価値観の合う仲間と遊ぶように働く。
インタビュー前編では、仲山さん独自のチーム作りの考え方について伺いました。
一方で、いかに価値観の合う仲間でも、長く一緒にいれば、目指すビジョンがズレてきてしまうこともあるのではないでしょうか。
そんなときは、どうやって意思統一を図っていくのか?意外な答えが返ってきました。
ゲストプロフィール 仲山 進也
仲山考材株式会社 代表取締役社長
楽天株式会社 楽天大学学長
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。シャープ株式会社を経て、創業期(社員約20 名)の楽天株式会社に入社。2000年に楽天市場出店者の学び合いの場「楽天大学」を設立、人にフォーカスした本質的・普遍的な商売のフレームワークを伝えつつ、出店者コミュニティの醸成を手がける。 2004 年には「ヴィッセル神戸」公式ネットショップを立ち上げ、ファンとの交流を促進するスタイルでグッズ売上げを倍増。 2007年に楽天で唯一のフェロー風正社員(兼業自由・勤怠自由の正社員)となり、2008年には自らの会社である仲山考材株式会社を設立。 2016〜2017年にかけて「横浜F・マリノス」とプロ契約、コーチ向け・ジュニアユース向けの育成プログラムを実施。 20年にわたって数万社の中小・ベンチャー企業を見続け支援しながら、消耗戦に陥らない経営、共創マーケティング、指示命令のない自律自走型の組織文化・チームづくり、長続きするコミュニティづくり、人が育ちやすい環境のつくり方、夢中で仕事を遊ぶような働き方を研究している。 「子どもが憧れる、夢中で仕事する大人」を増やすことがミッション。「仕事を遊ぼう」がモットー。
著書
『組織にいながら、自由に働く。』(日本能率協会マネジメントセンター )
『「ビジネス頭」の磨き方』(サンマーク出版)
『今いるメンバーで「大金星」を挙げるチームの法則「ジャイアントキリング」の流儀』(講談社)
『あのお店はなぜ消耗戦を抜け出せたのか ネット時代の老舗に学ぶ「戦わないマーケティング」』(宣伝会議)
『あの会社はなぜ「違い」を生み出し続けられるのか』(宣伝会議)
『サッカーとビジネスのプロが明かす育成の本質 才能が開花する環境のつくり方 』(徳間書店)
『まんがでわかる ECビジネス』 (小学館)
『楽天市場公式 ネットショップの教科書』(インプレスR&D)
プロジェクトが終わったら、毎回ちゃんと解散する。
坂東:これまで一緒に遊んできた仲間が、ほかのことをやりたくなったと言ってきたらどうするんですか?そういう人は出て行ってほしいと言うわけにもいかないと思うんですが。
仲山:「金魚と鮭」と言っているんですけど。
坂東:なんですかそれ?
仲山:ベンチャー企業でよくある状況なんですけど、起業家は鮭なんです。淡水の場所で創業して、一緒に遊ぶ人を探していたら金魚がきた。それでチームを作って活動していたんだけど、そのうち鮭が「海に行こう!」と言い出すわけです。でも、河口付近までくると金魚が「なんか苦しい。つらい」と言い始める。「がんばろうよ。これまでも困難を乗り越えてきたじゃないか」って言うんだけど、無理なものは無理なので金魚に限界がくる。
坂東:金魚は海水では生きられないですもんね。
仲山:そういうときは、「今までありがとう」と言って握手して別れることになります。どちら側が良くてどちら側が悪いとかじゃないから、起業家のほうは「自分を否定された」みたいにとらえる必要はないんです。ステージが変わったことによって、どうしても譲れない価値観や生きやすい環境が合わなくなっただけだから。その際は、一つのプロジェクトが終わったととらえて、ちゃんと解散することが大事です。
坂東:確かに、ちゃんと別れるって、組織運営においてはすごく大事ですよね。
仲山:僕は最近、『解散式』というのをお勧めしています。例えばあるプロジェクトをやるのに人を集めて、みんなでワイワイ楽しんで売上も利益も上がった。で、プロジェクトが終わるときに解散式をやるんです。ふりかえりをして、最後に一人ずつ感想を話して、「今までありがとう。解散!」と。また次のプロジェクトで人を募ったらほぼ同じメンバーが集まったりするんですけど(笑)、それはそれでよくて。でも、そこで解散式をすることに意味があるんです。
坂東:ちゃんと仕切り直すわけですね。なんとなく継続するのではなく。
仲山:会社の営業部とかも「月ごとのプロジェクト」と考えると、「2020年4月の売上◯円を作るプロジェクト、やりたい人いる?」と募って、月末に「達成!解散!」とやる。翌月募ったらたまたま同じメンバーでした、という風に考えることもできます。新しいチームだと思えれば、またみんなで「さてどうしましょうか」と今までのやり方にとらわれずに話し合うところから始められますし、もしメンバーの入れ替わりがあれば対応もしやすいです。
坂東:誰かがやめなくても定期的に解散式をやるのは良いですね。
仲山:武井(浩三)さんも、会社の出口のデザインが大切という話を先日していましたけど、みなさん、入口の採用するところばかり一生懸命やるけど、出口は重要視していない。
坂東:経営者にとっても辞めてもらう権利は行使しづらいので、悩んでいる人は多いですね。お互いに合わなくなったと感じていても、本人が辞めたくないと言ったら辞めさせられない。もっとお互いに自由になれたらいいんでしょうけど。
仲山:そういうときに、みんなが普段から本音ベースでザッソウ(ソニックガーデン倉貫社長が推奨する、心理的安全性を高めるための「雑談と相談」)できる関係を作っておけば、「最近つまんなくなってきたなあ」と誰もが気軽に口に出せると、すり合わせの余地が生まれやすいです。
坂東:「じゃあ何かちがうことする?」とか。
仲山:「もっと難しいことやる?」みたいな。そういう違和感を共有しやすい関係性を作っておくという意味で、ザッソウは最高です。
坂東:今、会社の中で雑談する機会がどんどん失われていると思っているんですよね。残業も減らさなきゃいけないし。ということは勤務時間内に集中しなきゃいけない。テレワーク等も増えてくると、オンライン上では雑談がますます難しくなる。
仲山:だから倉貫さんは工夫して『Remotty』というツールを作ったんだと思います。今まさにテレワークが大流行してますけど、長く続けるとみんな同じところでつまずく。オンライン上でもザッソウできるツールというのはとても有効だと思います。
人に喜ばれることを面白いと思えれば、仕事は遊びになる。
仲山:ちょっと話が変わりますが、ティール組織に向かう5つの段階ってあるじゃないですか?レッドからアンバー、オレンジ、グリーン、ティールへと上がっていくと表現されていますが、僕はあれ、逆じゃないかなと思っていて。
坂東:逆?
仲山:人はもともと生まれたときはティールなんじゃないかと思うんです。成長していく過程で色んな経験をしたり教育を受けることで、それが重りになるとステージが下がるイメージです。「上の人の言うことはちゃんと聞くもんだよ」と言われて、「そうか、上の人と下の人ってのがあるんだな」と思い込むと重りが1つ増える。
坂東:赤ちゃんにヒエラルキーの概念なんてありませんもんね。
仲山:そうです。重りが外れる体験をするとだんだん元に戻っていくような感覚があって。僕が関わっている色んなプロジェクトはまさに重りを外していく遊びなんです。
坂東:仲山さんは、仕事を遊び感覚で楽しんでいるわけですよね。一般的には「利益を上げなければいけない」とか「苦しいことをガマンしながらやるのが仕事」といった重りのせいで、仕事を遊ぶようには楽しめない。その重りを外すのはすごくハードルが高そうですが。
仲山:『自己中心的利他』という表現を使うんですが、「自分がやりたくて得意なこと」をやっていると人が喜んでくれるので、それを面白がってさらにやり続ける状態です。自分がやりたくてやっていることに対して、周りが「いいね!」「ありがとう」と言ってくれる。「その活動はやめられると困るから」とお金ももらえるので、お金の心配をすることなく遊び続けられるようになる。そうなると良いのかなって。でもみんなは「遊ぶ=好き勝手に娯楽に興じる」みたいに思っているから、あまり話が合わないです。
坂東:そもそもの考え方というか価値観がまったく違いますから。
仲山:僕が、自分のやっていることを遊びだと表現すると「はあ?」って思われますけど、僕にとってはお金をもらえる活動ももらえない活動もどちらも仕事で、どちらも遊ぶようにやることが大事だと思っています。
坂東:僕、仲山さんが言う『重りを外す』ことを、『マインドセット』とか『OSを変える』っていう言い方をしているんですけど、いざやろうとすると本当に大変。
仲山:みんな重りを良いもの、重要なものだと思ってますから。それを外すと損しちゃうと思っている。だから、ティールみたいな取り組みをしている人は周りからどんどん浮くんですけど、でもそこで何が起こるかというと、ふと周りを見渡したときに同じように水面にプカプカ浮いている人が見つかるんです。「こんにちは」って話しかけてみたら、「お、気が合いますねえ」とすぐ盛り上がれる。
坂東:じゃあ、周りからはどんどん浮いた方がいい?
仲山:しがらみにとらわれて、ずっと同じところに沈んでいると流れに乗れません。浮いてみると、同じように浮いている「ティール個人」に出会えるし、流れに乗れて思ってもいなかった面白い場所へたどり着きやすい。でも多くの人は、「あなた浮いてるよね」と言われるのを怖がっています。もし「浮いてるよね」と言われたら「あなたは沈んでますもんね」って返せるくらいになれるといいですね(笑)
出世レースを降りたから、理念をいつまでも大事にできる。
坂東:仲山さんをサッカーの選手に例えるとどういうポジションなんですかね?
仲山:昔「リベロ」というポジションがありましたけど、そんな感じでしょうか。基本はキーパーの前にいて、全体を俯瞰しながらチャンスがあれば自由に別の場所に移動していく。
坂東:仲山さんみたいに、その時々に応じて最適なポジションを自分で考えて自由に移動していける人が社内に一人でも二人でもいたら、すごく面白いですね。
仲山:自由といっても好き勝手というわけではなくて、自分なりにバランスを取っているつもりですけどね。例えば会社がシーソーだとすると、トレンドの「南側」ポジションに100人くらい社員が集まっていたら、僕は北側で100倍くらい遠いところにいてバランスを取ろうとする感じです。
坂東:仲山さんが楽天の仕事しかしていなかったら、楽天の社員として評価されなきゃいけないから、そんな思い切ったことできないですよね。
仲山:そうですね。バランサーとしての感覚が濁ると思います。
坂東:他にも兼業を色々やってるからこそ、バランサーとしての役割を果たせるんですね。バランスって具体的に言うと何のバランスなんでしょう?
仲山:事業ってS字で成長します。導入期、成長期、成熟期というS字です。スタート時点で事業の理念があって、理念に沿った仕事を丁寧にやっても、なかなか急速には売り上げが伸びません。それが成長期に入ると、急に伸び始めて業務量が増えるので、丁寧にやるより多少雑でもたくさん数をこなした方が評価されやすくなってきます。導入期に蒔いた種をダーッと刈り取っていく人みたいな。すると、導入期に頑張っていた人がモヤモヤしてくるんです。
坂東:うんモヤモヤする。
仲山:理念実現のために、あんなに丁寧にやってたんだけどなって。成長期って、そんな風に理念の度合いが薄まっていきやすいんです。僕が「北限の柵係」として取っているバランスっていうのは、そういう理念のバランスなのかなって。
坂東:それこそ会社の理念を経営者レベルで理解してないとできないですもんね。具体的にはどんな感じだったんでしょう?
仲山:僕が入社したころの楽天は「インターネットで日本の中小企業を元気に!(エンパワーメント)」と謳っていたんです。実際に仕事をする中で、ネットショップが軌道に乗って「仕事が楽しくなった!」と元気になっていく中小企業の姿をたくさん見てきました。だからこそ、エンパワーメントという理念が本当に意味のあるものだと、楽天スタッフだけではなく出店者さんも含めて感じていたんです。でも成長期に入って、新しい人が増え、「売上を大きくした人がすごい」という雰囲気になってくると、前からいる人はモヤモヤしてくるんですよね。
坂東:新しい人が増えて、初期の人の割合が少なくなっちゃうと、理念が薄れていってしまう。
仲山:そういうことです。
坂東:会社として何を残して何を変えるのか、そのさじ加減が大事ですよね。今会社のメインストリームではないけど、大切にしたいものを残そうとしたときに、社内のリソースだけでなんとかしようとすると難しい。
仲山:会社のステージや事情によって、社内リソースを使えないこともあると思うので。じゃあ、自由に使えるリソースとして、大切にしたいものを残すための存在って、けっこう意味があるのではないかと。
坂東:なるほどなあ。仲山さんと楽天の関係みたいに、社内外の垣根が緩くなった方が、組織が大事にしていることのシーソーのバランスは取りやすくなるのかもしれませんね。
ヒエラルキー型組織で働く会社員が、自分をアップデートしたいと思うなら。
坂東:最後になりますが、会社員の働き方も今後ますます多様化していく中、個人でティール組織のような働き方をしている仲山さんから、今ヒエラルキーにどっぷりつかっている会社員の方にアドバイスできることがあれば。
仲山:僕がやっているチームビルディングプログラムでは、ティール組織のような状況で仕事をしたらどうなるかを、ゲームのようなアクティビティを通じて体感してもらっています。重りを外したメンバーが集まってワチャワチャやったらこんなにうまくいくのか、と。その体験をすることで「会社の仕事もこんな風にできたらいいのに」とアンテナが立つようになる。結局、そういう成功体験をしてもらうしかないと思います。具体的なイメージが持てないものは実現しにくいので。
坂東:会社に戻ってからの働き方も変わりそうですよね。
仲山:今までヒエラルキーでやってきている仕事を無理やりティールっぽいやり方に持っていくんじゃなくて、ティールっぽく進めやすいお題を社内で見つけてきて、それをいつもと違う顔ぶれのメンバーで集まってやった方がやりやすいのかな、と思いますね。
坂東:確かに!ゼロからプロジェクトを立ち上げる方が、親和性は高いですよね。
仲山:「指示命令に従うだけじゃない仕事の進め方もあるんだ」とそこで気づいてもらって、そんな選択肢があることを社内のみんながわかっている状態になったらいいですよね。
坂東:「この仕事はどっちの進め方でやる?」って言う議論が普通に生まれたりとか。
仲山:日々のオペレーションとか、いわゆる正解の見えている仕事はヒエラルキーでやった方が効率はいいです。「仕事の進め方をみんなで話し合って決めようよ」なんて言ってる暇ないですから。
坂東:ただ、選択肢としてヒエラルキーのやり方とティールのやり方、両方の引き出しを持っておいて選べるようになると、会社員の働き方が大きく変わるということですよね。
仲山:そういうことです。
坂東:仕事の進め方や、チームづくりの仕方は、ぜひ選択肢を増やして、試していって欲しいですよね。それが、個々人のアップデートにもつながっていくわけなので。
面白かったです。ありがとうございました!