株式会社Green propは廃棄物の観点から長年環境に取り組んできた創業30年以上の歴史ある会社。
前回(https://tebanasu-lab.com/interview/16742/)は経営者目線での変革のストーリーをお届けしましたが、実際現場で推進されてきた社員の方々はどのように感じていたのでしょうか。今回はDXOワークショップのメンバーだった内藤さん、丸山さん(以下、敬称略)にお聞きしました。
左から坂東、丸山、内藤、乾
しばらくは「このワークショップ、不毛だなあ」と思ってました。
坂東:まずはDXOのワークショップを始めたところから、お伺いしていきたいと思います。始まった当初はどのように感じていましたか?
内藤:本音を話していいのでしょうか…?(笑)正直言って、DXOを導入するだけで、そんなには変わらないだろうな、と思っていました。これまでも変革に向けて色々な活動をしてきましたが、劇的に変化したという実感はなくて。だから今回も、何も変わらないんじゃないかなあ、と、あまり期待してなかったですね。
乾:正直にありがとうございます(笑)
丸山:ワークショップの最初のステップは、会社として大切にする言葉を決める、でしたよね。そこがすごく時間かかったじゃないですか。私たちはこれまで、何というか、「余白なし」で生きてきたので、「この時間、何なんだ?」とずっと思ってましたね…(笑)内観するような内容も多くて、そこには個人的に苦手意識がありましたし…。私も正直言うと、不毛だなぁと感じていたところがありました。
乾:これまた、正直にありがとうございます(笑)
すみません、正直不毛、と感じてました
丸山:あ、でも、ワークショップが進んでからは、目からウロコの連続でした!会社としての目的とチーム編成を考えるステップぐらいから、少しずつ輪郭が見えてきて、「変わるな」という実感がありました。ヒエラルキー組織が一般常識としてある中で、本当のフラット(な関係性)とは何なのかを体感できました。リーダーじゃない「チームドライバー」という存在や、経営チームは挙手制とか、経営側が決めずに現場が決める、とか。インパクトが大きかったですね。
内藤:そう、なかなか最初は理解しづらいんですよね。以前東京に出張に行ったときに、ATGREENというグループ会社の人とご飯を食べていたんです。そのときに、Green propでは上下関係もなくなり、各々で発案して決めていく体制になったという話をしたんですね。そうしたら、めちゃくちゃ反論されて(笑)「いち社員にそんなに権限を渡すなんて、経営者の責務放棄じゃないですか」とか「経営判断や事業運営を放棄しているのと一緒じゃないですか」とか。たしかに、いきなりその話を聞いた人なら当然のリアクションだったかもしれないですよね。同じように、家族に説明するのも、理解を得るのが結構大変だろうなと想像します。
そうした反論を聞いて、改めて思ったんです。私たちはワークショップを通じて様々なプロセスを経たからこそ、「なぜこのやり方なのか」を理解していたからこそ、同僚のような反応にはならなかったんだなと。逆にそのプロセスがなければ、ここまでの拒否反応がくるんだと(笑)。
坂東: なるほど。ワークショップに関わっていない同僚の方から、そんなふうに心配されたんですね。
丸山:お客様に自社の体制変更の話をしても、想像しにくいのでそもそも理解を得られないですね(笑)特に驚かれるのが、「役職がなくなる」「社長と呼ばない」あと、「決裁なくなって、意思決定を発案者がやる」。「えっ!?…えっ!?それでどうやって会社がまわっていくんですか?」と驚かれて。みなさんポカーンとなりますね(笑)
乾:わかります(笑)でも丸山さんご自身は、今は納得感があるということですよね?
丸山:そうですね。助言プロセスという意思決定の仕組み。それを機能させるためにチャットツールで全部オープンにしてコミュニケーションをとれる状態。他のチームの状況もわかり、参加したければ他のチームの会議も参加できる。などなど、様々な細かいルールや仕組みがわかったので、納得できてますね。
坂東:たしかにたしかに。そうか、仕組みの背景理解大事ですね。
確かに、結論だけ聞くと「なんのこっちゃ」ですね
強制されるのではなく、仕組みによって自然と自主経営の意識が醸成されていく。
坂東:当初は想定していなかった、お金の仕組みもガラッと変えましたよね。HOLISの片桐さんにサポートしていただいて、会計の仕組み(プロフィットファースト)を導入しました。これについてはどう思われていましたか?
内藤:上下関係も、評価制度もなくすことになったので、「評価しないのに給料はどうするんだろう?」と疑問に思っていたんです。でもプロフィットファーストの「評価しないで“分配”する」という話を聞いて、納得がいきました。
丸山:あの仕組みも目からウロコでした。「まず利益を先に確定する」という考え方!「それは赤字にならないよな」と思いました。それまでも克子さん(Green prop社長)からプロフィットファーストの書籍については聞いていたのですが、実際に体感するとぜんぜん違いました。情報の透明化や意思決定のやり方など、組織の仕組みとお金の仕組みの連携があるからこそ、社員一人ひとりが自律分散型で主体的に意思決定、運営していくための階段を一つ一つ昇って、成長していくことができるのだと思いました。「ほんとによくできているなぁ!」と感心しています。
坂東:“不毛”から“感心”に評価がアップされて嬉しいです(笑)DXOチームは一つずつ取り組んでいたのでプロセスは共有していますけれど、他の社員の方たちは違いますよね。社内の反応はいかがでしたか。
内藤:最初は「一部の人たちだけで決めてるんだよね」っていう受け止め方だったかもしれないですね。でも結局、「自分たちで発案してやっていくんだよ」ということが、チーム編成やミーティングを通じて伝わっていって、意識が自然と変わっていったと思います。
乾:それなら良かったです。安心しました。話は変わりますがおふたりは役職者だったじゃないですか。今回「役職がなくなって嫌だな」とは思いませんでしたか?
内藤・丸山:全然ないです(笑)
内藤:権限がなくなることへの懸念というよりは、権限はなくなっても影響力は残って勝手に忖度されるかもしれないので、あまり横からはいろいろ言いづらいというのはありました。
乾:なるほど〜!
役職ないのが嫌、というか、自分の影響力が残ったらどうしよう?って思いました。
「グリーンの罠」を超えて、その先へ
内藤:これは今悩んでいることですが、チーム編成の時、3人以上という条件がありましたよね。私のチームは今まで2人でスピーディに活動できてやりやすかったのが、そこにプラス2人入って4人になったんです。そうなると、考えていることのレベル感が全然違ったり「これでいきたい」と思っているものがうまく決めきれなくて、時間がかかってしまうことがあります。別に新たに入ってきた2人を置いていきたいわけではなく、一緒にはやっていきたいのですが、すごく難しく感じていることです。
坂東:平等である必要はないと思うんですよね。たとえば4人のチームの中で、決める人と実行する人とか、役割分担があってもいいと思うし、もし考え方のギャップがあるときは、意見を出したり意思決定ができるようになるまでしばらくプロセスを見ておいてもらうというフェーズがあってもいいと思います。特に新規事業など早い意思決定が求められる場合は、スピード感を最優先した役割分担を決めて、もちろんそこに階層をつくっていいと思うんです。その際に大事なのは「上だから偉い」「下だから偉くない」ではなく、「取りまとめる人」と「サポートする人」といった役割での階層です。合議制や「みんなで話し合って決めること」を重んじすぎる必要はないと思います。
内藤:なるほど。
みんな平等、でなくていい
坂東:「ティール組織」(※)という本に「グリーンの罠」というものがあります。みんなの意見を大事にしすぎて、合意形成にかなり時間がかかりなかなか決まらない。そこにはまって、「事業推進のスピード感が落ちるから、元に戻そう」と言ってオレンジ型(目標達成型)の組織に戻っちゃう、というケースもあります。けれどそれでは「決めたいのに決める権限がなくなっちゃった」というストレスが発生します。
私は基本的に、「決めたい人が決める」でいいと思うんですよ。話し合う際に、決める人を決めておく。それ以外の人は好きなだけ意見を言う。でも最後に決めるのは意思を持った人。そう取り決めておけば、活動のスピード感は落ちません。
内藤:そうか、たしかに。助言プロセスは意志ある人が決めるということがわかっていても、「私が決めていいの?」と思うことがあるんです。でもそれも役割分担ってことですね。
丸山:なるほど。一方で、一人ひとりが自分の意志があることについて、自ら意思決定して、ちゃんと経験に変えられるまでやり切ることがすごく大事だな、って思ったところでしたね。例え失敗しても、意思決定したこと自体が血肉になりますよね。
乾:本当ですよね。意思決定がうまくなるためには、練習が必要です。練習には失敗もつきものだから、小さいことでも意思決定をしてみることが大事です。とはいうものの、なかなか勇気がいることですが…。Green propさんで今までは寡黙だった方が、バシバシと助言プロセスを出してますよね。変わりっぷりがすごいなあ!と思って見てます(笑)
丸山:彼に関しては得意分野がハッキリしているので、そこで量産していますね。
坂東:得意分野を生かしてやりたいことができるっていうのが、この仕組みのいいところなんですよね。、それが会社に対しての価値提供につながり「この会社にいて楽しい」って思えれば、それが理想ですから。…何だか、インタビューが対談のようになってきましたね(笑)
これってインタビューでしたっけ?
新しい組織がスタートした1日目に、ディープインパクトな出来事が!
坂東:まだDXO導入後1か月ですが、実際7月から新年度になってお金の仕組みも変わって、分配金や出資金のやりとりがされるようになり、自由に意思決定できるようになりました。社内の空気に変化は感じますか?
丸山:ちゃんとみんなと話しているわけじゃないんですけど、社員からの出資がかなり集まっているのはびっくりしました(笑)「うそでしょ!?」と。
乾:スタート初日に、ある社員さんがドーンとものすごい金額を出資していましたね!。あれは、ディープインパクトでした。
内藤:あれは相当説得力あったぞ(笑)
丸山:本当にディープインパクトですよね。私も出資しましたけど、仕組みも含めて「壮大な実験が始まった」と思っています。本当に効果を感じられるまで、おそらく2年、3年ぐらいはかかると思っているんですが、出資に関しては、締めの3か月後でどうなるのか、本当に楽しみですね。そこからまた変わっていくと思います。
乾:今はどのようなことに取り組まれているのですか?
丸山:約3年前、中長期計画を作り直して、「自律型未来創造主義」というポリシーを掲げて、試行錯誤して来ました。評価制度を作り直したり、教育を再検討したり、なかなかうまくいかなくて。DXOが、自走する人材・組織をつくる最終手段だ!ぐらいに意気込んで取り組んでいます。自律分散型にするために「指示命令してはダメだ」と思うんだけど、うまく行かせたい、に言いたい、という思いもあって。「こうだと思うんだけど、どう思います…?」と言いたいのを堪えて質問する、という葛藤を味わってます。
坂東:そうそう、命令がしづらくなって、「お願い」になってきますよね。私は「やってよ」って言えなくなった自分が弱腰になった気もしていました。でも、今はやってもらいたければ、ちゃんとお願いする、ということが当たり前に思えるようになりました。
丸山:そうですね。先ほどの議論にもありましたが、やっぱり、自分の意志に基づいて考えないと、次の行動には絶対につながらないと思うんですよね。以前は役職やリーダーという立場を前提に、何でも示さなければと思い込み過ぎていたかなと反省してます。社員の考える機会を奪うことが、自律の一番の阻害要因だと感じています。みんながもっと考えて、みんなが、粗くともまずは形にして表現する、発言するという形にしていきたいと思っています。
乾:ヒエラルキー組織は、会社や上司が決める仕組みです。社員がいくら考えても、上層部に良し悪しを判断される状態が続くと、自分ごとにはなりづらいですよね。だからこそ、シンプルに「自分で考えて、自分で決める」をセットで、練習を積み重ねることで多くの社員に主体性と判断力が身につき、豊かな組織になっていくと思います。
内藤:私はチームの人数が増えて、どうチーム内でふるまえばいいのか、などと悩んでいた面もありました。でも、これこそが組織変革の“旅路”であり、そう考えると乗り越えるべき前向きな課題だと捉えることができました。改めて、自分たちが信じる自走型の組織をつくっていこうと思えました!ありがとうございました。
坂東・乾:ありがとうございました。
ティール組織についてはこちら
https://tebanasu-lab.com/column/7596/
インタビュー・校正:坂東孝浩、乾真人
編集:Satoko Sakamoto