろう、と思っている時にそんな時にこんなことを言われて…
坂東:すごいですね、その人。
原田:すごいよね。言われた時に、「それはいいね!」と思ったんですよ。自分もやりたいことだと。でも自分がやりたい事だったのに、自分の意識の中には顕在化していなかった。それを仲間の一言によって呼び覚まされて、それをやろう!とことになった。結果、十数人の人が英治出版に泊まっていったんですよ。
坂東:知り合いとかですか。
原田:知り合いだけではなく、ツイッターで呼びかけてそれ以外の何らかの繋がりの方が。
中には大学生の女の子がいて、その後、英治出版でアルバイトする事になったり。
そんなこともあり、後々考えてみると、自分が意識していなかった事が、仲間の一言で現実化できたわけじゃないですか。仲間と作る現実はまさに自分の理想を超える事があるんだな。
と思いました。よくよく考えてみると、英治出版の本棚を見ても、創業した時に思い描いていた理想よりも素晴らしい著者との出会いと、はるかにいい仕事が出来ているなと。
僕自身は出版企画を何年も出していないんですが…
それにも関わらずいい著者と仕事が出来ているという事は、仲間の想像力が自分たちの本という形で現実化させてくれた事によって、当初思い描いていた理想よりもはるかにいい現実が今、英治出版の本棚にあるというか、そういう仲間のネットワークが広がっていっているという事がありがたいです。
坂東:確かに。一人でやっていたらこうはならない?
原田:自分の理想だけでは、自分の理想、もしくはそれ以下にしかならないあと思います。仲間と作る現実は、自分の理想以上になるということが、会社・組織にした理由というか、それを知った瞬間でもありました。
坂東:9月にあったティールジャーニーキャンパスを通じてもそういう事が?
原田:ティールジャーニーキャンパスは下田というプロデューサーがメインに担当してやりました。ティール組織の本も彼が編集を担当し、去年著者のフレデリック・ラルーさんをニューヨーク郊外のイサカヴィレッジを訪ねて、色々なティールに関する研究の国際的なカンファレンスに出たりしています。
やっぱり優秀なプロデューサーで頭もいいし、器用だし。今までは、きっと自分で努力をして成果を得ることができる、いわゆる自己完結できちゃう人だったと思うのですが…今回このティールジャーニーキャンパスを通じて世話人の人などがどんどん仲間になってくれて、終わってみれば彼の理想を超えた現実が目の前にあったんじゃないかと。それは、著者の来日だとか、そこから影響を受けたたくさんの人たちだとか、そういう世界が見えたんじゃないかなと思っています。
それを彼が知ったとしたら、それは本当に大きな成果だったと思います。それを彼に与えられたんだとしたら、英治出版もまた1つ大きな成長ができたのではないかなと思います。
このイベントで儲けようとかではなくて、むしろプロジェクトの損益は事後報告でした。そもそもプロジェクトが始まった事さえも知りませんで、後から報告がありました。
わりと事後報告的なところがあって。
ティールジャーニーというイベントを通じての仕事の成果が報酬と思うので。
坂東:著者を応援するという元々の方針もありますよね。
原田:そうですね。ラルーさんの言葉で言うと、著者自身もティールという考え方を世の中に広めていくというパーパスに人生を握られている状況だったと思うのですが、更にそれを日本では、解説を書いてくれた嘉村賢州さんとか、世話人の多くの人たちもパーパスに人生を握られている状況だったと思います。彼らがやりたい!ということで自発的に動いて、仕事ができる環境を提供できる、というのが英治出版の仕事のやり方。それが報酬になってくれたら。給料をいくら払うか、ではなく、人生に満足して彼らの視野が広がったり、そんな経験をしてもらう事が、英治出版が設計する報酬体型の一部だったりするのかなと思っています。
応援出来た事、そしてその成果が彼らの理想を超えてたとしたら、いい経験だったのではないかなと思います。
坂東:1人でも自己完結できるような人が、組織にいることによってお互いに誘発されて、自分でも思っていなかったような相乗効果を得られると。
原田:そうですね。人の想像力は借りられるので、どんどん借りた方がいい。学校教育だと自分が努力して成果を得ることに囚われていた思うのですが…
坂東:テストは自分の実力でカンニングもしたらいけないし。借りれないし。
原田:社会人になったら、世の中の事は、人の力を借りてでも自分の理想以上を作った方が価値がある。どんだけ自分の理想を超えるような現実を作れるのか、という時に、チームを作る意味があるのではないかと思います。
坂東:本当ですね。
坂東:そこを大切にしていきたいなと。
坂東:非常に面白かったです。ありがとうございました。
原田:ありがとうございました。
原田さんが親子留学をされていた海士町でつくった“アマッチョ“ポーズで。