みんなでワクワク楽しめる会社を作りたいと、2007年に22歳で株式会社フリープラスを創業した須田社長。当時リカルド・セムラー著『セムラーイズム』の思想に衝撃を受けるも、あまりにも独自な経営手法をそのまま取り入れることはできず、株式会社フリープラスなりのあり方を模索してきました。そして2018年、『ティール組織』に出会って背中を押され、進めていた上場準備も中止してティール組織化へと舵をきったのです。(※「ティール組織」の解説はこちら)
2019年6月にティール組織に移行してから1ヶ月経った会社の状況を、赤裸々に語っていただきました。ティール組織へのリアルタイム組織改革レポート第3弾です。(第1弾はこちら/第2弾はこちら)
ティール組織のための問題解決メソッドを開発したい。
坂東:ティール組織への移行からちょうど1ヶ月くらいですね。「問題解決会議」をティール的にやってみた、という噂を聞きましたよ。どういうことですか!?
須田:我々は2011年から「すごい会議」という会議の進め方を導入していまして、たまにそのフレームワークを使って問題解決をするんです。そのメソッドでは絶対に意思決定者(社長や事業責任者)の参加が必要だ、ということになっているんですけど、ティール組織になったことで我々の中に意思決定者はいなくなりました。でも、問題解決をするにはいいフレームワークなので、実験的に意思決定者なしでやってみたんです。
坂東:みんなの話し合いで結論まで持っていくということですか?
須田:通常のやり方では、会議の中で複数の問題解決策を出し、その中から意思決定者が「これをやります」と選ぶんです。それを、メンバーそれぞれが効果的だと思うものを選んでやるという方法に変えたら、問題なくできました。
坂東:やりますね! ほかの現場でも、会議のやり方に変化が出てきていますか?
須田:みんながどうしているのか、僕は知りません。今回「問題解決会議」をやったのはホテル事業のチームで、どうも現場で問題が多発しているようだったので、自分にできることはなんだろうと考えて会議を開きました。僕、「すごい会議」の認定コーチなので。
坂東:そうか、須田さんがよく分かっているからティール的に応用することもできたんですね。
須田:そうです。そもそも認定コーチになったのも、「すごい会議」のフレームワークをマスターした上でティール組織用のメソッドにカスタマイズしたいと思ったからなんです。
坂東:なるほど! そういう意図があったんですか。
須田:メンバーが活用できるツールをたくさん用意しておくことは大事だし、僕が一番役に立てるのはそういうところだと思っています。
ティール組織における経営者の役割は環境を整えること。
坂東:今の状況で、須田さんの経営者としての役割って、どんなことでしょう?
須田:一番大事なのはティール組織というオペレーティングシステムを運用できる環境を整えることですよね。この1ヶ月の間にもいろいろなことが起きているので、それに対して僕がどういう情報発信をしていくのかは、とても大事だと思ってます。
あとは、観光施設の開発に必要な億単位の投資のことを考えたりだとか、ティール組織に変わったことを機にコーポレートサイトもリニューアルしたくて、そのデザインを僕がやっていたりとか……。
坂東:僕の見立てでは、須田さんのキーワードは「デザイン」ですね!? このオフィスも自分でデザインしたんでしょう?
須田:そうです。デザインとか空間プロデュースは好きなんで。
坂東:ビジネスモデルとか組織の形もデザインと言えるんじゃないか、と考えると、須田さんは「組織の基本的なデザインを司る人」なのでは?
須田:ビジネスモデルを考えるのはあんまり得意じゃないんですよ。そもそもビジネスよりも組織に方に興味があって。人間が力を合わせてより大きな力を出すためにはなにが必要なのかを考えて、そのための枠組みとか仕組みを作るのは好きだし得意です。
坂東:なるほど〜。じゃあ、ビジネスの方は別の人が担当されているんですか?
須田:5月までは本部長をやっていた人間がいます。ただ、ティール組織になってからは、彼らが「こうしよう」と言っても、メンバーがそのとおり動くとは限らないですからね。ビジネスはみんなでやっています。
坂東:事業をどう進めるかも、チームにお任せ?
須田:そうですね。
坂東:例えばホテルを今後増やしていこう、みたいな意思決定はどうするんですか?
須田:思いついた人が決めます。ただ、その人たちだけでは解決しない問題がいくつかあります。例えば沖縄にホテルを作りたいとして、初期投資が3億必要で銀行借入れが必要なら、今の日本では基本的には代表取締役が連帯保証人にならないといけないですよね。「じゃあ、須田さんにリクエストしよう」ということで僕のところに来る。そこで僕が「ええ投資やわ〜」と思えば連帯保証のサインをするかもしれない、そんな話になります。
坂東:何年に何棟建てるとかも、決めてない?
須田:はい。
坂東:ホテル事業を立ち上げた当初は、計画はあったんですか?
須田:「何年までにこのぐらいやりたい」みたいなものはありました。
坂東:すべて自然に任せることにしたんですね。潔い!
経営者思考になったメンバーの自発的な意思決定が増え、残業が減った。
坂東:ほかにも、この1ヶ月で起きている変化を教えてもらえますか?
須田:自発的に意思決定されていくことがめちゃくちゃ増えてますね。それは、ティール組織というオペレーティングシステムを入れることの最大のメリットで、うまくワークしている感じがします。
坂東:いいですね!
須田:ちょうど昨日、ティールを導入してどんな変化があったのか、メールで募集してみたんですよ。18人くらいから返信があって、僕は気づいていなかったんですけど「残業が減った」という内容がすごく多かったですね。
坂東:へぇ、そうなんですか?
須田:前は見込みの残業代込みの給料だったのを、純粋に残業代をつけるように変えたんです。その残業代も全部公開されちゃうので、残業することの費用対効果を考えるようになって早く帰るようになった、という人が多かったですね。
坂東:給料が公開されたことの効果が大きそうですねぇ。
須田:それと、元本部長の元には「フリープラスの経営者として意思決定するとしたら……」という相談や助言を求めるアクションが10倍くらい増えたみたいです。
坂東:それは面白い!
須田:チームの損益についての状況を管理本部に問い合わせる人も増えているみたいで、みんなが自然に経営者思考になってきているのが素晴らしいな、と思います。
坂東:たった1ヶ月で、すごい変化じゃないですかっ!
経営上の重要課題でも対応を強制できず、スムーズにいかないことも。
須田:マイナスの変化もあって、管理されなくなって規律がなくなっている人も少なからずいそうです。
坂東:緩んでいる?
須田:そういう人も出てきているんだろうな、と。例えばライザップに通っていると、痩せたり筋肉をつけたりするためのメソッドやフレームワークがあって、コーチが伴走して励ましてくれたりすることで、結果を出させてくれますよね。通常の経営って、そういうものだと思うんですよ。ティールに移行したというのは、「ライザップ解散! 自宅で運動するなり河川敷で走るなり自由にしてくれ」という状態なわけです。そうなると、それでも運動する人はするでしょうし、サポートがなくなるとサボる人もいますよね。
坂東:どういうところで、そういう人が出てきていると?
須田:例えば、会社としては出社時間は自由なんですけど、チーム内で「その方が効率が上がるから、全員10時に来ましょう」と合意しているような場合があります。それでも、10時少しまわってから出社する人が出てきたりとか……。そうなるとチームの規律が下がってしまうので、僕は良くないと思ってます。結果が出ればいいんですが、規律がある方が結果が出そうだという感覚があるので。
坂東:そのあたりが今後どうなっていくのか、気になるところですね。
須田:あと、うちの場合は売上の未回収のリスクって結構大きいんですよ。売上の大半がインバウンド事業からで、その99.9%が海外からの入金なんです。ミャンマーとかだと、相手が急に消えたりすることもあるんですよね。
以前は未回収金の額が大きかったらトップダウンで回収に行ってもらっていたんですけど、今はすぐに動かない人もいます。経営サイドにいた人間からすれば「これを回収しないとかなりマズイ」と思うんですけど、そういうことを考えてこなかった方々にとっては「ちょっと遅れてるくらいだから大丈夫でしょ」ぐらいの感覚だったりして。
坂東:自分の判断で優先度を下げちゃってるんですね。
須田:経営上はかなりのリスクなので、分かってもらうまで懇々と説明するしかない。それでも言うことを聞いてくれなければ紛争解決プロセスですよね。こういう面においては、以前よりもスムーズにいかないことも出てきています。
理念は強制できないからこそ、本当の意味で浸透させるチャンス。
坂東:ぶっちゃけ、社員の方のティール組織についての理解が不十分だと感じることもありません?
須田:いっぱいありました。そう感じたらすぐに全員にメールで発信してます。「こうだよ」「こうだよ」と言い続けるしかないので。1日1回くらいは送ってるんじゃないですかね。
坂東:例えばどんなことを?
須田:例えば、ティール組織になったことで個人事業主的な感覚になっている人も出てきているようなので、昨日も全員にメールを送ったんです。「ティール組織で働くということと、個人事業主で働くということは全然違う。単にスキルを提供するだけだったら、今の月収にさらに5万プラスするから個人事業主になってください」と。
坂東:社員と個人事業主の違いって、どういうことだと考えてます?
須田:1人でなし得ることができないことを組織でなそうとしているのが、フリープラスのメンバーです。例えば妊娠があったり介護があったり、いろいろなライフイベントで出社できないときがあっても、僕らは仲間として支え合うことができます。苦しいとき、楽しいとき、それぞれ支え合って、チームとして大きいことをしていこうというのがいわゆる正社員だと思ってます。
坂東:自由度が高まって、自分本位になってしまう人もいるでしょうね……。
須田:そういう人が出てくるのも当然だと思います。例えば我々には「FREEPLUS DNA」というクレドがあって、朝礼で唱和したりしてそれを浸透させる慣行がありました。今は朝礼もなくして、そもそもクレドを知らない人もいるかもしれません。ただ、強制力を働かせてやるのは、本当の意味での浸透ではないんですよね。「FREEPLUS DNA」をいかに体現して、本当の意味で浸透させることができるか、というチャンスだとも思っています。
坂東:須田さん自身の変化はありますか?
須田:僕自身は、あまりメンバーに気を使わなくて良くなって、楽になりました。
坂東:それまでは、気を使いながら接していた?
須田:その人に合わせた会話をしなければいけないから、ほとんどのことはストレートに言えませんでしたね。今は全員が自分で給料を決めていますから、経営者としてフラットな立場にいます。経験とスキルは違っても立場は一緒だから、「勉強してください!」「自分が何のために存在しているのか考えてください!」とか、遠慮なく言えるようになりました。
坂東:Netflixでもそういうカルチャーがあると聞きました。それによると、セルフマネジメントを成り立たせるには、歯に衣着せぬ物言いができるかどうかがすごく大事だと。特に日本では、パワハラだと思われないかということもあって上司の方が気を使うことが多いですし、それが取っ払われるというのはすごくいいですね!
須田:本当にラクです。
坂東:「須田さん、めっちゃキツくなったな」と思ってる人がいそうですね(笑)
須田:います! この後の社員座談会で出てくると思いますよ。
坂東:それは楽しみです!