前回インタビューで、「怒りの感情はNG」と話していた株式会社TABIPPOの清水社長。一方で、極めて自由なカルチャーであるがゆえに、自らを律する厳しさが求められるのも事実。常に自分に厳しくしていられる人は、きっとそんなに多くはありません。ビジョンの実現をめざして挑戦しても、間違えてしまうこともあるのではないでしょうか。そんなときは、どう軌道修正するのか。独自のカルチャーについて突っ込んで聞いてみました。
短期の目標達成より、中長期的な会社貢献を評価する。
坂東:怒るのはNGなんですよね?自分や周囲を律するための厳しさとはどう両立させているんですか?
清水:怒るのではなく「冷静に指摘しよう」「相手のためにフィードバックしよう」というのはよく言っていますね。ティールで言う心理的安全性って、単に仲良くすることではなく、ちゃんと言い合える状態にあることだと思うんです。Be Happyな空気は社内にありますが、すごいバチバチ議論しているので、新しく入って来た人は最初は驚くかもしれません。
坂東:「あれケンカしてんじゃね?」みたいな。
清水:そうそう(笑) 本当に良く言われるんですよ。「これケンカじゃないですか?」って。普通に会社やサービスをより良くするために議論しているだけなんですけどね。
坂東:なるほどなあ。そういう心理的安全性とか、言い合える文化は意識的につくってきたんですか?
清水:はい。例えば『TUNAG』っていうツールを入れてるんですけど、いわゆるサンクスカードみたいなものをこのツールを通じて送れるんです。送る基準としては、行動指針に沿った行動を相手がしているかどうか。「自分が迷ったとき、どちらに向かうかを指示してくれる指針だ」ということで、僕らはそれを『コンパスカード』(※)と呼んでいます。で、そのコンパスカードをもらえるとポイントが貯まっていく。
※コンパスカード・・・TABIPPOの業務の中で定めている行動指針に沿った行動をした人を称賛するときに贈るカード。TUNAG上で運用しています。詳しくは、こちらのTUNAG導入インタビューにてご覧いただけます。
坂東:へ~!ポイントは貯まるとどうなるんです?
清水:Amazonギフトに換えられたり、福利厚生に紐づいています。あとは、評価とも連動していますね。言い合える文化という意味で言うと、うちは360度評価にしてるんですよ。誰が誰にどんなコンパスカードを送ったのかもすべてオープンにしていて、普段のコミュニケーションもslackを使っているので、常に誰もが見ることができる。そうやって評価への納得感も担保しつつ、言い合える文化を意識的につくっています。
坂東:売上数字とかも評価の指標に入るんですか?
清水:それはまったく入らないです。
坂東:え!ゼロですか?
清水:ゼロです。 評価の指標で言うと3つあって、一つは行動指針。つまりコンパスカードのポイントとかコメントの内容。もう一つは、その人が持っているスキルとか市場価値。つまり実力ですね。最後の一つが『貢献成果』と呼んでいますが、中長期的に会社にどれだけ貢献できたかどうか。売上とかKPIの達成以上に会社に貢献する方法っていっぱいあるわけですよ。いるだけで組織をポジティブにできる人だっていますし。
他にも組織の生産性を上げる仕組みをつくった人とか。その、3つの指標でみんなで点数付けをすると、その人の相対的な点数が決まる。さすがに、その点数をそのまま給与にはできないので、現状の給与も見ながら最後に僕が少しだけ調整をかけている感じです。なので、けっこう評価への納得感はあるんですよ。
坂東:なるほどなあ。わかりやすいですね。
「ティール組織をめざそう」とは言わないように気を付けてます。
坂東:やっぱりティール組織とかホラクラシーなどの進化型組織は意識しているんですか?
清水:意識はしています。でも、僕らは初めからビジョンとか会社の存在目的を大切にしながら組織運営をしていましたし、セルフマネジメント、自主経営みたいなこともずっと言っていました。だから、最近の学者さんが書いた本なんか読むと「僕らがやりたかったことを整理してくれて、ありがたいな」っていう感じなんです。エッセンスは取り入れつつも、「ティール組織をめざそう」とは言わないように気を付けていますね。別にティール組織をめざすことがゴールじゃないので。
坂東:確かに。そもそもめざすゴールが最初からはっきりしているから。
清水:そうなんです。すべてがビジョンの達成に紐づいていて、そこから事業や組織の作り方が決まってきているので。まずビジョンがあり、それを実現するためには中長期的な企業価値の向上も必要だし、持続性も求められる。今の時代の空気やトレンドも踏まえながら、そのためにはどんな組織であるべきかを考えているんです。
坂東:おもしろい!めちゃくちゃ整理してますね。
清水:僕、こういうの考えるのめっちゃ好きなんですよ。で、するとやっぱりティール的な組織の方がフィットする。
「一人ひとりが自律すべき」とか「心理的安全性が重要」とか「変化は早い方がいい」とか。そりゃそうだよなあ、と。
坂東:時代背景なんかも踏まえると、確かにそうですよね。
清水:はい。僕らは、自分たちの理想の働き方をしたいというだけじゃなく、社会から見ても「いいね」と言ってもらえる組織づくりをしようと良く言っていますね。
坂東:そう考えると、絶対にヒエラルキーにはいかないというか。
清水:行かないですね。コントロールするよりは、エンパワーメントした方がいいと思いますし。
坂東:ビジョンから逆算して考えるほど、そうなっていくんでしょうね。ビジョンがやっぱり利他的ですもんね。
清水:僕らの「旅を広める」というのはわかりやすいですけど、でも、世の中の会社はどこも基本的に利他的で、外に意識が向いているとは思いますよ。
坂東:誰かに価値提供しないと、対価としてのお金ももらえないですもんね。
清水:本質的にはそうだと思います。
坂東:でも、社会に価値提供する目的が、「儲かりたいから」「会社を大きくしたいから」だと、ちょっとズレてくる。
清水:そうですね。やっぱり人は本人が心からやりたいことを、熱量を持ってやるのがいちばん生産性が上がると思うので。
坂東:旅を広めることそのものに意味を見出しているわけですね。
清水:本当にその通りです。
坂東:「旅を広めれば儲かるから」とか、そういうことじゃない?
清水:じゃないです。結果として儲かるとは思いますが、そこを目的にしているわけじゃありません。
追いかけるべきは、売上目標じゃなく、ビジョン。
坂東:これまで組織運営する中で、課題に感じたことはあったんですか?
清水:「こういう組織にしよう」と意思決定してから、実はまだ3年くらいしか経ってないんです。その前は社員も数人しかいなくて、何も言わなくても全員がフラットだった。それが、10人超えたくらいから段々とバラバラになってきて。今思えばすごくギクシャクしていたし、人も辞めましたね。
坂東:そんな時期も経験しているんですね。
清水:今までなあなあでやって来たけど、ちゃんと考えて、狙った方向に会社を向かわせなきゃいけないと思いました。そのとき実は、「ヒエラルキー型の組織にする」という選択肢もあったんですよ。
坂東:へ~!意外ですね。
清水:はい。本当に案としてありました。そしてもう一案が、今まで通りフラットで管理もせず、個性を大事にするという方向。ちゃんと議論して答えを出そうとみんなで合宿をした結果、「うちはこっちに行くぞ」と決まったんです。以来、フラットな方向に振り切った組織運営をしてきました。
坂東:なるほどなあ。現在進行形で課題に感じている部分はあるんですか?
清水:とはいえ、稼がなきゃいけないというのはあるんですよね。これまでの3年間は組織づくりに力を入れて、確かに組織は良くなってきました。売上も悪くはないんですけど、「めちゃくちゃいい」っていうわけでもない。そういう意味ではもどかしい思いもしていて。
坂東:なるほど。
清水:でも、一つ気づいたことがあったんです。組織固めをしつつ、売上も上げなきゃということで、けっこう短期的なP/Lを追いすぎていたんじゃないかな、と。両方追えると思っていたけど、そうじゃなかった。そこで、意図的に短期のP/Lを追うことをやめました。
坂東:えっ、売上を追いかけないということ?
清水:最重要視しないということです。もちろん指標としてのKPIは追いかけてもいいんですが、あくまで指標でしかない。それよりも、中長期的な企業価値の向上をめざそう、と。ブランド価値を下げて短期的な売上をつくることもできたんですが、それはやめようと決めました。
坂東:お~~~、振り切りましたね。
清水:企業価値を上げることにアクションをフォーカスしてから、ここ1年ぐらいでぐっと調子良くなりましたね。視点を上げるだけで、行動がどんどん良くなっていくんです。ビジョンに向かって良い仕事ができるようになる。イベントの質も上がっていく。
坂東:売上にフォーカスすると、どうしても目先の数字を追いかけちゃいますもんね。四半期ごとに目標を決めたりなんかしたら、達成しないとどうしても気持ち悪いし。
清水:そうそう。でも、目線を上げて仕事をしていれば、結果は後からついてくる。まだこれからの部分もありますが、以前よりだいぶ良くなってきました。
安藤:経営者としてはけっこう勇気が要る決断だったんじゃないですか。
清水:ちょっと極端ですけど、キャッシュフローさえ回っていれば潰れないので、我慢しようと思えたんです。ブランド価値を下げてまで短期的な売上をつくっても、1年後、2年後、逆につらいままですから。
組織へのコミットメントを高めるために、個の力を最大限尊重する。
坂東:ビジョンへのフォーカスがまったくブレないのがすごいですよね。社長だけじゃなく社員の皆さんも。
清水:ラッキーなことに、うちの社員はみんな強烈な原体験があるからだと思います。
坂東:原体験?
清水:正社員18人のうち、11人ぐらいは世界一周のひとり旅を経験してるんです。
坂東:お~、それはすごいですね。
清水:だから、旅の素晴らしさをもっと多くの人に味わってほしいという強烈な想いがある。
坂東:でも、それを今の事業につなげたのがすごいですよね。普通は結び付かない。旅が好きな人は旅行代理店に行っちゃうんじゃないですか?
清水:確かに(笑)
坂東:その強烈な原体験やビジョンへの想いをどうやって維持しているんでしょう?
清水:やっぱり、とことん一人ひとりの想いを大事にして、それを受け入れることだと思います。今の仕事に飽きちゃったら別の事業にチャレンジさせるというのもそうですね。希望するワークスタイルも人それぞれですし。
坂東:人によって色んな働き方をしている?
清水:例えば僕はもう31歳ですけど、この歳になっても「まだまだ仕事を頑張りたい」という想いが強い。一方で2人の子どもを育てながら働いている子や、地方移住したいという希望を持っている子もいる。他の会社で副業をしたい子とか。これまではベンチャー企業だから「いや、みんなで力いっぱい頑張ろうよ」とやってきたけど、もうそろそろ限界かな、と。
坂東:多様な働き方を認めるということ?
清水:完全にサイボウズさんを参考にして、真似をさせてもらったのですが、働き方を自分で選べる制度を作ったんです。横軸と縦軸でワークスタイルを4つに分けて、縦軸が上に行くほど仕事にかける時間やコミットメントが高まる。横軸は、右に行くほど働く場所が自由になる。つまり、右下に行くほど個人の自由が尊重され、左上に行くほどチームへの貢献度が高まるんです。自分がどの辺の働き方をしたいのか、一人ひとりに選んでもらいました。今は週に3日だけうちの仕事をする社員とか、副業をするメンバーも出てきましたね。
坂東:待遇とは連動しているんですか?
清水:連動させています。左上に行くほど、給与は上がっていく。
坂東:確かに、連動してないとおかしいですよね。
清水:そうですね。あとは、認識を合わせるという目的もあります。
坂東:認識というと?
清水:たとえば、会社に思いっきりコミットしている人と、副業もしながら自由に働いている人がいたとして「俺はこんなに頑張っているのに」とか「自分は副業もしているのに申し訳ない」とか。そんな議論意味ないんですよ。
坂東:どっちが偉いとかじゃないですもんね。
清水:そうそう。なので、右上の人と左下の人とでは、労働分配率の係数が変わってきます。ただ係数が変わるだけなので、必ずしも左上にいる人の方が給与が高くなるわけではない。副業しながら週3日だけ働いていても、めちゃくちゃ実力があればそっちの人の方が給与は高くなりますしね。でもこれをやったことで、さっきみたいな無意味な会話は無くなりました。
坂東:ダイバーシティーにもつながりますよね。
清水:本当に、人それぞれでいいじゃないですか。ちょっと前に吉本の副業の話が問題になっていましたが、僕は個人を尊重して、個の力を最大限生かしてもらった方が、結果的に会社でも活躍できると思っているので。とはいえ、僕らがやろうとしているのはかなりぶっ飛んだ新しいことなので、全員が僕と同じレベルで語れるかというとそうじゃない。そこは、まだこれからかなと思います。
坂東:なるほどなあ。いやあ、すごい面白かったです。
清水:いえいえ、僕の話なんて何かの真似ばっかりですよ(笑)
坂東:みんなそうですよ。今の時代、完全なオリジナルなんて無いですし。
清水:本当にいい時代だなと思いますね。いい事例が周りにたくさんありますから。
坂東:このインタビューも、きっとそう思ってもらえると思いますよ(笑) 今日はありがとうございました!
清水:ありがとうございました。