今回のインタビューは【ティール組織が切り拓く飲食業界の未来】シリーズ① 今最先端の組織論を実践している、六本木の餃子店を突撃!のつづき。
(※「ティール組織」の解説はこちら)
引き続き、ティール組織の肉汁水餃子店を経営している坂田さんに更に突っ込み、お話を伺います。
ティール組織の肉汁水餃子、誕生。
坂東:めざす組織像みたいなものはあるんですか?星野リゾートをベンチマークしているという話が先ほど出ましたが。
坂田さん:星野リゾートさんに惹かれたのは、成果をちゃんと出しているから。僕はティールだからって、成果や数字は気にしなくていいという感覚ではない。それは偽物だと思います。お客さんや存在目的を本気で考えたら、成果はオレンジ組織の何倍も出さないとおかしい。うちには今売上目標はないんですよ。なぜなら、売上目標なんか設定しなくても、普通の売上の5倍や10倍は当たり前に行くよねと思っているから。もしそこまでの成果が出ていないのなら、どこかに問題がある。そこを見つけてちゃんと解決していこうね、と。だから、成果を出していないティール組織にはあまり興味がなくて。そういう意味では決してティール組織ではない星野リゾートの方がいちばん魅力的に見えた。
坂東:ビジネスモデルと組織って、鶏と卵のように、どっちが先かという議論がありますよね。ビジネスモデルありきで、そこに合わせて組織をつくるのか。あるいは面白法人カヤックみたいに組織づくりが先に来て、それに合わせてビジネスをつくるのか。そのバランスで言うとどんな感じですか?
坂田さん:うちは両方同時に走らせている感覚ですね。どっちが、とかはあまり気にしてないです。ただやっぱりビジネスモデルとして、売れるもの、お客様が喜ぶものをつくらないと話にならないという気づきもあって。餃子屋をつくるときは“売れるかどうか”はかなり意識していました。
坂東:売れるもの、売れる業態であるということを大事にしていた、と。
坂田さん:そうですね。売れる餃子を追い求めた結果、組織論が加速した。
坂東:売れる業態があったうえで、その業態のパフォーマンスを最大化するには、オレンジ型の組織より、星野リゾートやビュートゾルフのような組織の方がいいということでしょうか。
坂田さん:オレンジ(型:達成型組織をさす)もティール(組織)も『目的』が重要なので、それに合わせて組織を変えていけばいいと思っています。
坂東:そういう意味では、『餃包の目的』というのは?
坂田さん:今はもう経営理念も“無断使用禁止”にして(笑)、明文化もしていないんですけど。明文化すると思考の浅いメンバーは思考停止しやすいので。何もないと自分で考えるしかない、というシステムです。ただ、口頭で語り合うとか、LINEでやりとりはよくします。よく話すのは「ファンと共に世界を良くする。ファンと共に、経験価値を作って世の中の役に立つ」とか、そういうこと。普通のことですが、その実行レベルを普通じゃないレベルでやる。
うちは本当にお客さんを巻き込むんです。社内ミーティングにお客さんが来たり、インスタの管理者がお客さんだったり。厨房の目の前を『シークレット席』として、そこに座ったお客さんには配膳を手伝ってもらったり。そうした工夫を通じて利益を出しながら、その利益をさらなる目的追求のために使っていくんです。
坂東:『改善』というのもけっこうキーワードになっているように見えます。
坂田さん:改善提案はこの1年、1店舗だけで累計5000~6000件くらい出ている。改善実行数というのも計測していて、実際に1000件は実行しているんです。月に100件とか。昔は1人1提案とかルールをつくってやっていましたが、今はそういう感じでもなく。当たり前のように出てくるようになりましたね。
坂東:提案の中身や規模で言うとどういうものが出てくるんですか?
坂田さん:小さいものが多いんですけど、備品購入のこととか。あと、大きいもので言うと、過去にブログでも書いたんですが、長期借入金の返済プランをアルバイトが決めてしまった(笑) それは改善ではないですけど、意思決定ですよね。
坂東:なぜそこまで提案がたくさん出るんでしょう?
坂田さん:「目的達成をめざして働いていれば出るのが当たり前」という感覚です。経営者なら毎日考えて、毎日いろいろ試すじゃないですか。それをやらないなんてロボットと一緒だと思いますし。「改善案が出ないほうがおかしい」という当たり前の基準が違うだけだと思います。
坂東:そうは言っても、なかなか社員やアルバイトは経営者と同じマインドにはならないんじゃないですか?どこの会社もそこで悩んでいます。
坂田さん:うちは、何か変えたいことがあれば自分で決めて、すぐ実行に移せるんです。備品とか新しいものに変えたいと思えば、すぐに買っていい。意思決定LINEというLINEグループがあって、事前承認無しでも5万円までなら使ってOK。事前の助言を経れば、理論上決済権は全員無制限です。助言も専用LINEグループで投げるだけでバシバシ決められるようになってるので、実際は長くても24時間の助言時間で決定しますし、通常は2時間とか30分とか、1分の助言タイムを経て決定もあります。5万円までなら0分です。そのうちもっとこの金額は上がりそうですけど。その上限金額すら、誰でも再設定の意思決定ができます。
坂東:無制限ってすごいですね(笑)
坂田さん:ただ、PLも現金残高も全部メンバーに公開してるので無茶はできないですけどね(笑)
坂東:確かに(笑)
坂田さん:あと意識しているのは、『恐れのコントロールと成功体験を積ませること』。人は意思決定する際に必ずビビるんですよ。「叱られたらどうしよう、失敗したらどうしよう」と。それをいかに克服するか。特に新人さんは経験がないと、会社のお金で100円のものを買うのも怖いと思う。だから、AMAZONで数百円の備品を自分で選んで買ってもらう、みたいな練習をしました。それが成功体験になっていく。
坂東:なるほどなるほど。
坂田さん:この前、高卒の女の子がインスタボードっというのを自分で勝手にデザインして、2万円くらいで業者に発注してつくったんですよ。数百円からはじまり、2万円の意志決定まではできるようになった。それで、周りから「いいね!」と言われて嬉しいし、自分のアイデアなので、お客さんにも積極的に案内する。この前は会社の重要なミーティングにも自分から出たいと言って、来るようになりました。
坂東:それはすごいですね。
坂田さん:「改善させる」ではなく、改善するのが当たり前、売上も出るのが当たり前。そんな経営者の思い込みがあるので。現実それができていないならどこかに問題がある。どうすればいいか一緒に考えよう、という組織なんです。言い訳も聞き入れないですし。いい意味でトップダウンの要素もあり、ティールの要素もある。だんだんと組織の重心がティールに側に寄ってきた感覚が出てきて。そこで、『ティール組織の肉汁水餃子』を名乗るようになったわけです。
組織の存在目的が、大きく進化した瞬間。
坂東:会社の目的を全員が理解して、一人ひとりが意思決定して、実行して、改善を続けながら当たり前のように目的に向かっていける組織をつくった、と。
坂田さん:まだまだトレーニング期間中ですけどね。
坂東:目的というと先ほど話された、『ファンと共に世界を良くする』?
坂田さん:そうですね。いいことをしていこう。それを広げていこう、ということです。目の前のお客さんに接客でハッピーになってもらって、家に帰ってそれが家族にも伝わればなおいい。別に募金活動してもいいでしょうし。実際に、自分で意思決定してお店で募金活動したスタッフもいます。自分の信念でいいなと思ったことには、なるべくブレーキかけずにやっていこう、と。そのためには、飲食店の利益率って普通は10%程度で良しとされますけど、それじゃダメだと思った。20%~30%ないとダメだな、と。実際すでにそれくらいは出ています。
坂東:それはすごい!
坂田さん:ただ、オレンジ(達成型組織)のパラダイムで見たら、家賃高い中でこれだけの利益率を出すのは成功だと思うんですけど全然そういう感覚はなくて。「月の売上が、1億になったら面白いな」「利益率が60%になったら、世の中にもっといいことできるじゃん」と思うんです。社会貢献もできそうだし、雇用も増やせそうだし、何よりハッピーになるお客様をもっと増やせる。オレンジのパラダイムだったら、60%の利益率をめざそうとは多分ならないですよ。
坂東:なんでだろう?
坂田さん:わからないですけど、でも、ならないんですよ。ティールって言い出すまで、僕もなってなかったですよ。
坂東:坂田さんも?!ティールの影響でそう思うようになったということ?
坂田さん:ティール型になって、存在目的を考えた中で自然とそうなっていったんです。それまでは「月の目標2000万円!」と言っていた。売上目標がちゃんとあって、管理もして。僕の限界はそんなもんだろうと思っていた。当時はまだ1000万円ぐらいしか届いてなくて、「2000万!」と僕が声高に叫んだところでメンバーはシーンって感じで。ただ、組織の存在目的とかメンバーと会話する中で僕も考えたんです。「2000万円って面白くないなあ。わかりやすく1億だろう」って。で、これは目標じゃなく「1億くらい行くよね」って感覚になって。
坂東:組織の存在目的を考える中で、思考の枠が外れた?
坂田さん:大きかったのは、2018年にあった目黒区の児童虐待死事件。ニュース見たら泣けてきて、すごく内省したんです。「もしこの両親がうちのお店に来て、常連さんや会員さんになっていたら、この事件は起きてなかったんじゃないか?」と。親が不幸だから、その気持ちを弱いものにぶつけてこういう事件が起こる。それを、ハッピーにできる接客の仕事ってすごく重要なんですよね。でも、現実には届いていない。目黒と六本木だから、いつでも来られる距離なのに来店していない。つまり、うちの力は全然足りない。もっとお客さん増やさないとなあ、と。
坂東:存在目的がはっきりしたというか。
坂田さん:そうですね。その事件の後に「世界を良くするんだ」という強い想いが出てきた。
坂東:一店舗でもっと無限大に、世界中から人がこの六本木店に来るような?
坂田さん:それまでは、目の前のお客さんをいかにハッピーにするか、ということがゴールだった。でもぜんぜん違うな、と。ハッピーにするのは当たり前で、その先の家族とか職場の同僚もハッピーにしなきゃいけない。店に連れてきてもらうのでもいいし、翌日の家族への「おはよう」がちょっとご機嫌になるだけでも変わるじゃないですか。それで、『ファンと共に』という言葉が出てきたんです。「お客さんを幸せにしてあげる」なんておこがましい。僕らは力がないので、お客さんの力を借りて、一緒にまずはここから盛り上げていこう、と。そんな風に目的が進化していった。この1年でもコンセプトは2、3回変わってるんです。
坂東:あぁ、そうなんですね。
坂田さん:今は『カオスを楽しむ肉汁水餃子専門店』っていうコンセプトに変わった。メンバー構成はもともとカオスだし、お客さん自身が接客するのもカオスだなぁと。コンセプトが変わったら、80歳のおじいちゃんスタッフが、今年になって新サービスとして店でウクレレ弾きはじめたんですよね。めっちゃカオスじゃないですか。餃子食いに来たら、いきなりおじいちゃんが出てきてウクレレ弾きだすって。でも、お客さんはすごく喜んでくれた。
坂東:目的が進化したんですね。
坂田さん:そうそう。ティールの『存在目的は進化する』という意味が分かった。こういうことか!ティールってすげぇな、と。それから、「月商1億は行くだろう」という想いが出てきて、ある日30分くらいウォーキングしていたら、戦略というか、未来がバババッ!と見えちゃった。
坂東:おー!マジすか。
坂田さん:「これいけるわ!」って確信しました。でもスタッフにはあえてすぐには教えず、クイズを出したんです。「月商1億円に辿り着く道が見えちゃった。どうゆう戦略・戦術だと思う?」って。
あっさり答えに行きついた、80歳のおじいちゃん。
坂田さん:1週間くらい待ったんですけど、なかなか答えにたどり着かなくって。
坂東:スタッフからしたら面倒くさいですよね(笑)そんなクイズ出されると。
坂田さん:絶対面倒くさい(笑)
坂東:「あれ?まず2000万じゃなかったっけ?」みたいな。
坂田:昔だったら、すぐに答えを教えて、指示を出して「はい、やって!」って言ってたと思う。でも、一緒に考えることに意味があるなと、ぐっと我慢しました。結論を言うと、ここのキャパだと普通にやると2000万円が限界なんですよ。でも実は今ランチやってないんですよね。
坂東:あっ!そういえばやってない!
坂田さん:夜と同じ売上を昼につくれるといいな、と。以前サラリーマン向けに、1000円のランチをやっていた時期もあったんですが、それだとそこそこの売上にしかならなかったのですぐにやめた。違うやり方で、夜と同じ単価で回転数を2倍にできないかと考えたんです。そこで出てきたのが、観光客というターゲット。観光目的ならディナーと同じ注文をしても違和感はない。イメージで言うと台北の『鼎台豊(ディンタイフォン)』本店みたいな。まあ、そうすると増床も必要ですけど(笑)
坂東: 確かに、あの店なら月商1億くらい行ってそうです。
坂田さん:半端なくでかいですからね。このタイミングで、メディア露出とかインバウンドとか、今まで封印してたたものも解禁しよう、とか。そんなことをウォーキングしながら考えた。それで、みんなにも考えてもらうために核となるメンバーにはクイズを出して、その後におじいちゃんも学生もみんなで集まって社内勉強会をやって。
坂東:そこでは、どんな話をしたんですか?
坂田さん:フレームワークを大雑把に共有して、どうすれば月商1億を実現できるか一緒に考えよう、と。そうしたら意外にも80歳のおじいちゃんスタッフ2人が、パパパッと意見を出してきて。「今は客単価3000円だろ?2000万円行くには客数これぐらい必要。1億行くにはこのくらいかな?」みたいな。「ってことは、『昼も営業伸ばしなさい』ってことだ」「いいね~、やろうやろう」と。
坂東:はっはっは!(笑)
坂田さん:元経営陣よりあっさり出ちゃった(笑)ちゃんと行きついたんだよね。僕と同じ答えに。で、その間中ずっと、「これが無理だ」とか「できない」っていうマイナスな言葉は誰からも出ないわけですよ。「面白そう」とか「いいね~」っていう空気にちゃんとなっていた。
坂東:そういう素地ができていたってことでしょうか。
坂田さん:そうですね。「じゃあ、お昼の時間にくる人って誰?」みたいな話から「サラリーマンでランチに3000円は厳しいよね。でもここは外国人多いから観光客なら来るよ」って、またおじいちゃんが意見出して。自然と外国人観光客に目を向けた。しかも、そのミーティングの場に僕はいなくて、弟がファシリテーションしています。
坂東:なるほどなるほど。おもしろいですね。
坂田さん:目的と戦略のところはまだほとんど僕が考えているので、100%メンバー主体とは言えない。けど、これから3年くらいかけて育成していく予定です。みんなにも経営を学んでもらいながら、将来的には目的も戦略もコンセプトもメンバー発信でガンガン進化させていってほしいですね。
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