片桐さんプロフィール
株式会社TXT代表の片桐さんは、中部地方を中心に中古ゴルフ用具の買取・販売、貸衣裳、質屋、こども写真館、リサイクルショップ、宅配買取事業、二次会・イベント・ゴルフコンペ景品、結婚相談所、訪問治療院など15事業、約54店舗を経営。
社員数はグループで188名、パート・アルバイトで167名の全事業合わせて355名です。
これまで20年以上、経営者としてあらゆることを考え尽くし、手も尽くしてきたけれど、なんか違う。なんかうまくいかない。と悶々としていた。そんな時、書籍「ティール組織」と出会い、衝撃を受け、自社をティール組織化すると決意。
そこから組織改革を推進し、今は以前悩んでいたほとんどから解放されている状態だという。そんな片桐さんの組織改革とそのユニークすぎる仕組みについて迫ります。
ユニークすぎる運転資金の使い方
坂東:片桐さんは、手放すラボオンラインコミュニティーのメンバーでもあり、リアル店舗ビジネスでティール組織化を実現し、現在運用中の経営者です。コミュニティの中で、話題になった「会社の運転資金の運用方法」がとてもユニークだったので今日はそこを深掘りさせていただければと思います!よろしくお願いします!
片桐:こちらこそ、よろしくお願いします。まずは運転資金の枠組みを説明させてもらいますね。
私は、愛知県内を中心に15事業部で54店舗ほどお店を経営しています。事業は、ゴルフの中古販売や写真館を併設した貸衣装屋さん、結婚式場や、リサイクルショップや質屋などです。
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坂東:おぉ〜、たくさんの事業を経営されてるんですね。
片桐:そうですね。この中にはティール組織を増やしたくてM&Aした会社も含まれます。
坂東:なんと!ティール組織を増やすことが目的で?面白いですね〜
ますます、どんな仕組みで経営されているのか気になりますね!
片桐:ありがとうございます。では、具体的に紹介させてもらいますと…
まずは、事業部ごとの売上を5つの口座に振り分けるところから始まります。
①利益口座、②オーナーの口座、③税金の口座、④経費の口座、⑤返済の口座、この5つです。
それぞれに、売上の●%と口座ごとに割合を決めているのでその金額を口座に振り分ける仕組みです。
この中で、社員がコントロールしやすい部分が「経費口座」ということになりますね。
経費のコントロールを100%社員に任せるとどうなるか?
坂東:経費口座というのは具体的には何を支払うための口座なんでしょうか?
片桐:お店を運営するためのほとんどですね。家賃などの固定費から、社員の人件費、広告宣伝費など、ほとんど全てですね。
坂東:社員の福利厚生とかは?
片桐:それも、経費口座から賄います。
例えば、ある社員が外部の研修を受けたいなどの要望があった場合は、ティール組織でいう「助言プロセス」を発動して他のメンバーから助言をもらった上で決定するという仕組みになっています。
坂東:おお〜なるほど。金額の条件とかはあるんですか?
片桐:あります。1万円以上するものに助言プロセスを発動します。全部発動しちゃうと絵筆一本でも発動しなきゃいけなくなっちゃうんで。
例えば、ある社員が「マーケティングのセミナーを受講したい」と助言プロセスを発動したとします。これはグループメールやLINEでやり取りすることが多いのですが、その発案に対して同じ事業部のメンバーが助言をします。
「こっちのセミナーの方がいいんじゃないか?」「いいと思います!」など。
反対の人は、一所懸命助言してますが、結局最終決定するのは発動させた本人ですね。
だいたい1日くらいで決着がついている感じです。
坂東:早いですね〜。経費を使いすぎちゃう!なんてことはないですか?
片桐:ないですね。むしろ、お金を残そうという作用の方が働きます。
坂東:え?そうなんですね〜。社員の方には経費を残すことのメリットなどあるんですか?
片桐:あります。お金が残ったらそれは経費分配金と言って3ヶ月に1度社員に還元する仕組みです。
坂東:なるほど。詳しく教えてもらえますか?
片桐:はい。例えば経費が3ヶ月経過して120万円残っているとします。すると、その4分の1は社員に分配します。なので、30万円を山分けという感じですね。
残りの4分の3に当たる90万円は次回に繰り越します。そして次の3ヶ月、繰り越されていた90万の経費も含めて3ヶ月後に200万円経費が余っているとすると、その時はまたその4分の1にあたる50万円が社員に分配されて、残りの150万円が次回に回る。そんな仕組みです。
坂東:なるほど。そうすると、やたらめったら無駄遣いしよう!なんて発想にはなりにくいですね。助言を通じて他のメンバーからも見られているわけですし。
さらに、経費が残ればそれが自分にダイレクトに還元される。
だからお金を残そうという作用が働くんですね〜
ティール組織化の効能
片桐:この仕組みにしてからすぐに効果が出たことの一つが残業代です。いきなり15%減りました。
これまでは、もしかすると「残業代を稼ぐ」という心理があったのかもしれませんが、結局残業したら、みんなの経費口座から残業代が支払われることになり、経費口座の残高が減る。だけど、残業せずに残業代が支払われないことで経費口座の残高が減らない。
経費口座にお金が余れば、結局は自分に戻ってくる。
残業しなくてもお金が還元されれば「残業代を稼ぐ」という発想は無意味ですもんね。
坂東:確かにそうですね。会社のお金の流れ全体が見えているから、そこに一人ひとりの行動が紐付きやすくなるんですね。
片桐:それから離職率がほぼ0%(※)になりました。それまでは年間10〜15%程の離職率だったのですが、この制度にしてから離職が出なくなりました。
やっぱり、納得感があるんだろうな、と思っています。
※ティール組織化後1年以内:ティール組織化する前に寿退社が決まっていた2名。ティール組織化して結婚退職も含め、退職は0
坂東:納得感!それこそが大事だったりしますよね〜
片桐:他にも、社長として嬉しいことがありまして・・・
以前は、僕の提案で何か企画をしてそれが功を奏して売上が上がったとしても、社員は嬉しそうじゃなかったんですよね。
「忙しくなるじゃん・・・」そんな感じだったと思います。
だけど今は、僕が考えた企画が功を奏した時は「ありがとうございます!」って素直に喜んでくれるんですよね。なんか一体感を感じますね。嬉しいです。
坂東:そうなんですね〜。それもやっぱり売上が立って、それぞれの口座に振り分けられて、そこからそれぞれが会社のことを考えながら使っていって、そして売上が立って、社員に還元されて。
すごくシンプルで分かりやすいっていうのがポイントなんですね。
片桐:そうです。家庭の家計簿と同じくらい簡単でシンプルな仕組みなんです。
だから、わざわざ財務諸表の勉強などしなくても社員全員が理解できます。
今後の課題。投資という発想。
坂東:なるほど。すごくうまく行っているように見えますが、課題はありますか?
片桐:そうですね。先ほども言ったように、お金を残そうとする作用が働く。というところですかね。経営には思い切って攻めることも必要ですが、財布の紐が堅くなりがちですね。
今後は、「投資の発想をいかに持ってもらうか?」というのが課題だと思っています。
攻めの投資をすることで、売上を更に上げていく。この辺はもう経営者と同じマインドになっていく必要があると思っています。
坂東:そういう意味では、事業部ごとにカラーの違いなんてのもあるんじゃないですか?
片桐:それはありますね。
事業部ごとの差で言えば、経費口座の残高が最大20倍の差がひらいたこともあります。
坂東:20倍?それだと「異動したい!」という声も上がってくるんじゃないですか?
片桐:上がってきますね。
それだけ経費口座の残高があったりすると、代表の私より社員の方が年収でみると給与をもらっているなんてことがざらに起こります。
坂東:それはすごい・・・!そもそも給与自体は固定給なんですよね?どうやって決めているんですか?
片桐:以前は一般の会社と同じような給与テーブルがあったので、最初はそこをスライドさせる形でスタートしました。この仕組みになってからは、3ヶ月に1回自分で自分を評価してもらっています。
基本的には、役割が増えたか減ったか、できることが増えたか減ったか、そんな観点で自己評価をABCでしてもらいます。
Aだったら+2000円、Bだったら+1000円、Cだったら-1000円。
坂東:評価のフィードバックはあるんですか?
片桐:はい。助言という形であります。が、最終的に決めるのは本人です。この部分でも助言プロセスと同じ仕組みですね。
坂東:Cという評価をつける人はいます?
片桐:いますよ。だけど、助言の中で「君がCを付けたら自分がAを付けにくいからやめてくれ」なんて助言が当初は飛び交ったりしていましたね。笑
坂東:面白いですね〜
片桐:評価もすごくシンプルなので評価のためにすごく時間を使ったりしなくて良いのがいいですね。
withコロナをどう進むか
坂東:このコロナ禍ではどうでしょうか?
片桐:いや〜大変です。本当に。
例えば、貸衣裳事業なんてのは、2月3月の卒業式シーズンのレンタルがほとんどキャンセルになちゃったりとか・・・
坂東:そうですよね・・・そんな時は、政府の救済措置もあるし、「借入しよう!」という助言プロセスが発動したりしないんですか?
片桐:します。ただ、この仕組みを作った時に、借り入れはしない。と決めているのでその助言は受け入れられないんですよね。
社員から「経費口座にお金が無くなったらどうするんですか?」って何度も質問が飛んできます。
だけど、借り入れしないというのは決定していることなので、これを貫くのが辛いんですけど、そこはブレませんね。
坂東:借り入れをしないとは?
片桐:自分たちの好きなように、好きなことをしているから、銀行からお金を借りてするというのはなんかしっくりこないんですよね。やっぱり、遠慮せずに経営するために借り入れはしない。と決めたんです。だから今は、元々あった借入をすごい勢いで返済しています。そのための口座が「返済口座」ですね。
この返済の仕組みも面白いんですが、これはこれで長くなるので・・・。
坂東:それでは、その話はまた別の機会に!経費口座に残高が無くなったら・・・という質問に対しては、どう対応しているんですか?
片桐:僕も、つっぱね続けるのも辛いんですが・・・もし、自分が経営者だったら?ということを考えてみて欲しいんですよね。経営者は基本的には社員より報酬が高いですよね。で、一般的にはこの役員報酬を万が一の時のために貯めていたりするわけじゃないですか?
社長が会社に貸付をして凌ぐ、なんてことができるように。
だから、社員が私の報酬より多くもらっていることが続いた時も私はその仕組みを変えなかったんですよ。だから、今この状況下でも決めた制度を貫けるっていうところもありますね。
坂東:なるほど。良い時も、悪い時も。ということですね。
良い時に、社員がもらいすぎている!と、社員に還元する資金を絞っていたりしたら今回のような判断はしにくかったでしょうね。
片桐:はい。でも、社員も自分たちでいろいろ考えて、店舗によってはたとえば5人中3人はお休みにしたり、働く時間を減らしたり。
副業OKにしているので、副業していたり、この状況でも自分たちで考えて行動していますね。
それに、貸衣裳屋さんは打撃を受けていますが、逆にネット通販事業なんかは忙しくなったりしているので事業部間でアルバイトを募集したり、アルバイトをしに行ったりして工夫しているのがすごいな〜と感心しています。
坂東:良い時も、悪い時も徹底してセルフマネジメント。とてもティール組織的ですね。すごく厳しいようにも思えますが、視点を変えると「優しい組織」だなあと思います。
社員一人ひとりが考えて行動できるメンバーなんだ、と尊重しているからこそできる制度だとも思えますし、今回のコロナのような、これまででは考えられなかった不測の事態が起こったとしても、自分たちで乗り越えられる機会を得られていると思えば。
この窮地を脱した時にはどこでも活躍できる人になっているはずですからね。
片桐:はい。今のところこの仕組みにして今まで経営者として僕が抱えていた悩みのほとんどが解消されたと思っています。
社員も満足度高く、働いてくれている。何よりも離職率がほぼ0になったことが証明していると思うんですよね。
だから、こういった組織がもっと増えたらいいなあと思っています。
で、知り合いの経営者に話したりするんですが、なかなか実行する人がいないから、M&Aをして自分で増やしていっている、という感じです。
坂東:実行力が凄まじいですね!片桐さんはオンラインコミュニティ手放す経営ラボのメンバーでもあり、毎週金曜日のスナックにも時々顔を出してくれています。また、月に一回実施しているゲストを呼んでのトークライブですが、7月のゲストは片桐さんにお越しいただきます。
店舗ビジネスでティール組織化を考えていらっしゃる方には特に参考になるんじゃないかと思います!
今後も、ティール組織のような進化型組織を目指していたり、実際に運営されている企業同士でいろんな話ができ、相乗効果を発揮できたらいいですね!
片桐:はい!よろしくお願いします。
坂東:今回は、ありがとうございました。
片桐:ありがとうございました。