今回のインタビューは【ティール組織が切り拓く飲食業界の未来】シリーズ② 売上目標を掲げても、ただの繁盛店にしかならない。そこで、目標を手放した餃包が追求したのは?のつづき。
(※「ティール組織」の解説はこちら)
シリーズ③の最終章は組織の変化や人材採用など、ティール組織の肉汁水餃子専門店餃包代表坂田さんに更に気になる所を突っ込んでいきます!
「社員の幸せのため」って、社員が言っちゃダメでしょ。
坂田さん:目的の話で、もう一つ話したいんですが、うちは『経営理念』を撤廃したんですよ。理念じゃなく、『目的』とか『存在目的』という言い方をしている。
坂東:そういえば、これまでに何度もその言葉が出てきてますね。
坂田さん:理念も存在目的も、本質的には一緒だと思うんですが、明文化して固定化するのをやめた。固定化すると、誰も自分の頭で考えなくなっちゃうから。目的はそのときそのときで、毎回考えた方がいいんです。理念を撤廃してからの方が、逆に理念経営になっていますね。
坂東:ブログで拝見したんですが、毎日「目的」をみんなに考えさせているとか?
坂田さん:日々の営業プランというのがあって、それが、その日の存在目的です。
坂東:それは店の存在目的ですか?
坂田さん:店の、というより“チームの”ですね。シフトに入るメンバーは毎日変わりますから。日によって、曜日も違えば天気も違う。だから目的が毎日一緒ってありえない。この、『今日の存在目的』も何のためにつくったかというと、目的とゴールイメージを毎日メンバーに考えてもらうためなんです。いわゆるトレーニング。
坂東:なるほど、そうなんですね。理念という概念自体を撤廃する会社ってあまりないと思うんですが、何かきっかけがあったんですか?
坂田さん:いろんな意思決定をさせてみて、大きなギャップが見えてきたんです。経営者とメンバーとの知覚の違いというか。彼らに見えていないものもあるし、僕に見えていないものもある。そんな中で起こった『シフト事件』という出来事が、一つのきっかけだったのかな。
坂東:なんですかそれは?(笑)
坂田さん:シフトをメンバー同士で決めさせるようにしたんです。そうしたら、わけわからないシフト組みが出てきた。無駄な人員配置も多く、結果的に利益率も急に下がった。そこで、『自分たちでシフトを決める目的』を話し合いました。当時の経営理念に、『社員とその家族を幸せにする』っていう表現があったんですが、あるスタッフが、「理念に『社員の幸せ』ってありますよね。だったらある程度シフトにはゆとりがあった方がいいと思うんです」と言いだして。ちょっと待て、そういう発想なのか。めちゃくちゃ内向きじゃん、と。
坂東:目的が逆作用しちゃったんですね。
坂田さん:それって、社長が「この会社は俺の幸せのためにある」と言うのと一緒ですからね(笑) 理念経営をしているつもりだったけど、全然できていなかったんだと気づきました。本来ティールの存在目的は、チームの“中”には無いんです。『社会(社外)に対してどうあるべきか』が存在目的であるはずなのに。だから「経営理念は、僕の理念なので使わないで」とみんなに伝えました。僕が社員の幸せを願うのは変わらないけど、みんなが自分で言わないでくれ。気持ち悪いから、と。
坂東:経営理念は社長の想いだったんですね。
坂田さん:そうなんです。チームの存在目的は毎日自分たちで考えてもらいたいんですが、そのときに、顧客とか社会とか、外に対しての意識を忘れないでほしかった。ところが、「誰のために?」って聞いたら最初、「自分たちのため」って出てきたので「それはキモイぞ」と。
坂東:内向きなのはやっぱり違うんですね。そりゃそうですよね。
飲食業から、『人手不足』という概念が消える?!
坂東:去年から目的ドリブンになって、けっこう組織が変わってきたと思うんですが、スタッフの採用や定着にも何か変化はありましたか?
坂田さん:いろんな変化はありますが、むしろここからですね。人材採用や定着についてはこれからもっと面白くなっていく。ちょうど今いろいろトライしてるところなんですよ。
坂東:元々採用にはそんなに困ってないように見えますが。
坂田さん:飲食という業態にしては、みんな定着してがんばってくれていると思います。最近、人材の「定着」について僕の考え方が変わってきまして。
坂東:どう変わった?
坂田さん:雇用形態をあまり重視しなくなったんです。うちはお客さんも社員と同じように接客してくれるケースもあるし、出戻りのメンバーも多い。めざすのは、ファンと共に世界を良くするお店。そういう意味で、社員もアルバイトもお客さんもみんな一緒になってお店をつくってくれている。自然と雇用形態の線引きが僕の中でどんどん曖昧になっていった。
坂東:お客さんが配膳しているのは、確かにびっくりしました。
坂田さん:そうなると、人手不足という概念が無くなるんです。今、うちで雇用しているメンバーは15人前後なんですけど、それだけを戦力として捉えるのがおかしな話で。餃包の経営やマネジメントや現場でのオペレーション、接客に関わる人が、少なくとも常時100人、理想を言えば300人くらいいる、というコミュニティーにしたいんですよね。その中で、シフトで出勤する人もいれば、飲みたいときにカウンターに来て手伝う人がいてもいい。
坂東:その考え方は新しい(笑)
坂田さん:あと、これからつくりたいのは、歌手やタレントの卵の採用枠。彼らは日銭が必要なのでバイトもするんだけど、急遽オーディションや営業の予定が入ることもある。すると、決められたシフトに入れなくて、ギリギリで「ごめんなさい!」と言わないといけない。それが許される職場ってなかなか無いんですよね。
坂東:確かに、お店側としても困っちゃいますもんね。
坂田さん:うちは逆にそれを100%許容しよう、と。店舗オペレーションは担当せず、歌を歌ったり、タップダンスしてもいいし、カウンターでタロット占いをしたり(笑)、そういう経験価値をお客さんに提供してもらう。雇用か業務委託かはこれから考えるんですが、そんな人が何人いてもいいと思う。
坂東:ますますカオスなお店になりそう。
坂田さん:店には、出られるときに出たらいいし、やりたいならオペレーションをやってもいい。本業の予定が入ったら店に来なくてもいいんです。実際、就職を機にうちを卒業して働いている元大学生の子が、今でも「今月1回はシフト入れそうです」って普通に言ってきます(笑)
坂東:出戻りが多いのは何か理由があるんですか?
坂田さん:うちは、採用にも力を入れますが、それ以上に、卒業という『出口』にこそ力を入れているんです。退職時はイグジットインタビューという面談を実施して、お互いのその後の人生を応援しあう。本人の許可があればHPにも公開する。最後には全員が本当にいい顔をして去っていきます。結果的に出戻りも増えるし、卒業後にも力になってくれたり、紹介が生まれることも。まだまだ課題は山積みですが、今後も餃包らしく、ティールらしく解決していきたいですね。
坂東:この飲食業界から「人手不足」ということばを無くせたら、すごいインパクトだと思います。
坂田さん:幸いなことに、うちは本当に人に恵まれていますから。キャラの濃い人や、一芸に秀でたメンバーも多い。80歳のおじいちゃんや現役の歌手、マクドナルドで接客日本一になった、なんていう子も。この枠をこれからもっと拡張させていきたいですね。
坂東:坂田さん自身に求心力があるから、そういう人たちが来てくれるんじゃないですか。
坂田さん:それは僕だけじゃなくて、うちにいるスタッフ、お客さんも含めてみんなそうなんだと思います。
坂東:なるほど!『ファンと共に世界を良くする』ですからね。今日は本当に面白かったです。ありがとうございました。
坂田さん:ありがとうございました!
取材を終えて ー手放すラボ所長坂東のあとがきー
餃包が進化するスピード感は凄い。
たとえば、インタビュー後に、存在目的が「ファンと共に経験価値をつくり、ファンと共に世界を面白くする」
と改訂されました。
「世界を良くする」から「世界を面白くする」へのアップデートです。
「良くするという社会貢献よりも、面白くする、の方がさらに上位概念で、難易度高く、ワクワクし、
ポジティブで、かつ押し付けがましくない感じがして、餃包らしいと思ったから」だそうです。
また、2019年4月に、CEOの座をアルバイトの方が就任されました。
権限の分散も甚だしい(笑)
それだけのスピード感を持ちながら、しかも飲食業態というと、スタッフの方はめちゃくちゃ働いているイメージですが・・・
残業は基本的に無く、有給もアルバイト関係なく強制的に取得しているそうです。
それを利益率20%以上を維持しながら実現しているという点がヤバいですね。
私たちの常識では測れない、事業の成長とユニークな組織づくりとの両立。
これこそ、進化型組織(ティール組織)の醍醐味なのだと思います。
今後も、餃子らしく、ティールらしく、ファンと共に世界を良くし、進化し続ける組織づくりに目が離せません!
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