前編に引き続き、TUMMY代表 あべ なるみさんのインタビューをお届けします。チームaiyueyoと呼ばれる、緩やかな組織を立ち上げるに至ったなるみさん。今回は更なる組織づくりのポイントをお伺いします。
目次 〜後編〜
組織作りのポイント③小さく始められる!愛をベースにコミュニティ経済を回す仕組み組織作り
研究員:組織として新しい活動のアイデアは誰が出すのでしょうか?
なるみ:そうですね。現状多くの取り組みは私が言い出しっぺですが、「循環商店街」や、新商品のaiyueyoboxはメンバーから生まれたアイデアです。今取り組んでいるのは、愛本主義を体現すれば自然に活動やビジネスが生まれてくる仕組みづくりです。
ここでチームaiyueyoの全体像の話をしたほうがいいかもしれません。チームaiyueyoは「愛の循環をshokuから耕す」ということをスローガンにした活動体です。この「shoku」には三つの意味があって、1つは「食」で愛食を広げること。2つ目に「職」、ナリワイ(生業)をつくること。3つ目に「色」、らしさを咲かせること。この3つを掛け合わせることに取り組んでいます。
なぜこんなことをするのかというのが、愛本主義というビジョンになります。私たちが「農」に関わるのはいのちを産む根源の産業だからです。いのちをまず大事にし、愛ごといただく愛食→ごきげんになる→自分らしくあれる(”純化”)→お役立ち行動につながる→相手らしさの発揮にもつながる→思いやりの輪が広がる。
この循環をぐるぐる回していけば、子育てがしやすい社会や自分らしく輝ける社会、多様性を認め合う社会、地球環境に配慮した社会につながっていき、究極は世界平和につながっていくだろうと考えています。これが愛本主義の考え方であり、そのために私たちの活動があります。
【ビジョン 愛本主義の全体像】
この活動に関心を持ってくださる人たちは「自分の暮らしを犠牲にしたくない」「仕事をもっとやりたいのだけど、自分自身の心と体を大事にしたい」、「自分のらしさを発揮したい」「食べるのが大好き」といった思いを持っています。
この世界観に入る入り口はコーチングプログラムとしての「ナエドコ」になります。ここで自分の理想は何か、本当に自分が何をやりたいのか、軸を明らかにする3ヶ月のワークに取り組みます。社会の基準にとらわれず、自分を基準に考えることで複数の仕事を掛け持ちしてよいのではないかなど、心の障壁を取り除いていくと理想の働き方・生き方が見えてくるんです。
この後にチームaiyueyoに入っていくのですが、ここでは実践練習場として、「循環商店街」という仕組みがあります。(https://aiyueyo.jp/7955)ここで、コミュニティ通貨「愛」を回して、商売の練習を仲間内でやってみようという試みをしています。ジョインするときに1万円を換金し、それをコミュニティの中で使います。例えば、ちょっとスケジュールを調整します、とかアイデアの壁打ちします、とか。こんなことでお商売になるの?というところから対価をつける練習をします。やりたいけど未経験で‥と自信がないスキルもここで磨き、「バナーデザインを描きます」「あなたのキャリアをインタビューします」など色々なテーマで出店しています。ここでの経験をきっかけに外部で活躍している人もいます。
研究員:なるほど、子育てで一度キャリアを離れた人にも、これを機に新しいキャリアに挑戦する人にも、自己実現がしやすいですね。しかもちゃんとやったことに対する対価を得られる仕組みになっているのがすごいです!
【チームaiyueyoのざっくり全体像】
【循環商店街の様子】
なるみ:ここで本格的に仕事ができるようになると、その後のキャリアを実現する場として、ナリワイ助産院とaiyueyoブランディングがあります。
ナリワイ助産院では自分の強みや想いを生かし、自分だけの唯一無二のお商売の形を見つけていきます。例えば、家庭菜園の事業をやりたいという人、3割ぐらい農業しながらバランスをとってやっていきたいという人など色んな人がいて、ここでスキルを磨いて、ナリワイにしていく仕組みをつくっています。
aiyueyoブランディングは一人ひとりの農家さんと向き合い、ブランディングに関わるサービス提供をしたり、自分らしくお商売をしたい人を応援したりする道などがあります。とはいえ本格的なブランディングのクリエイターにはスキルが必要なので、ブランディングクリエイター3大講座(ブランディング戦略家、ブランディングデザイナー、ブランディングライター)というものをつくってスタートしています。受講後、実際関わったものをフードカタログギフトでまとめたり、アソートボックスをつくって販売したりする中で農に関わる仕事に共感してくれる人たちを自分たちで生み出す。そこで生み出されたお金はさらに仲間が新しく生み出された生業に投資をしていって経済の流れを作っていく。
一回のイベント等でライフスタイルを変えることは難しいので、チームaiyueyoに関わり続けられる仕組みを整えることで、自然と「暮らしと仕事が心地よく共生できる」状態をつくっていくことができると考えて活動しています。
組織づくりのポイント④ 組織に依存せず自分軸に基づく「ナリワイ」をデザインする
研究員:手放す経営ラボラトリーもコミュニティカンパニーとして運営しています。先程3つの「ショク」の説明を聞き、「職」、ナリワイという観点は新しいなと思いました。社会を見ると今色んなコミュニティが立ち上がっていますが、経済が回っているところはとても珍しいんじゃないでしょうか。
なるみ:そうかもしれませんね。ただ、仕事ではなくあえて「ナリワイ」という言い方をしているのは、一つの仕事で生計を立てるということを手放しているからなんですね。例えば私はTUMMYでは大きく3本の仕事を持っていて、ブランディング周りのお仕事、レクチャーの講師の仕事、ポッドキャストのパーソナリティをやっています。また食と農に関係ない、中小企業向けのブランディング事業も「純化」という別会社にして運営するようにしました。
チームaiyueyoでもいくつもの顔を持ってお金を稼いでいる人がいます。例えば経理しながらナエドコのリードをしている人、ブランド戦略家をやりながらフリーの料理家の仕事をしている人、サラリーマンをやりながらaiyueyoのブランディングに関わっている人など、色んな人がいます。
研究員:終身雇用で一社に身を捧げていた時代は終わりつつありますが、とはいえ色んな仕事を掛け持ちすると、パンクしてしまうことはないのでしょうか?
なるみ:いや、それがむしろどんどん自分らしさに特化していく感じです。私は以前はなんでもできる自分になろうと無理をしていました。書類を読んだり日程調整をしたりするのが死ぬほど苦手なんです(笑)しかも苦手だと思うとどんどん苦手に感じてくる。それを手放し自分らしくないもの(苦手なもの)をどんどん渡していくようにしました。今では、「旗振り」と「助産」(誰かが自分らしく生きるのを助産)が自分のナリワイと決めています。もう自分らしくないやり方をすると苦しくなってくるとわかっているので、「これはアシスタントを頼もう」等、判断が早くなっているなと感じています。
研究員:旗振りとは、組織の方向性を示す旗振り役。助産は、出産はあくまで本人がするから、新しい自分・ナリワイを生み出すのを助ける役ということですね。言葉の選び方が素敵です。
今後の活動としてどのような展開をイメージされていますか。
なるみ:私たちがやっている活動はいわゆる「ビジネスチャーンス!」「儲かるぜ!」からスタートした活動ではありません。けれど、愛を感じよう、愛を送ろう、愛を表現しようという「愛本主義」「愛食」が広がってみんな豊かになればいいなという願いを持って活動しています。
今は2026年にチームaiyueyoのメンバー300人にしていこうとマイルストーンをおいて活動しています。今のところオンライン中心の活動ですが、今後は「aiyueyo千葉」「aiyueyo名古屋」など、地域に土着していきたいと思っています。今は私が旗を振って一つの組織として活動していますが、行く行くはラーメン屋の暖簾分けのように地域ごとに旗振り役がいて、活動を育てていけるといいですね。
子育てを考えると、やはり近い距離、「子どもの服小さくなってしまったのであげるよ〜」という距離感でやっていけるようなコミュニティの存在が必要ですね。
研究員:手放す経営ラボのブランチのようなイメージですね。今後、手放す経営ラボとはどんな協働をしていきたいですか?
なるみ:まだ手放す経営ラボには入ったばかりでもっと知っていきたいな、という段階です。これまでの話を聞いてどうでしょう?手放す経営ラボとチームaiyueyoは似ていますかね? まずはこのインタビューを通じて私たちのことを少しでも知ってもらって、対話を始めることができれば嬉しいなと思っています。
【現地リポート】愛食フェスで、生きるを体感
4月23日、インタビューを実施する前になるみさんにご招待いただき、「愛食フェス」に参加しました。実際に足を運んでみてわかったことが、イベント自体が外部向けではなく、全国に散らばる仲間が一同に会して交流を深める、貴重な場だったということです。それにもかかわらず、みなさんが温かく迎え入れてくださいました。
みんなで畑の野菜を収穫をした後は、大人がわいわいごはんの準備をする間、子どもたちはカブトムシを取りに行ったり、落ち葉の山で遊んだり。出来上がったごはんは、まるで宝石のように美しくビュッフェ形式で並べられました。そして、青空の下、みんなでピクニックシートを引いていただきました。途中、「愛食」という考え方やコミュニティの活動を伝えるラジオ番組の収録が始まり、冒頭はなんとプロジェクトリーダーの方のサックス生演奏!プロ意識が働いて何度も撮り直されている様子は微笑ましく映りました。そこから農家さんやプロジェクトメンバーなど様々な人々が変わるがわる、活動に携わる中での思いを話されていました。
美味しいごはんに、家族、仲間の笑顔。
ラジオで話されている内容や、その場にいらっしゃった方々と話をする中で感じたことは、TUMMYに関わることによって、一人ひとりが自然と自分のやりたいこと、ライフキャリアで大切にしたいことが明確になり、生活も仕事も分離も矛盾もしない自然な生き方に変わっていく、ということです。農家さん、ライター、イラストレーター、WEBデザイナー、「妻が働いています」という旦那さんなど色んな方がいらっしゃる中で印象的に残ったことがありました。
「なるみさんを『社長』としてみることはあまりないかも。もちろん色んな相談をするのですが、仲間として対話しています。みんな自由に活動しちゃっていますね。」
そこには言葉として表現されていないものの、「自律分散」のあり方そのものを私たちは感じたのです。
(愛食フェス詳しいレポートはこちら)
インタビュー後記
・なるみさんがスーパーウーマンなのかなとも思ったのですが、自分がごきげんになれる世界をつくりたい、そしてその世界観の素晴らしさを多くの仲間に還元したいという思いをずっと感じていました。コミュニティカンパニーのあり方が、自分らしさを深めたり、発揮する場というだけでなく、経済が自然と回るようになっているので感動です。 (研究員 坂本智子)
・数々の「ナリワイの助産」ができているところが先進性を感じた!またなるみさんが社会人4年間でしっかりとブランディングの力を身につけてこのビジネスモデルの土台をつくっているところがさすがだなと感じました。(研究員 天明茂)
・メンバーさんだけでなくそのご家族・ご友人ともお話しでき楽しかったです。メンバーの皆さんがナエドコで向き合うことから始めたことへの感謝、そこから生まれた変容を感じてメンバーではないけどと集まった人たちの思い、そしてなるみさんが「全部私がするのではない。でも次に来る人たちに向けて広く緩く温かに」とおっしゃった言葉が印象に残っています。美味しいだけでなく彩り香り心地よい風等々、語感が広がるイベントに参加できたこと改めてお礼申し上げます。(研究員 西島世詩鼓)
インタビュー・原稿作成:坂本智子
校閲:野見将之
校正:天明茂・西島世詩鼓