業績好調!社員のモチベーションも高い状態。周囲から見ると何の問題もないかのように見える組織。
そんな中、吉安さんはティール組織へと舵を切る。組織はどう変わっていくのか?インタビュー後編です。
(※「ティール組織」の解説はこちら)
コントロールを手放す
会社として急成長するなかで、なぜティール組織をやろうと思ったんですか?
2〜3期目から考えてはいました。正直言って業績を伸ばすことを難しいと思ったことはないんです。でも業績を伸ばすのがゴールというだけでは、面白くない。「私たちは家を作るだけじゃなくて、美しい建築を残して行くんだ。」ということは、昔から言っていました。果たして機械的に売って作っていくということが正しいのか?という想いが自分の中にあったわけです。
ず〜っと考えていたことだったんですね。
ただ、私の考えだけで進めても、みんなは納得しないですよね。平等な組織、誰もがストレスなく働ける組織にしたいという思いは創業当時からあったものの、人が増えるとますますコントロールが難しくなっていったんですね。それは、40人超えたあたりからでした。いくら平等にしようと思っていろんなことをしても、社員からの不満はでる。それで、そもそもコントロールするのが面倒くさいって思いだしたんです。毎年個性的で面白い人が入ってきてくれるんですけど、考え方がバラバラなので、コントロールして同じ方向を向かせるのは骨が折れるなと。コントロールできないなら、コントロールを手放そうということをイメージしたのはそれくらいの時ですね。2年前くらい。コントロールできないものはいっそ手放してしまえばいいと。任されていると思えたら、彼らはもっと活躍できるようになるんじゃないか?と。それからいろんな本を読んだり、人の話を聞きに行ったりしました。
コントロールできない」というのはどこらへんで感じました?
会社の方向性に反発する人は必ずいるわけですよね。「どうしたらその人が活躍できるか?」というのをずっと考えて組織をつくってきた気がするんですよ。そのひとつめが2期目に行った人事考課制度。ふたつめが2年前から始めた、“ユニット制度”を始めるための研修です。
下準備があったわけですね。
いきなり「全てを投げ出す」っていったところでうまく行くわけがないので、ユニットにどれだけの権限を与えるかというのも話し合ったんですよね。「人事考課なんて分からないから、会社でやって欲しい」といった意見を汲んだりしながら、権限の分担をしていきました。
ユニット制度とは?
ユニットを一つの会社としてそこで事業計画を組むような制度ですね。
全ての決定権は私にはなく、みんなにある。社長の私自身でさえ「“助言プロセス”にしたがって、みんなの意見を聞いてからじゃないと意思決定をしない」と伝えています。例えば会社の経費で車を買おうもんなら「それ、個人名義ですよね?」というツッコミが入る。
領収書見て「これ違うんじゃないですかって」言われることもあります。
最近の話ですか?
特に最近の話ですね。これを(社長の)私に言ってくれるって素晴らしいなって思って。
う〜ん、ほんとに。経営者自身も、律せられるわけですね。
(以前は)何をするにも稟議をかけて、関係各所と社長の印鑑がいるとか、そういうガチガチの時期もありました。例えば総務のマネージャーは予算をきちんと管理しないといけない。経費を自由に使うなんてまかりならん!と思うのが当然でしょうし。じゃあ、年一回、販管費を全員で決めてその予算内だったら好きに使ってよし、という取り決めをしようかか?という提案から「それはいい!」って話でユニット制が動き出したんです。今振り返って良かったと思うのは、彼ら自身で予算を決めることで責任感とか所有感が生まれたことですね。
下準備の段階で見えてきた問題点
ユニット制がスタートする一年前から、リーダーに立候補したメンバーに月一回の講座を用意しました。そのとき浅はかだったのは、リーダーに権限を与えてしまったこと。リーダーが育成や評価などの権限を持ってるような状態です。結局、権限がリーダーに集まることでうまく回らないユニットがいくつか出てきました。“リーダー”という役割になると、どうしても権限が自分にあると思ってそれが捨てきれない人が出てきました。
なるほど。
ユニットごとに予算を組む、というところまでは良かったと思うんですけどね。総務とか非生産部門においても、社内通貨を作って、何かをやったらいくらみたいなところまで決めました。
そこまで徹底したんですね
ただ、お金についてはやりすぎは難しいですね。
お金がモチベーションになって、そこに自分たちの取り分というのが現実的に反映されるのが分かると、人間変わってきますよね。
結局お金が基準になっちゃいますもんね。
たとえば、モチベーションは高いのに、新規事業が立ち上がったばかりで現実的には利益が上げられてないメンバーに対して、攻撃する人が出てくる。ユニットに権限を与えすぎると全社視点を見失ってしまい、自分のチームを勝たせることに重きが置かれてしまう。
ユニット制では、全ての権限はユニット自体にある代わりに、会社としてはユニットの成果に対する責任を追わない、としました。するとそれに対する不満が強くなってきて、あるマネジャーが「ユニット制はダメだ」などと発言したりして、それに他の社員も惑わされていった。
それはユニット制が始まった後ですか?
はい。「ユニット制って良さそう!!」ってスタートしたものの、いざ始めてみると自分たちに権限はあるけど、同時に責任もものすごくあるので苦しんだわけですね。
責任が重すぎると
半年経って、いろいろと課題も見えてきました。理想の組織に近づけたいと思ってはじめましたが、まだ何か正解なのかはわからないですね。
主体性がない人なんていない。蓋をしているのは誰?
ユニット制にしてみてよかったというところはどんなところですか?
自分たちに権限があると気づいてくれたのはよかったと思います。世の中には「自分には権限がない」と思い込んでる人が多いので。私は「主体性がない」って言葉が嫌いなんですよ。それを封じ込める人がいるから主体性を発揮できないだけ。でも主体性はみんな持っている。リーダーシップを発揮することを遠慮してるだけなんですよね。リーダーシップを発揮することを遠慮せずに働ける環境には近づけたのかなと思います。
手応えはありますか?
あります。あとはコスト意識が身についたのは良い面も悪い面もありますね。予算計画を組むことである程度自由裁量で予算を使えるようにはなりました。ただ、「売上」「粗利益」「経費」といった数値ばかりに目が行くと、本来実現するべき「美しい建築を残す、一棟でも多く」ということが「一棟でも多く売って儲かってやろう」っていうものに変換されてしまうかねない。
優先順位が「売上目標の達成」になってしまいますよね。
そうなんです。そのうち「利益を出さない奴は悪だ」と言う吊るし上げが始まってしまったりして。コスト意識が高いこと自体はいいことなんですけどね(笑)
かといって「売上目標を決めるのやめましょう」というのも緩みすぎるでしょうし、バランスが難しいですね。「まあ、利益も大事だけど、それより大事なものがあるよね」ということを常に語っていくしかないのかなと思います。
達成型組織をどう手放すか?コンサルタントには理解されない。
新しい組織づくりの際に、どなたか相談相手はいるんですか?
最初に人事考課制度を作った時から関わってくれている外部のコンサルタントがいます。でも彼にはどう話しても「ティール組織」の概念を理解してもらえないですよね。
そうでしょうね。評価制度って、そもそも達成型組織が前提ですから。
「『リーダーに予算策定も評価の権限も渡して、好きなように行動してもらう。利益が出たらそれをリーダーの権限で配分する。』社長の権限をリーダーに移譲できればいいじゃないか」というのが普通の感覚だと思います。でも「権限移譲」では本質的な問題解決にはならない。これまでの達成型組織からどうやって進化するか?がテーマなんですが、これを普通のコンサルタントに話したら「会社潰す気ですか?」としか見てもらえないです。
だってコンサルタントのミッションは、業績をあげることですからね。
もちろん会社をよくしたいけど、私はそのために“管理を手放し”たい。全てを透明にすることによって、彼らに内発的な気づきがあって欲しい。例えば住宅の着工の枠が埋まってないという課題があった時に、管理するリーダーを設けていなくとも、気づいた人が協力しあって自然に埋めていったりとか。そういう組織にしたいと大手のコンサルタントにお願いしても、提案していただく資料は、「管理」という言葉で埋め尽くされていたりして(笑)。
コンサルタントは論理的・合理的な仕組みをつくるのが得意ですから、管理とは切っても切り離せないですよね。
見える化はすごく良いと思うんですよね。ただ“透明化”というのは管理とは違うし、もっとずっと難しいと思っています。
半年やってみて、課題も見えてきた。退職者も出た。でも、やめるつもりはないんですか?
そうですね。半年間でいろんな膿も出たし、問題点も見えたので、こうすればもっと良くなるという気づきはありました。
ティール組織への移行は道半ば。挑戦は続く
ユニット制度を半年やってみて思ったのは、ティールには程遠かったとうこと。手放せていなかったです。もっと手放す、もっと信頼するというのを、どこまでできるかがテーマです。
継続的に、ですよね。
わたし自身もまだティール組織を理解できていないので、毎週社員と勉強会をしています。90人くらいいる社員のうち、前回は16人くらい来てましたかね。
自由参加なわけですね?
希望者だけです。新卒入社の子の割合が多いですね。すごくキラキラした目でわたしの話に耳を傾けてくれますし、その日の日報は完全にティール色に染まっていますから見ていて面白い(笑)。予想以上に関心を持ってくれてて、最近はいかに“助言プロセス”をどう使うかというのをみんなで話し合っています。
助言プロセスとは?
ティール組織では、社長でもスタッフでも全ての人は助言プロセスに従ってのみ意思決定ができます。関係各所に助言を求める、専門家の意見を聞くというプロセスを踏む。そのプロセスを踏んで意思決定をしています。社員はみんな助言プロセスという単語の意味を教えても、すぐそれを使っていいとは思わない。今までずっと管理されてきたから、いきなり自由を与えても信じられない。
そうですよね。
じゃあ一緒に考えよう!と。今目の前にある課題を助言プロセスを使って解決してみよう!といったグループワークをしています。15分くらい考えをシェアするだけで一気に表情が明るくなって「こんなにみんなに頼られて嬉しいし、みんなが頼もしい。なんてすばらしいことなんだろう。これまで何年も悩んでたことがこの15分で一気に解決した」って、言ってくれる人もいたりするんです。
仲間感を感じられたり、「1人じゃないんだ」って感じですか?
もっとみんなに頼っていいんだなって。真面目な人ほど抱え込んで悩んでますから。
「社会人たるもの、自分で解決しないといけない」と思う人が多いですもんね。
そういう人たちを解放してあげたいなと。日報を見るとみんな悩んでて、いろんな不満や愚痴もそこに多少は含まれている。そういう人たちに、助言を与えていくことで彼らが前向きな気持ちになれたら良いな。自分が意思決定の主役になれるということに気づかせてあげれば、社員同士の日報のやりとりも、もっと前向きで楽しいものになれるだろうなって。
社長の役割
みんなに関心を持ってもらい、真剣に取り組んでもらおうと思ったら私も真剣にならないといけない。(管理を手放していきたいが、ティールのような)基本的な概念を伝えるのだけはトップダウンで行きたい。今回離職者が出たのも、このトップダウンの結果です。彼らから辞表が出たとはいえ「方針はこうだ。従えないやつは辞めても仕方ない。」とはっきり言っていましたから。ここまできたら私も意地です。ティール組織にしていくというのは人生かけてでもやり遂げなければいけないと思っています。
私は、基本的な組織のデザインこそが経営者の仕事だと思います。ティールの本に「経営者の役割はなんだろう?」と書かれています。私は会社が何のためにあるのか、という存在目的をベースに、どういう組織をデザインするのか、と考えることが経営者の仕事かなって思うんですよ。
そうですね、そう思います。
目指すのはどんな組織ですか?
「誰もがストレスなく働ける組織にしたい」というのがあります。根底にあるのは、最初に言ったように常に私がすごく抑圧されていた原体験です。そこから解放された時に「あの人変わってるよね、すごいよね」と言われる存在になれました。
前の会社で何事もなく働いていれば、誰も知らない片田舎のゼネコンの社長として一生を終えたのかもしれない。
管理されなくなり、私自身仮面を脱げたことが、私の人生の一番大きなギフトだったような気がするんですね。前職をやめて、責任権限を与えられたことが私自身にとって最高のギフト。こんな体験をみんなにも味わって欲しいし、少なくとも管理者としてみんなの可能性に蓋をするような人にはなりたくない。そういう組織でありたいというのと、美しい建築を残して行きたい、いうのが創業時にこの会社に込めた想いです。
あとは、うちの会社が面白そうっていって入ってくる人に対して何かしらの贈り物を用意するところまではやるけども、それが完璧に回り始めるなってのが見えてきたら私は消えたいと思ってます。(笑)
それは理想ですね。これからの吉安社長の挑戦に私も注目していきたいと思います。
本日はありがとうございました!