前回に引き続き、株式会社ガイアックスで事業部長を務める管大輔さんに話をお聞きします。
マネージャーの仕事といえばメンバーの管理や業務・モチベーションのコントロールと思われがちですが、なんと管さんはコントロールを手放したそう!不安を感じながらも手放した理由や、メンバーに起こった大きな変化を伺います。
幹部メンバーのコントロール下では、若手が成長を実感できない
管さん(以下敬称略):去年1年間のテーマが「手放す」だったんですよ。
坂東:おおっ、そうなんですか!
管:本当にこのメディアのテーマとドンピシャで(笑)。これまでに働く時間や場所のストレス、上下関係、売上目標など色々手放してきたのですが、「経営陣によるコントロール」を手放すのが一番大きなテーマでした。
坂東:これまではコントロールしていたわけですね?
管:完全にコントロールしていました。僕が部長で副部長が2人いるんですけど、ほぼこの3人で戦略を練って施策を実行するトップダウン型でした。
坂東:でも、そのコントロールが上手くいっていたから売上を5倍に伸ばすという目標を達成できたのでしょう?なぜ手放そうと思ったんですか?
管:僕ら3人だけでのミーティングも多く、ほかのメンバーからすると見えないところで施策が決まってしまうので、意見を言いたくても言いづらかったんです。若手のメンバーから「あまり成長実感がないです」と言われたのが大きなきっかけでした。
坂東:売上は5倍になっているのに。
管:はい。「自分がちゃんと貢献できている実感がありません」と。そう言われるようになってから、立ち止まって考え始めました。
坂東:コントロールを手放すのって、怖いですよね?
管:めちゃめちゃ怖かったですよ! でも、3人だけで伸ばしていくのには限界も感じていて。これからさらに伸ばしていくためには、若手メンバーを含め組織に関わる色々な人の意見を取り入れなきゃいけないんだろうなと思いました。
ミーティングをコントロールから解放したら、メンバーが生き生きしだした
管:ティール型組織への変革を目指し始めた2017年の暮れのミーティングから、僕はファシリテーターを辞めました。それまではオフサイトミーティングも全部自分で設計して、僕が1時間話したことをその後のグループディスカッションで納得・浸透させる、みたいな流れだったんですよ。
坂東:それは…がっつりコントロールしてますね(笑)。
管:でもその時にコンサルタントから「自分が参加者だったとして、そのミーティングは楽しいと思いますか?」と言われてとハッとしました。「僕がメンバーだったらめっちゃ嫌だな」って。
坂東:グサッときますね!
管:それがあまりにも衝撃的で、その場で「わかりました、僕ファシリテーター辞めます」と。外部の人間であるコンサルタントにファシリテーターを完全に任せることに決めました。
坂東:その場で決断したんですね!自分がファシリテートしない初めてのミーティングはどうでした?
管:正直めっちゃ不安でした。オフサイトミーティングでは20人以上のメンバーを8時間に渡って拘束します。合計160時間もの貴重な時間を、本当にいい時間にできるのだろうか、と。でもその1日を通して感じたのが、思いもよらない意見がメンバーから出てきたり、何よりそれぞれのメンバーがものすごく生き生きとしていたこと。コントロールされない場ってこんなに大事なんだと実感しました。
坂東:そんなにも生き生きしていたんですね!
管:これは、今まで僕がコントロールしていたために失っていたものなんだと、ありありと体感しました。一人一人を信じて、能力を発揮できる場を作りさえすれば、こんなにも活性化するんだなと。なので、去年(2018年)はコントロールを完全に手放すことにトライすると決めました。
自分が苦しいときほど、ついコントロールしたくなってしまう
坂東:経営者は基本的に、トップダウンで、コントロールしたくてやっている方が多い。だからティールやホラクラシーに興味があっても、手放すことは怖いんですよね。それによって売上が下がるんじゃないかとか、サボるんじゃないかとかが、不安でできない人がめちゃめちゃ多い。実際に手放してみていかがでしたか?
管:これはあまり言ってないんですが、実は去年1年間は業績の伸びも止まって、横ばいだったんですよ。
坂東:そうでしたか。インタビュー記事などを拝見していると、とても順調に推移しているように見えました。
管:ちょうど去年の9〜10月ごろに単月で赤字になったんです。新しい事業を立ち上げるための原価がかさんでしまって。
坂東:そうだったんですね。新規事業の立ち上げの際はどうしても投資が先行してしまうものですが…。
管:その時に、以前のように「もっとこういうのやってほしい」とか「やれよ」とか、コントロールするようなコミュニケーションを取るようになってしまったんです。無意識のうちに…。
坂東:リーダーが最も危機感が強いし、「なんとかしないと!」という気持ちが溢れ出してしまうんですよね。他の経営者からもよくそうした話を聞きます。一時的にせよ、業績が落ち込むのが耐えられないんだよね、と…。
管:毎月2回ティール型組織を担っていくためのセッションがあるんですが、そこでメンバーから痛烈に批判されました。「管さん、言ってることとやってることが違います!」と。新規事業を始めたのも赤字の要因だったのですが、そうした説明も不十分だったんです。僕があまりに見えないところで動いていたから、「こっちから見ると不信感があります」と言われました。
坂東:手放したはずだったのに、いつの間にかコントロールを取り戻しちゃったんですね?
管:そうですね。言われて初めて気づいて「余裕がなくなると手放せなくなるものなんだ」とものすごく反省しました。調子がいいときのほうが手放しやすいんですよ。でも、調子が悪くなったときにどういう態度をとるかで真価が問われる。メンバーはそこを見ているんだな、と。
坂東:周りからは、実はまる見えなんですよね。そのことを口に出して言わないから、リーダーは気づかないだけで。
でも実際に状況が厳しいわけだし、「今は業績良くないし、調子を取り戻すまでしばらくコントロールしよう」とはならなかったんですか?
管:ならなかったですね。上の3人がコントロールする組織は、もう今後伸びないと確信していますし、組織の形を変えるという方針はずらしたくないという思いがありました。メンバーとの見解も「コントロール型組織に戻したくないよね」で一致しています。
コントロール型組織なら、うちよりもいい組織って世の中にいっぱいあるんですよ。副部長からも「今自分がこの組織に残っているのは、新しい考え方の組織に移行することに価値があると信じているからだ。以前に戻るならば、この組織に残る意味がない」と言われました。
坂東:コントロール型では将来がないと確信しているんですね!
副部長のことばも、すごい重さがあります。でも、管さんと同じで、元々は達成型の人だったんですよね?
管:そうです。でも今では、僕と同じくこの組織を変えていくことに、強く可能性を感じてくれています。
坂東:管さんだけではなく、副部長の価値観も変化したんですね。すごい話だなあ!
メンバーから反発があることが嬉しい
坂東:コントロールを手放して1年、どのような変化がありましたか?
管:メンバーからいい指摘があったおかげで、考え直せた点もありますし、自主的に進めてもらえたおかげで改善が進んだ部分もあります。コントロールを手放したロールモデルとして認知されるような組織を作っていきたいです。
坂東:ロールモデルとなるって、素敵ですね。2019年に入って、こんなことをやっていこうというテーマはありますか?
管:まずはメンバー間でお互いのことをよく知ることから始めたので、まだ「我々は何のために働くのか?」という組織の存在意義のディスカッションまでは十分にできていないんです。今年1年かけて、何を目指していくのかを固めようと思っています。
坂東:去年1年かけてお互いを知り、今年1年かけてチームがどうあるべきかを考えていくと。この時間感覚って、以前までのスピード感からするとだいぶ時間をかけて進めているような気がします。
早く進めたい!というジレンマはありませんか?
管:去年は結構ありましたね。特に達成型に慣れているメンバーほどウズウズして。
坂東:期限決めて、KPI設定してどんどん進めちゃおうよ!みたいな?
管:そうそう。「なんか停滞してません?こんなペースでいいんですか?」みたいな(笑)
ですが、トップダウン型組織だった頃と比べて大きく変わったのが、僕が発言したことに対して、反発できるようになったことが大きくて。
坂東:なるほど。いままでは内心思っていても、メンバーから管さんには意見を言いづらい関係性だったんですね。
管:そうです。これまでは、僕が言ったことは全部受け入れるしかなかった。でも今は、違うと思ったら反論してくれます。メンバーからNOと言われた時は、むしろ対話するチャンスだと思っています。
坂東:ミーティングまで、すべてをコントロールしていた管さんが、今はたとえ時間がかかってもメンバー一人ひとりを大事にしていこうと思うようになった。それって、もともと管さんの中に何かがあったのでしょうか? 「種」のようなものが。
管:どうでしょう?。僕にとって大きかったのは、社内外からもらった「声」です。僕らの働き方改革の記事を読んで「実際に働き方を変えたら離職率が下がった」と見ず知らずの人にお礼を言われたり。リモートワークのおかげで家族孝行ができたと、泣きながら報告してくれたメンバーがいたり。そういう「風景」って、それまで数字だけを追っていたときには見たことがなくて。
坂東:いままで見えなかった「景色」の豊かさに、価値を感じたんですね。
管:人のためになることができている、すごく幸せだなと感じました。自分の貴重な人生の時間を何に投下するのかと考えたときに、単純に業績を上げるだけだったら、世の中にはいくらでも世の中にすごい方がいます。僕らの組織がそうした方に勝つには、長い時間がかかると思うんです。
坂東:「数値的な結果を出す」という種目での勝負なら、そうかもしれませんね。
管:ただ、僕たちが目指す組織の形は間違いなくメンバーの働き甲斐を高めるという自信がありますし、この形と業績を伸ばすことを両立できれば、資本主義の中でも選ばれる組織になると思います。僕たちが頑張った結果、世の中の働き方がどんどん良い方に変わっていくかもしれないと思うと、ロールモデルになることに勝手にミッションを感じているんです。
坂東:お話を通じて、管さんの根っこには、熱さと優しさ、そして激しいエネルギーが同居しているなあと感じました。
結果にコミットしまくったり、手放す方に振り切ったりと、経験を重ねてきて、管さんの個性とエネルギーが結実しつつあるような印象です。ぜひ次世代のロールモデルとなる組織をつくっていただきたい!
管:まだまだ道半ばではありますが、トライし続けたいと思っています。
■あとがき
取材時は事業部長だった管さんですが、2019年4月から事業本部長に昇進されました。
しかも同時に家を引き払い、海外を転々と移住しながらリモートで仕事をするというワークスタイルをスタート!
フリーのエンジニア、とかだったらリモートワークも理解できますが、バリバリの重責を担う事業責任者が、フルタイム勤務なのに社内にも国内にもいないって・・・!
(ちなみにこの原稿の確認はオランダにいる管さんとやりとりをしました)
管さんの決断も、ですが、それを認める会社側もかなりユニークです。
社会全体の働き方を大きく変えうる可能性を感じる管さんと株式会社ガイアックスの挑戦。これからも要注目です!