多少評価が上がったところで、モチベーションは上がらない。
坂東:評価制度自体を無くすというのも、一般企業にとっては非常識というか、もはや意味が分からないと思うのですが、なぜ、そして、どうやって評価制度を無くてしていったのでしょうか?
倉貫さん:昔は評価していたんですけど、正しく評価できているのか?という疑問はずっとありました。僕らの仕事が単純作業だったら簡単に相対評価できるんですけど、今やっている仕事は人によって中身が違うし、日によっても変わる。だから、人を並べて正確な相対評価ができないんです。となると、そもそも評価すること自体に意味があるのだろうか、と。
坂東:でも、評価によって給与は変わってきますよね。
倉貫さん:そこなんですよ。会社が何のために社員を評価するのかというと、評価が給与に結び付いて、社員のモチベーションアップにつながると考えているからですね。でも実は、評価がどうあれ結果として給与にそこまで差はつかないんです。普通の会社だと周りの3倍の成果を出しても、給与は3倍にはならないですよね。
坂東:そうですね。
倉貫さん:でも、実際に3倍くらいの開きがあることはたまにある。その場合、高い能力を持った人はどんな評価をされても不満しか残らないんです。ちょっとだけ給料上げられたところで納得いかないし、次に成果が出ずほんの少しでも給与が下がったらモチベーションは暴落する。それなら評価にかける時間もコストも全部社員に還元した方がハッピーなんじゃないか、と。そう考えて、評価をつけるのをやめ、みんな一律の給与水準にしたんです。
坂東:新卒の場合はどうなんでしょう?
倉貫さん:新卒はまだ『弟子』の状態なので、顧問プログラマーとは差をつけています。一人前になるまでは毎年定期昇給していき、一人前になったらみんなと同じ給与で固定ですね。
坂東:スペシャルな技術を持った人も一律ですか?
倉貫さん:そうです。そういう人は給与ではなく、時間のインセンティブをもらえるという感覚です。人より早く仕事を終わらせ、空いた時間は好きなことをしてもかまいません。ただ、この状態が完成形というわけではなく、将来的には給与に階層を設けるかもしれない。大切なのは、評価で人をコントロールしようとしないという考えが、社員全員とコンセンサスが取れていること。今と多少形が変わっても、評価制度を復活させることはないと思います。
坂東:そこはもう皆さんの中で決着がついているんですね。
倉貫さん:給与にちょっとした差をつけて、誰かのプライドを傷つけたり、誰かを喜ばせて働かせるということは無理がくるだろうと思っています。。ただ、僕たちの場合はこうしましたが、会社の目的や人数や状況に応じて、どんな施策を打つべきかは変わってくると思います。どちらにしろ大切なのはモチベーションを高く保つことだという点を忘れないでほしいですね。
面談でやるべきなのは、評価づけではなく、すり合わせ。
倉貫さん:仕事をしていて嬉しいことは『やりたいことを仕事にできているか』。やりたいことなら、人は放っておいてもモチベーション高く頑張りますよね。だから、面談時にやるべきなのは、評価付けでもランク付けでもなく、その人のやりたいこと、めざすキャリアを知った上で、次にチャレンジすることを丁寧にすり合わせることだと思うんです。弊社では、評価制度はなくしましたが今も面談の時間はしっかり取っています。
坂東:なるほど。
倉貫さん:そもそも、評価制度の目的が個人のモチベーションアップなのだとしたら、やりたいことのすり合わせをすることの方がよっぽどモチベーションアップにつながります。
坂東:評価制度にしろ何にしろ、本質を追求しつづける思考回路がすごいですね。
倉貫さん:「そもそもそれ何のためにあるの?」という言葉を合言葉みたいに使ってますね。常に物事の本質を捉えていたいですし、それができるとコスパが良いんです。本質じゃない部分はすべて捨てることも出来ますから。
坂東:本質を捕まえることが得意なんでしょうね。倉貫さんは。
倉貫さん:「本質を捉える」ということは、世の中の具体的な現象や出来事を抽象化し、モデル化することなんですよね。たとえば、スターバックスが儲かっている理由を図式化できたら、本質を捉えたことになりますが、その図というのはビジネスモデルですよね。「本質を捉える」=「モデル化できる」というのはそういうことです。そして、プログラマーは、その作業がめちゃくちゃ得意なんですよね。
坂東:そうなんですか。
倉貫さん:プログラミングというのは、世界の事象やデータを抽象化(モデリング)して、プログラムという表現に落とし込む作業ですから。物事の本質を捉えるということを、日々仕事としてやっているんですね。
坂東:ソニックガーデンで仕事をしていると、そういう本質的な思考が身に付きやすくなる?
倉貫さん:というより、それができる人が優秀なプログラマで、そういう人を採用したいと考えてやっています。
報告・連絡する暇があるなら、雑談・相談をしてほしい。
坂東:バーチャルオフィスの画面って見せてもらえますか?
倉貫さん:どうぞ、どうぞ。これが僕らのバーチャルオフィスです。毎朝「おはようございます」って、ここに出社しています。
坂東:一般的なチャットとの違いは、どうでもいいことが書きやすく、みんなでワイワイしやすいところ?
倉貫さん:そうですね。右側のタイムラインには全員の発言が一覧で流れますが、誰にも通知がいくわけではないので気軽に書き込むことができます。。「今日はプレゼン資料をつくろう」とか「ランチ何食べよう?」とか、いろんな人の発言がどんどん流れていきます。特定の仲間と話したければチャット機能もありますし、テレビ会議もすぐにできます。兵庫県明石市のメンバーとつないでみましょう。
新入社員A:こんにちは。
坂東:こんにちは。
倉貫さん:彼が、一度も出社したことがない新卒入社の社員ですね。
坂東:やり取りがものすごくスムーズですね。
倉貫さん:そうですね。リアルなオフィスで会話するのと変わらないです。彼はもともと旅が好きだったので、将来は、いろんなところを旅しながら働きたいと言っていた。それを社会人1年目で実現させてしまいました(笑) 今は自宅にいるみたいですが、マレーシアとか東南アジアにしょっちゅう行っていましたね。
坂東:確かにこれだけ手軽で気軽だと雑談もしやすそう。
倉貫さん:「ランチでラーメン食べに行ったらお気に入りの店が休業してた(涙)」とか、発言したら全員に通知がいったり、未読に入ったりするツールだと気軽に書けないですよね。でもバーチャルオフィスならできるんです。そういう発言が流れてきたら、自由に絡んでいい。「そのエリアならあのラーメン屋もおすすめですよ」みたいな。リアルなオフィスにいるのと同じ感覚で雑談ができる。
坂東:これがリモートワークのキモなんですね。
倉貫さん:キモですね。こうした気軽に雑談できる環境がないままリアルなオフィスを無くしていたら、まったくコミュニケーションが取れず、会社は崩壊していたと思います。僕らはバーチャルオフィスが出来てから、物理的なオフィスを無くしました。
坂東:雑談することがチームにとっては極めて重要ということですね。効率の追求というところからはちょっと離れるかもしれませんが。
倉貫さん:いいえ、雑談って実は効率を追求するうえでもすごく重要で。それよりも非効率なのは、報告と連絡です。
坂東:え!そうなんですか。
倉貫さん:報連相のうち報告と連絡って、言ってしまえば過去のことですよね。わざわざ会議室に集まって共有するようなことじゃない。ツールを使った共有で十分なはずです。その代わり、相談は大事にしたい。相談はこれから先ののことに関する話なので。
坂東:意思決定に必要ですもんね。
倉貫さん:そうなんです。ところが、普段から雑談していないと、相談ってハードル高いんですよね。たとえば、普段全然会話したこともない部下から「社長、相談があります」っていきなり言われたら、どう思いますか?
坂東:最悪の事態を想定して身構えますね(笑)
倉貫さん:そうでしょう?部下にとっても、かなり勇気がいることだと思う。だけど、普段から雑談していて、その流れで相談されたら全然気楽にアドバイスできる。だから、もっと雑に相談してほしいんですよね。雑談なのか相談なのかわからないくらいでちょうどいい。
坂東:確かに、関係性ができていない人に相談するのは心理的ハードルが高いですよね。
倉貫さん:そうならないためにも、普段から雑談しておくことが大事なんです。うちでは、「もっと雑に相談しよう」とよく言っていて、雑談と相談をセットにした雑な相談のことを『ザッソウ』と呼んでいます。報連相よりザッソウの方が大事だ、と。
坂東:今どきの仕事、特にクリエイティブな仕事では確かにそうですね。
倉貫さん:そうなんです。河原で石を積むだけの仕事だったら、雑談なんてしている場合じゃない。だけど僕たちの仕事はそのほとんどが、何が正解かわからない。だったら一人で悩まずに、どんどん相談するべきですよね。
坂東:最近、ティール組織がすごく流行っていて、本の中で『助言プロセス』つまり相談の重要性について書かれているんですが、いざ取り入れようと思ってもなかなか一歩踏み出せない人が多いみたいです。そんなに気軽に相談できない、と。それは、雑談とセットになってないからなんですね。
倉貫さん:そうなんですよ。あの本の内容はかっこいいけど、難解でわかりにくいんです。弊社では、社員とのすり合わせ面談のフォーマットを“YWT”と言っているんですが、なんの頭文字かというと「やったこと」「わかったこと」「次にやること」っていう、まさかの日本語(笑) ダサいですよね。でも、わかりやすい。
坂東:格好いいことよりも、わかりやすいことが大事ですもんね。まさに本質思考ですね。
倉貫さん:そうですね。ダサくてもわかりやすいほうが大事です。
坂東:本当にそうだと思います。今日は本当に面白かったです!ありがとうございました!
新しい会社のあり方に注目が集まるソニックガーデンさんの働き方と人生を100%楽しめる組織づくりは今後も目が離せません!