2019年6月にティール組織への移行を宣言した株式会社フリープラスのリアルタイムレポート、第5弾です。
(※「ティール組織」の解説はこちら)
1ヶ月経った時点では「特に問題ない。順調」と語っていた須田社長ですが、その後はいかに? 「全員が自分の給料を自分で決め、経営者として仕事する」ということが実際にできているのでしょうか? 途中から新卒2年目の若手社員も飛び入り参加し、生々しい現状を語ってくれました。
ティール組織へのリアルタイム組織改革レポート第5弾です。
勤務時間も休暇もルールなし。問題があれば紛争解決プロセスで解決する。
坂東:うちの会社、先週は夏季休業だったんですよ。フリープラスさんは休暇とかどうしてるんですか? 社員の方が多国籍だから、夏休みや盆暮れ正月の概念もそれぞれでしょう?
須田:そうですよ。以前は、お正月休みも夏休みも日数だけ決めて好きな時に取れるようにしていました。ティール組織へ移行してからは、そもそも夏季休暇やお正月休みの概念もなくし、「休みたければいつでもどうぞ」という感じです。
坂東:有給休暇の制度はどうなってるんですか?
須田:働き方改革によって有給休暇を年に5日は絶対とらないといけなくなりましたから、そこは周知しています。それを超える分は本人に任せています。
坂東:やることをやってれば、いくらでも休んでOK?
須田:はい。それを止めるルールはないです。
坂東:振り切ってますね! 勤怠管理はどうなってるんですか?
須田:勤務形態としてはフルフレックス制度を導入しており、勤務時間は記録してもらってます。管理をするためではなく、これも日本の労働基準法に準拠するためです。
坂東:勤務時間がめちゃめちゃ少なくても怒られない?
須田:はい。そこはチームの中で握り合っていて、「この成果に対して給料が高すぎるんじゃないか?」みたいなことがあれば、紛争解決プロセスでやればいいと思います。
坂東:その「紛争解決プロセス」って、フリープラスでは具体的にはどうやっているんですか?
須田:ルールはすごくシンプルです。相手に「紛争解決プロセスしましょうよ」って言って、個室に行きます。
坂東:そして言いたいことを言い合って、解決する?
須田:ふたりで解決できなければ第三者が呼ばれますけど、何をやってるかは知りません。本人たちが「公開した方がいい」と合意したこと以外は非公開、誰にも言っちゃいけないというルールなんですよ。だから、誰がいつ紛争解決しているかもわかりません。
坂東:そうなると、やったことがない人は、どんなときにどうやって紛争解決プロセスを始めたらいいかもわからないんじゃないですか?
須田:入社時のオンボーディング(入社時研修)では伝えてますよ。
あとは、僕に対して例えば他のメンバーの嫌なところや、人間関係の問題の話題を出したら、「それは本人と話してください。こんなところで僕とシェアしている場合じゃないです。もし紛争解決プロセスになって、私が必要なら第三者として呼んでください」と言ってます。
坂東:そういうことを言い続けることが、大事ですね!
須田:そう、言い続けないとダメですよね。
僕らはずっと、ヒエラルキー型の組織に疑問を持ちながらやってきた。
坂東:「権限移譲するから意思決定は自分でしてね」「問題が起きたら自分たちで解決してね」と言うのは簡単です。でも、実行するのは難しくないですか? 特に今まで上司だった相手には、遠慮もあるだろうし……。
須田:いやいや。今日も元本部長と話してたんですけど、「自分が知らないところでどんどん決まっていっている」と言ってましたよ。「自分が反対したことでも決められちゃって、どうなるかわかりません」とも。
坂東:そうなると、元上司としてはモヤモヤしたりするんじゃないですか? 権限を手放したくない人もいますよね?
須田:それはないですね。ティールかどうかに関わらず、もともとそういう人はいません。
坂東:全然いないんですか!? ホントにぃ?
須田:僕は、年上だからとか上司だからとかで威張るというのが好きじゃないんですよ。「俺すげぇだろ!」的な人と一緒に働くのは無理です。
役職者というのは、意思決定権限を持っているだけであり、例えば一緒に食事に行ったらビールを注いでもらって然るべきというような威張っていいということとは全く違う。
坂東:1回目のインタビューでもそう言ってましたね! でも、最初から偉そうな人じゃなくても、役職に就くと「みんなが言うことを聞くのが当たり前」という感覚になる人は多いですよ。そうなると、後からステータスや権限を外すのは大変です。
須田:だから、「当たり前」にしたらダメなんです。そういう意味では、僕らはずっとヒエラルキー型の組織に疑問を持ちながらやってきたんですよ。
坂東:なるほど! フリープラスの場合はずっと自分たちらしい組織の形を考え続けてきていて、ティール的な素地があったということですね。
新卒2年目の社員が実践して感じる、自分で意思決定できることの意味
坂東:部下だった人たちはどうですか? 「意思決定していいよ」と言われてすぐに「分かりました!」って動ける人とそうじゃない人がいますよね。何か後押しをしてるんですか?
須田:とにかく言い続けるだけですね。
例えば、ある会社の社長職に誰かが着任するとするじゃないですか。その新社長が着任してから何も意思決定してなかったら、「どういうこと? 権限持ってるんだよね?なんかやれよ!」と言われますよね。「権限を持っていて行使しないということは、それと同じことですよ」というようなことを発信し続けてます。
坂東:何度も言われたら頭では分かると思うんですけどね。まだイメージしづらいなぁ……。元上司にも遠慮せず、どんどん意思決定している若手社員て、ホントに実在するんですかぁ?
須田:いますよ!じゃあ、呼んできます。ちょっと待っててください。
(須田さんに呼ばれ、若手社員の島本絵里さんが登場)
島本:島本です。来月から北海道のオフィスに異動になりますが、それまではマレーシアとシンガポールの学校の、日本への修学旅行の案件を担当しております。
坂東:よろしくお願いします! ティール組織に移行して、自分で意思決定した経験について教えてもらえますか?
島本:はい。シンガポールはクレジットカントリーと呼ばれるくらい後払いの習慣が浸透している国なんです。未回収の問題も起きていたりするので、現地の旅行会社とは、そのリスクを負ってでも取引する価値があるのかどうかを見極めながらやっています。そんな中で、かなり大きな売上が見込めそうなシンガポールのクライアントさんが一社ありまして、やはりすべて後払いになると言うんですね。私はその条件で正式な契約を結びたいと考えたのですが、元本部長(取締役)に相談したところ、NGという返答でした。
須田:助言プロセスでNGを出したということですよね。
島本:はい。そこでもうひとり、管理本部の本部長だった方(取締役)にも相談しましたら、「一定の与信限度額の範囲内ならいい」ということで、100%のGOは出ていない状態です。
須田:GOは自分でできるけどね。
島本:そうですね。実は助言プロセスに入った段階で、すでに(そのクライアントとの)かなりの数のツアーが年内に予定が組まれていまして、それはもう催行するしかないので、「やります」と伝えています。そして、来年以降についてもぜひやりたいんです。というのも、私が先方の担当者と何度もお会いしたり、シンガポールの旅行会社に関するいろいろな情報を得て考えた結果、「この会社は絶対に払っていただける」と確信していますから。
坂東:島本さんとしては、このまま進めていこうという気持ちなんですね。
島本:はい。契約書に取締役のサインが必要なので、なんとか了承してもらおうと相談を続けているところです。
坂東:役職としては「元」とはいえ、今も取締役である偉い人2人に反対されて、どうしてそんなに強気でいられるんですか? もともと気が強いんですか?(笑)
島本:それもあるかもしれません(笑)。それ以上に、フリープラス にとってプラスだと感じるからです。そんなにメリットのない相手であれば、取引を止めても全然構わないんです。でも、シンガポールの修学旅行案件はすごく多くて、それを扱う旅行会社としては一番大手のところなので、このチャンスを逃す手はないな、と。
坂東:まさに経営者として考えているんですね! これがティール組織への移行前だったら、どうでした?
島本:上司からNGが出たら終わりです。取引を止めるという選択をしたかもしれません。ティールに移行して「これは絶対やった方プラスだ!」と感じたことについて自分で決められるようになったというのは、私にとってすごく大きいことです。
坂東:自分で決めた以上、未払いがあれば責任重大ですよね。
島本:はい。もし半年や1年経っても未回収であれば、私がシンガポールに回収にいかないといけませんね。
坂東:すごい覚悟! まだお若く見えますけど・・・!?
島本:新卒で入社して2年目です。
坂東:えぇっ! 予想以上に若かった!(笑)
島本:普通は、2年目でこんなに大きな決断をさせてもらえませんよね。正直な話、今までは会社に守られている感覚で、会社の数字に対する意識がちょっと薄かったです。それが経営者として動くということになったら全て自分の身に降りかかってくるように感じで、「これはヤバイぞ!」と思うようになりました。
坂東:会社に守られているのと今とでは、どっちがいいですか?
島本:今の方が絶対いいです。ティールになってすごく働きやすくなったし、全員がそういう意識になれれば、めちゃくちゃ強い組織になると思います。
地方支社への異動を決めたのは、それが会社のためになると考えたから。
須田:島本さん、どうして札幌へ? シンガポールの担当は外れるんですか?
島本:北海道にいる同僚が退職することになったので、そのポストをやりたいというのが理由です。先ほどお話ししたシンガポールのクライアントはそのまま私が担当して、それ以外のクライアントは後輩に引き継いでいく予定です。
坂東:ていうか、須田さん、社長なのに、知らないんですか(笑)
須田:すでに社長ではないですが、知りません(笑)。田舎に帰りたくなったのかな、と。
島本:実家は北海道なんですけど、個人的にはもうちょっと大阪にいたかったです。ただ、会社にとっては私が行った方がいいだろうと思って。
坂東:異動も自分で意思決定したんですね! これについては、反対されることもなく?
島本:初めは、北海道支社の方たちに反対されました。
坂東:まさかの?!島本さんは個人的には行きたいわけではないのに、北海道支社のためを思って異動しようと思ったんですよね。なのに向こうから反対されるなんて、どうしてですか?
島本:退職される方は旅行に関する仕入れと手配を担当していたんです。私は手配の方は遠隔でもできるから本社で引き継いでもらうのがいいと考え、現地でやった方がいい仕入れと営業を半分ずつやります、という提案をしたんです。でも、支社の方達は前任者がやっていることをそのまま引き継げる人を望んでいて、最初は折り合わなかったんですよ。その後、本社の方から「手配をやります」と名乗り出てくれる人がいたので、やっぱり私が行って仕入れをやるのがいいだろうと、もう一度かけあって決定しました。
坂東:本当は大阪にいたい気持ちもあって、支社の人たちの反対もあったのに会社全体のことを考えて、あえてプッシュしたわけですね。すごいなぁ!
島本:北海道支社の人たちに対しては、「本当に会社のことを考えてますか? それでいいと思ってますか?」って結構言いましたよ(笑)
坂東:(やっぱり気が強い性格なんじゃ・・・?!)ティールになって、そういうことも言いやすくなりました?
島本:私はもともと思ったことを言う方でしたけど、上の方には少し躊躇することもありました。今は、元支社長なんかがいる場でも言うべきことを言いやすくなりました。それに、私みたいには言いたいことを言えなかったメンバーも、変わってきていると思います。以前に数ヶ月だけリーダーをやっていて2名のメンバーがいたんですけど、その人たちが前よりも遠慮なく意見を言ってくださるようになったので、すごく嬉しいです。
坂東:素晴らしい! 上から押さえつけてくるような人って、ティール以前からいなかったんですか?
島本:全然いないです。ひとつ感じているのは、「これやっといて!」みたいな命令口調になると、威圧感を感じてしまいますよね。フリープラスでは相手が誰でも敬語で話すというルールがあって、それはすごくいいと思います。
坂東:それ、1回目のインタビューの時に聞きましたよ。 たしかに、フラットな関係づくりに効果がありそうです!
須田:日本語って、男女で言葉遣いが違うんですよ。一般的な会社だと、男の上司が「コピー取っとけよ」と言うのは普通でも、女性が「コピー取っとけよ」と言うと違和感あるでしょ。同じ立場でも、女性は丁寧な言葉を使わないと非難されるんです。昔の男尊女卑がそのまま言葉遣いに残っていて、それが会社の中のポジションにも影響してしまう。だから、フラットにするには全員敬語を使った方がいいんですよね。
島本:たしかに! 意識していなかったですけど、それもあってやりやすいのかもしれないですね。
坂東:性別も年齢も年次も関係ないコミュニケーションがしやすくなるということですね。いや、それにしても、島本さんの会社への思いと行動力はすごい!
須田:僕よりも会社のこと考えてると思います(笑)
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第6弾に続く!!
次回は「会社のティール組織化で役職も権限もなくなった“元”マネージャーたちのホンネ」に迫ります!!