会計の仕組みを変えることへの心理的ハードルは相当高いものの、それを超えた先にはどのような世界が広がっているのでしょうか。前編では意志決定したい人ができる組織をつくるプログラムDXOと、社員が会社のお金を決済できる会計の仕組み(プロフィットファースト)がどのような相乗効果を生んだか、なぜ相当高いハードルを超えてまでやるのかをお聞きしました。後編では、DXO導入のプロセス、そして導入後の進化に迫ります。
前編はコチラ
左からHOLIS代表片桐さん、片桐さんのTシャツを着るGreen prop代表川添さん、乾真人
わずか1日で終わったシステム移行
乾:川添さんが会計の仕組みをアップデートするすると決めてから、社内には抵抗や戸惑いなどはなかったですか?特に経理のシステムが変わるとなると、評価制度も給与体系も全部変わるわけですよね。
川添:そうですね、本当は1年ぐらいかけてやろうかなと思ってました。でもDXOをインストールして、6月決算まであと2か月しかないという時期だったから、「来期、もう少し準備してからやろうかな」とも考えていたんです。
片桐:そうなんですね。
川添:ですが、「やっぱりやる! 新年度からやる!」って決めて銀行・会計士の方にはもちろん、社内のメンバーにも、「来期から会計の仕組みを変えるよ!」と伝えました。。そうしたら、税理士の方から「何ばかなこと言ってるんですか」「半年かけて(新しい会計システムに)載せ替えしましょう」という反応で。
乾:その間は新旧の会計ソフトを両方使うことになるので、経理の人からしたら相当な負担ですもんね。
川添:経理の人が「絶対無理!」って言ってたので「片桐さんが2日あれば新しい会計ソフトに載せ替えできるっておっしゃってるよ」って言ったら、「そんなの信じられない」って。
片桐:そんなこととは露知らず、私は、やる気満々で行きました(笑)
川添:そう、実はわたしも半信半疑で。でも目の前でどんどん作業が進んでいくので、本当に目が飛び出そうになりました。あれはもう片桐さんしかできない技ですよね(笑)結局、かかったのは2日? 1日半?
乾:いや、実質1日でしたね。
川添:ほんと、衝撃的な1日でした。
乾:僕も横から見させてもらっていたんですけど、ソフト上でエラーが出るたびに淡々と解決していくんですよ。僕からしたら原因も解決策もよくわからないうちに。そして、気がついたら1日で終わってた、みたいな。なんかもう、マジックを見ているようでした。
川添:マジックですよ、本当に。
片桐:クラウド会計ソフトに変えると楽なんですよね、仕訳自体が。
川添:はい、本当に楽になりました。みんなが見られるようになるし。
たくやマジック、すごかった〜(と、たくやTシャツを着ながら語る川添社長)
保険も銀行口座も、一気に手放す。。スゴすぎるコスト削減
片桐:経理は、システムの載せ替え自体は私がほとんどひとりでやったんですけど、社内でデータをどう処理しているかなど、わからないことがその場で経理担当の社員さんに聞けたので、すごくスムーズにいきました。あと、この会計の仕組みにすると、保険も意味がなくなるのですが、その場ですごい勢いで解約されたのがびっくりしました。
川添:そう。すごいですよ。年間数千万円かけていた保険を、全部解約しました。
乾:怖くなかったですか? 全部解約って。
川添:「全損で残しておくほうがいいんじゃないか」「じゃあ、これとこれは残すか」と、さんざんリーダーミーティングで話し合ったんですけど、片桐さんの話を聞いて、「たしかに経費口座は増えるわけだから、これは思い切って解約しよう」って。その場で保険会社さんに電話しました。
乾:保険屋さん、びっくりしたでしょうね(笑)
片桐:プロフィットファースト(新しい会計の仕組み)にすると無駄な経費がいらなくなるんです。それがまず保険と、あと借入ですね。最初は手放すハードルが高いのですが、手放すことで本当の意味で自分たちで自由に経営する体制・意識になります。純粋に自分たちの事業で生んだお金だけで会社が回っている形になり、それを実感することができるので。
川添:借入についてもそうです。銀行さんもびっくりしてましたよ。
乾:いらない銀行口座を整理したり、借入金をぜんぶ返すのなんて、普通はあり得ないですもんね。
川添:もちろん、銀行さんにもノルマがありますからね。しかし今回の仕組みの話しを丁寧に説明したら、快く了承していただきました(笑)
乾:本当かな(笑)
川添:いやいや、本当です、本当(笑)
1日でサクッと会計ソフトを載せ替えちゃいました!!
経営者も社員もやりたいことを「止めない」仕組み
片桐:そういえば、最初「経理の載せ替えの仕方を教えてください」って頼まれたじゃないですか。でも私、自分でやったほうが早いので、「自分にやらせてほしい」って言いましたよね。あれがまさにそうなんですよ。自分が得意で、自分がやったほうが早くて、そのほうがみんなにも喜ばれるなって思ってる。教えてくださいと言われても、もともと得意なので、自分がやりたいし(笑)
乾:やりたいんですね(笑)
片桐:そう、やりたい。他の会社に訪問して、会計ソフトの載せ替えをすると「あぁ、また自分の腕が上がったな」って、そういう感覚になれるんです(笑)。しかも社内でやってても、もう誰も驚かないし、褒められもしない。だけど、他のところに来てやると「すごいですね!」とかって言ってもらえるんです(笑)。
乾:「すごいですね」どころじゃないですよ。Tシャツまで着てるんですから(笑)
川添:神だよ(笑)
片桐:自分が得意なこと、嫌いではない分野で他の人の助けになると、うれしいじゃないですか。それが取られちゃうと、つまらないんです。そういう感覚なんですよ(笑)
乾:片桐さんが、経営者として好きなことを好きなようにできて、社員さんも一人ひとりが好きなことを好きなようにできるような仕組みを考えられた、ということですよね。
片桐:そうなんです。経営者も社員もみんな同じ。お金がないと自分たちの給料が支払われないのも経営者と同じ。誰かが「やりたい」と意志表明をしたものに対して、アドバイスはできても止める方法がないのも、同じなんです。。たとえば店舗の撤退や、お客様からの大きなクレームの対応も、どんなことでも決めたい人が決められるというスタイルなので、事業を「やりたい」も「やめたい」も、なんでもできちゃう。たとえば僕が「思い入れのある1号店だけは、赤字だけど残したい」って言っても残せない。そういう仕組みなんです。
乾:「ねばならない」みたいなことがないんですね。
片桐:そうです。「経営者であったら、こうあるべきだ」っていうのはない。巷でよく「経営者がやってはいけないことリスト」のようなものがありますよね。「作業は誰かに任せて、ちゃんと命令しないと経営者としてはだめだよ」みたいな。
経営者としてあるべき姿から解放されました
川添:そういう観念に縛られてました。いつ誰に教えられたのか、わかりませんけど(笑)「社長だからちゃんとしておかないといけない」とか、「何でも知っとかないといけない」とか。
片桐:そうそう(笑)。「弱音を吐いちゃだめ」とかね。「やりたくないとか、苦手とか、行きたくないとか言っちゃだめ」とか。
川添:言えない言えない。
片桐:人間なので、みんなあるんですよ、好きなこととか嫌なこととか。
川添:めちゃめちゃあります(笑)なのでその呪いから解放されて、本当にあのとき決断をしてよかったなぁと感じています。
感じてる変化「みんな素が出てきてカオス!(笑)でもそれが健全な形」
乾:今、DXOを導入してから数ヶ月経ってますが、変化を感じていることはありますか。
川添:フラットな組織にしても、会計の見える化にしても、ようやくみんなの本心が見えるようになってきて、いい意味でも悪い意味でも、隠れていたものが表にどんどん出てきました。今までは思っていても口に出していなくて、まわりには聞こえていなかったものが、むちゃくちゃ聞こえてるんですよ。活性化してるなって思ってます(笑)。
乾:そうですよね。思ってることとか感じてることを仕事の場で出すなんて、あんまり考えられなかったですもんね。だから、それがちゃんと素直に表現できるようになってきて、すごく人間らしいというか。
川添:人間らしいです、すごく。本当におっしゃるとおりですね。混沌としているなかで、今、ちゃんと自分らしさを持って試行錯誤しているのを感じてますね。でも、それが健全で、みんなそれぞれの意志・意見を持ちながら、それがどんどん形になっていくんだろうなということを、今ちょうど感じてるところですね。
片桐:最初の出資分配金(※)が出たあと、また変わりますよね。今まで不安だったものが、だいぶ変わる。そこが楽しみです。
川添:以前、片桐さんは「結果が早く見えた方がいい」とおっしゃっていましたよね。
片桐:そうです。実際、(分配予想の金額を)計算したり、見て確認していても、本当に振り込まれた現金を見ると行動がさらに加速されるので(笑)今のところ社員さんからの出資は順調ですよね。
川添:順調です。出資、すごいことになってます。初日に、会社のお財布を預かっている経理担当が、ドンと出資入金をしてくれたんですよ。「ああ、これでみんな信用してくれるかな」って(笑)
片桐:出資の人数と金額が集まってきたら、みんなが理解してくれているということかなと思います。これからさらにテンションが上がっていくのか、何か違うことが起こるのか(笑)
川添:まさに壮大な実験ですね!
乾:はい。またその後の変化を聞かせてください! ありがとうございました。
川添:はい、ありがとうございました!
片桐:ありがとうございました。
※出資分配金:3か月~半年に一度、利益の半分を出資者に分配する仕組み。分配率は期間や金額に応じて変動する。
※「プロフィットファースト」は、現在手放す経営ラボラトリーで「MIKANシステム」という名称で使われています。(内容はほぼ同じです)
ポーズも「こうあるべきだ」を手放して。
インタビュー・校正:坂東孝浩、乾真人
編集:Satoko Sakamoto