進化型組織への変革に向けて、経営者が特に不安に感じられることは給与や資本金など財務構造を変えることが挙げられます。DXOの中でも紹介しているプロフィットファースト(みんなでお金を管理するシステム、通称「MIKANシステム」)は導入ハードルは高く感じられるものの想像以上のインパクトを導入企業様にもたらしてきました。今回は株式会社HOLISの代表片桐拓也さん、そしてDXOを導入されたGreen propの代表川添克子さんをお呼びし、DXO×MIKANシステムの効果や、またそれに伴うリスクなどを徹底取材しました。
※MIKANシステム(プロフィットファースト)を含めたDXOがわかるセミナー動画はコチラ(二部構成)
『株式会社 Green prop』代表取締役
川添 克子さん
1994年『株式会社筑紫環境保全センター』(現『株式会社Green prop』)に入社。2002年より副社長として実質的な経営を担い、2013年代表取締役に就任。美容業界という前職の経験を生かし、廃棄物処理のコンサルティングサービスやCSR・ブランドづくりを展開。2012年に3R推進全国大会にて「環境大臣表彰」受賞。グループ会社の代表も担い、環境・CSR分野からステークホルダーのサスティナビリティ向上に邁進している。片桐拓也さん HOLIS株式会社代表/手放す経営ラボラトリー コモンズ
中部地方を中心に中古ゴルフ用具の買取・販売、貸衣裳、質屋、こども写真館、リサイクルショップ、宅配買取事業、二次会・イベント・ゴルフコンペ景品、結婚相談所、訪問治療院など10法人、24事業、63店舗を経営。現在は、社員数は全事業合わせて500名を超えるまでに成長。書籍「ティール組織」と出会い、衝撃を受け、自社をティール組織化すると決意。
乾真人 手放す経営ラボラトリー研究員/株式会社ブレスカンパニー取締役
オリジナル化粧品の製造販売を行う会社を経営。オリジナル美容メソッドと共に世界7カ国へ展開するビジネスを構築。その後 「ごきげんな世界」を実現すべく、手放す経営ラボラトリーに研究員第一号として参加し、マーケティング、コーチング、NVC、チームビルディングの考えを融合させた進化型組織デザインプログラムDXOを開発。これまでに、商社や病院、サービス業など、様々な業種、規模の組織へDXOを提供し、ごきげんに進化型組織への歩みに伴走している。
片桐さんへの溢れるリスペクトからオリジナルグッズまでつくってしまった川添克子さん(左:Green prop代表)、片桐拓也さん(中:HOLIS代表)、乾真人
「買取王子」の衝撃
乾:なんでも川添さんはかなり前から、片桐さんのファンだったとか?
川添:実は…そうなんです。ずっとウォッチしてました(笑)私、このなかで一番古くから片桐さんのことを知ってると思います。実はHOLISが運営する「買取王子」のビジネスモデルのファンだったんです。
片桐:ああ、それはありがたいです(笑)。
川添:買取王子は、いろんな中古品をバンバン買い取って、それを仕分けして、個別に価値づけと値決めをしていくというスタイルで、斬新だなと思っていました。業界は違いますが、同じようにワンストップサービスをやってる私からすると、「超カッコいい! やられた〜!」「天才がいた!!」と思ってて(笑)実際はどうなってるのかっていうのを知りたいっ!って思ってました。
片桐:そうなんですね。もともとDVDの中古販売がスタートだったんですけど、そこから「買取王子」というブランドを創って、「Amazonで売ってるものならなんでも買い取ります」というキャッチコピーで始めたんですよ。最初はビジネスモデルがちゃんと完成してなくて、何年間かずっと赤字だったんです。でもだんだん、採算が取れるようになってきました。
実はず〜っと片桐さんファンだったという克子さん
川添:仕事内容やビジネスモデル、見せ方などずっと勉強させていただいていました。進化の仕方がすごくて! ずっと追っかけをやっていたんです。一方で自分の会社の変化を起こしたいって、ずっと前から思っていて。毎年毎年「変わるよ〜!」って社内で宣言しながら事業計画を練るんですが、なかなか変わらず…。
片桐:組織の中のことですか?
川添:そうです。組織を活性化させて、自走式の経営スタイルに変えていきたいという思いがあって、中長期計画から単年度から落とし込んで、ずっと取り組んでいました。
(詳しく経緯はこちら:https://tebanasu-lab.com/interview/16742/)試行錯誤する中で、会社が火災にあって全焼してしまったんです。顧客情報から仕事のデータ、契約内容も、全て失くなってしまって、もう茫然自失…。でもその時に、社員がみんなものすごくがんばってくれたんです。それまでなかなか変わらなかった組織が勝手に自走して、すごいスピードで復活したんですよ。「あ、やっぱりできるんだ!」という実感と、同時に「経営者の私の仕事って…何だろう?」って思ったんです。今までの歴史を整理してみて、大切なことは何か? 残すべきことは何か? と、改めて本質を掘り下げて考えたときに、「経営者の仕事って、みんながイキイキと働ける場をつくることなんだ!」と思い至りました。そして「自分はやるべき仕事よりも、やらなくていいことや、苦手な仕事をたくさんやってるなぁ」と思いました。
片桐:なるほど。わたしも同じように感じたことがあります。
川添:自分も社員のみんなもイキイキできる道を探していく中で、坂東さん(手放す経営ラボラトリー所長)に辿り着いたんです。「組織が自走していて、かつ利益も社員への報酬も信じられないくらいに出ている、めちゃくちゃすごい会社がありますよ」という話を聞いて、紹介動画を見せていただいたら「これだ!」と。同時に、そして「わぁ、片桐さんだ、王子だ〜!」って(笑)
乾:「王子がここにいる!」って?(笑)
川添:そう、そのときに「あぁ、めちゃくちゃ縁があるなぁ」と思いました。
片桐:一回も会ってないのに(笑)
川添:そう。一回も会ったことがないし、一方的に見聞きしてるだけなのに、「あぁ、これは縁だ」と思いました。それから、さらに情報収集していくうちに「社員みんなが本当に幸せになるし、イキイキ働ける場所になる」と確信ができたので、坂東さんに相談しました。そこでDXOを紹介いただいて「じゃあそれにチャレンジしよう!」と決めたんです。
乾:会計のアップデート(プロフィットファースト)を導入することは最初から決めていたんですか?
川添:はい、DXOを導入するときから、会計のアップデートもセットでやるもんだと思っていました。ただ、書籍を読んだことはあるものの、具体的にどうするのかがわからなかったので「実際の仕組みはどんなスゴいことになっているんだろう?」と興味津々でした。
王子を見つめる目がハートの克子さん
DXOとプロフィットファーストの「神」的組み合わせ
片桐:書籍「プロフィットファースト」では、経営者が会社の利益を最大化するための考え方しか載ってないので…、どうやるかはブラックボックスなんですよね。
乾:DXOはフレデリック・ラルー著の「ティール組織」を参考にしています。“助言プロセス”という、誰もが意志決定できる自律分散型組織の体制をつくっていくのがキモなんですが、、そこに会計の仕組みもアップデートすることで、お金の決済まで社員ができるようになる。これは「神」的な組み合わせですよね。
片桐:意志決定の仕方については、書籍「ティール組織」に何パターンか書かれてましたよね。合議制と、議論制(誰か反対意見がでたら、論破して勝てば採用)、多数決制など。議論制は今までとそんなに変わらないし、結局権力が偏ってしまいそう。。多数決にしても、知識や経験がある人じゃないと、そもそも提案や意見もできないのではないか。そう考えると、DXOにある、直観的にアイデアが閃いた人や、これやりたい!という意志が芽生えた人が、アドバイスを受けた上で決めていい、というスタイルはいいと感じました。とはいえ、経営者がお金を使う判断にはシビアです。自分は会社にお金があろうがなかろうがどんどん意志決定しちゃうんですけど、社員がお金を使おうとすると、つい反対したくなっちゃうんですよね(笑)。なので、社員が会社のお金の決済をする際に経営者が止めなくて済む仕組みをつくりたいと思ったんです。いうことで、役員報酬などの経営者の口座(オーナー口座)と、社員が使える口座(経費口座)を分けて、経費口座の範囲内ならどれだけ使ってもいいよ、という制度設計を考えたのがスタートでしたね。
乾:あと、経費口座の残金を3ヶ月に一度社員で分配する、というのと、社員の出資制度を組み合わせたところは、完全に片桐さんのオリジナルですよね。実際、そこがいちばん効果的に作用している気がします。
片桐:それもティール組織の書籍で、「経営者と社員の差をできるだけなくす」というところから参考にしました。経営者って最初にその事業をやりたいと決意して、資本金を投入する人。そうしたら役員報酬は、ぶっちゃけ働こうがサボろうが、もらえますよね。さらに、会社が儲かったら配当などでさらにもらえる。つまり報酬面で経営者と社員の差は大きいんです。なので、HOLIS式プロフィットファーストでは、儲かったときはぜんぶもらえるし、儲からないときは自分からお金を入れていたので、儲かったら3ヶ月に一度社員みんなに分配。そのかわりもし儲からなかったら、みんなで痛みも分かち合おうよ、と考え方で設計をしました。また、経営者が出資することで自分ごと化しているように、社員みんなも何らかのカタチで会社に出資する。3ヶ月に一度出資比率によって利益分配される。そうなったら、経営者と同じような気持ちになるんじゃないのかと思いました。そうして創った出資制度、最初はちょっと入れてくれたらいいなって思っていたのが、予想以上にみんなめちゃくちゃ出資してきてくれて(笑)それまでは自分ひとりだけで戦ってると思っていたのが、みんなのお金が入ってきてみんなと一緒に闘っている気持ちになれて。そこでかなり自分の捉え方が変わりました。そのあとも、3ヶ月に一度の分配の際にも、当初の予想をはるかに超える金額になったんですが、「払いたくない」という気持ちにならなかったので(笑)そういう仕組みを創れて私自身にとってもよかったかなと思ってますね。
試行錯誤の手の内を余すところなく伝えてくれる片桐さん
イチかバチかの決断。社員も経営者と同じ痛みを
片桐:とはいえ、なかなかダイナミックな改革ですよね。お金の社員への分配も、今までの常識ではあり得ないですし。給与はベースアップするし、万が一口座にお金がなくなったら、自分達でなんとかしてね、というルールも。私はこれまで(ティール組織導入前)、どんなことがあっても業者さんへの支払いや従業員への給料を止めたことは一度もないです。他の人からもそんなことを教えられたことないですしね。
乾:そんなの誰も言われたことない(笑)
片桐:そう。仮に自分と家族が食べるものが粗末になっても、社員には給与を払うものだ! ということを、先代が身を持って実践してきたのを見てきたので…。今は自分自身も新しい考え方に慣れたのですが、他の企業が導入する時には「大丈夫かな?」って心配になります。
乾:片桐さんも他社にお伝えするときは、心配されたんですね。川添さんは、導入前に片桐さんと話す機会を持ちましたが、そのときの印象はいかがでしたか?
川添:最後まで悩んだのはそこですね。給与や経費支払い分のお金が口座になくなっても、会社は補填しないというルール。
乾:そうですよね。大分悩まれてましたね。
川添:今までずっと黒字経営だし、もちろん利益も出ているので、絶対大丈夫、そういう事態にはならない!とは思ってるんですが、何かあったときに私自身が我慢できるかな?という不安はありましたね。
乾:「最初から一気に変えるのではなく、徐々に慣らしていったほうがいいのでは?」とおっしゃっていましたけど、そういうものじゃないですよね。
川添:ええ。話を伺えば伺うほど、これ、100か0か。やるか・やらないかだなと思って。徐々になんて無理だなと。
ついつい前のめり気味になる克子さん。
片桐:そうなんですよね。うちがこの仕組みを導入するときは、11月1日から全事業で一斉に始めたんですけど、うち4事業部ぐらいはすごい赤字でした。でも、この仕組みでやろうって決めて、舵を切ったんです。スタートしてからも赤字のままだと、最悪未払いになってしまうので、それはまずいと思って、赤字が出てる部門は本気でテコ入れしました。経費を絞って、売上を上げて、と、、私自身も関わって、未払いにならないように一所懸命仕事しました(笑)。でも、残念ながら11月末に払えない部門が出てきてしまったんですよ。このときに、じゃあどうするの? と。初月だけは、会社で支援しました。そして翌月です。うちは給与が20日払いで、業者さんへの支払いが月末にあるんですが、給与は払えても、月末の業者さんへの支払いがちょっと危ないという事態になりました。具体的には何社かへの支払いがちょっと遅れてしまいそうだ、となったんです。この時に、業者さんへの支払いが遅れることへの社員の危機感が、薄いように感じたんです。実際、みんなは自分の給与が確保されているし、業者さんへの支払いが滞っても自分の懐が痛むわけじゃない。痛みが伴わないんですよね。それは改善しようということで「業者さんへの支払いが100万円滞ったら、社員の給与を100万円減らす」というルールを導入したんですよ。そこから社員みんなの本気度が変わりましたね。4年経ったいまでもそのルールで運営しています。
乾:そこが一番大切なところだと思うんです。シンプルに言うと、「業者さんに払えない時は、給与も払えないよ」っていう話ですよね。川添さんはこの話を聞いたとき、どう思いましたか?
川添:できないと思った(笑)
片桐:できないと思いますよね。でも私の経験上、そこで甘やかすと、どんどん痛みが広がっていくんですよ。
川添:たしかにそうですよね。意外にドライな取り組みなんだと、ビックリしました。というのは、さっきも言ったように「みんながイキイキ働く場をつくる」という思いが、私の中でしっかりあったので、「お金の不安があったら、イキイキできなくない?」と思ったんですよね。でも考えて、考えて、考えた先に、“自走式で、一人ひとりが自分で判断して、動いて、稼いでいく、ということが「イキイキ」することなんだ”といういうことを理解した瞬間がありました。そこで「ああ、もう、これはやるしかない」と(笑)。誰かからお小遣いをもらって生活しても、楽しくないじゃないですか。
片桐:そうですね。
川添:「給与が払えない時に払わないのはなぜか?」ということを考えた時に、自分で考えて、判断して、キャッシュフローを回していかないと、ひとりの人間としても社会人としても、成り立たないということが理解できたんです。
表情も「イキイキ」としてきた克子さん
社員から求められてる?一人ひとりが究極の自立を経験
片桐:私がティール組織を導入したのは50歳の手前です。今すぐではないですが、ゆくゆくは私の子供が後を継ぐことをイメージしていました。私が興した事業には思い入れもありますから、できれば続けていって欲しい。でも後継者が「赤字を出すんだったら辞めちゃおうよ」って、事業の撤退を決断しちゃう可能性もある。オーナーの一存で、そうした決断を簡単にして欲しくはないなあと。なので、そうしたトップダウンが簡単にできないように、社員で自主経営をしていく仕組みにしたかったんですね。“経営”をする訳ですから、制度には先ほども言ったような、ちょっと厳しい側面もあります。
川添:赤字になるといういうこと自体「社会から求められてない」ということになりますよね。
片桐:そうですね。お客様から頂いたお金から付加価値を生むのが利益、なんだという考え方を社内で共有したいですし、付加価値を生み出せてないということは、自分たちがやるべき事業じゃない、という判断をして欲しいとも思います。
川添:なるほど。社会に対してお役に立てているのか? 自分たちの提供価値が本当に届いているのか? 実は独りよがりではないのか? 自分たちで考えることが、とても大切だし、それが自主経営につながるということがよくわかりました。
片桐:売上が厳しいときは、経費を絞るか売上を増やすかしかないわけですよね。たとえば、お客様に提供しているサービスの料金10,000円だとして、その金額だと5%赤字になってしまうとする。その時にお客様に対して「10,500円に値上げさせてください。」」というお願いを、社員が自ら判断してやっていく、ということなんですよね。ふつうはそうした判断は経営者が行う。そうすると社員から「いや、値上げなんからしたら買ってくれませんよ」と反対されて、なかなか実行が進まない。うちもそうでした。それが会計の仕組みを導入して自律分散型にしたことで、劇的に変わったんですよね。
DXOで情報が瞬時に見える、協働が変わる
川添:私の場合、これまでは現場が見えていないのに判断だけ託されることもありました。現場がわかってない私が判断するのはおかしいよなぁ…と思ってたし、現場のことを知りたいと思うけど、ずっと一緒にいるわけじゃないので…、見えない部分がたくさんあったんですね。でも、DXOを導入して、Slackでみんなの情報のやり取りの透明化ができると、見事に、各人の動きが見えるようになりました。特に、離れている中国支店は見えないこともたくさんあったんですけど、いまでは毎日の動きがぜんぶわかります。Slackではずっといいねボタンを押してます(笑)。
片桐:そうなんですね。slackで共有してるんですね。
乾:だから最近は、お客さんの情報も現場からすぐ担当者の方のところに行って、お客さんから問い合わせがある前に、先回りしてお客さんと話ができるようになったと聞きました。
川添:即答できる。この仕組みで変わったところですね。
片桐:今までは上司・部下のコミュニケーションだったのが、役職関係なく個人から個人にダイレクトにやりとりできる、という感じになってたってことですかね。
乾:各人が役割分担して進めている仕事が、リアルタイムにお互いの情報が全て見えるようになったことで、協力しやすくなったということですね。私もslackに入っていますが、みなさんの状況が手に取るようにわかります(笑)
会計と情報共有、意志決定の仕組みが相乗効果を生んでますね!
(後編に続く)
インタビュー:乾真人
校閲・校正:坂東孝浩
編集:Satoko Sakamoto