シャープを経て、1999年に社員数20名程度の草創期の楽天へ入社。出店者の学び合いの場、楽天大学を設立するなど、楽天の急成長を支えた仲山進也さん。
2007年からは、会社に所属しつつも勤怠フリー・兼業フリーという『フェロー風正社員』に。
自身の会社である仲山考材を設立し、楽天の内外で個と組織の成長を支援している。
そんな仲山さんが『ティール度診断』(※)を受けたところ、なんと歴代最高得点をマーク!
圧倒的にティール度の高い仲山さんのマインドはどのようにして生まれたのか。その秘密に迫ります。
※“自社の組織が最新の状態かどうか”を分析できるサーベイツール。ブレスカンパニーが開発した。
「ティール(組織)」とは、従来のヒエラルキー型(階層型)組織とは一線を画す新しい組織モデルのこと。「目的に向かって、組織の全メンバーがそれぞれ自己決定を行う自律的組織」のことを指し、上司が部下の管理を行わないなどの特徴がある。
ゲストプロフィール 仲山 進也
仲山考材株式会社 代表取締役社長
楽天株式会社 楽天大学学長
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。シャープ株式会社を経て、創業期(社員約20 名)の楽天株式会社に入社。2000年に楽天市場出店者の学び合いの場「楽天大学」を設立、人にフォーカスした本質的・普遍的な商売のフレームワークを伝えつつ、出店者コミュニティの醸成を手がける。 2004 年には「ヴィッセル神戸」公式ネットショップを立ち上げ、ファンとの交流を促進するスタイルでグッズ売上げを倍増。 2007年に楽天で唯一のフェロー風正社員(兼業自由・勤怠自由の正社員)となり、2008年には自らの会社である仲山考材株式会社を設立。 2016〜2017年にかけて「横浜F・マリノス」とプロ契約、コーチ向け・ジュニアユース向けの育成プログラムを実施。 20年にわたって数万社の中小・ベンチャー企業を見続け支援しながら、消耗戦に陥らない経営、共創マーケティング、指示命令のない自律自走型の組織文化・チームづくり、長続きするコミュニティづくり、人が育ちやすい環境のつくり方、夢中で仕事を遊ぶような働き方を研究している。 「子どもが憧れる、夢中で仕事する大人」を増やすことがミッション。「仕事を遊ぼう」がモットー。
著書
『組織にいながら、自由に働く。』(日本能率協会マネジメントセンター )
『「ビジネス頭」の磨き方』(サンマーク出版)
『今いるメンバーで「大金星」を挙げるチームの法則「ジャイアントキリング」の流儀』(講談社)
『あのお店はなぜ消耗戦を抜け出せたのか ネット時代の老舗に学ぶ「戦わないマーケティング」』(宣伝会議)
『あの会社はなぜ「違い」を生み出し続けられるのか』(宣伝会議)
『サッカーとビジネスのプロが明かす育成の本質 才能が開花する環境のつくり方 』(徳間書店)
『まんがでわかる ECビジネス』 (小学館)
『楽天市場公式 ネットショップの教科書』(インプレスR&D)
「経営者の立場を経験したい」そう伝えたら、新しい正社員の道が開かれた。
坂東:仲山さんは今も楽天の正社員なんですよね?
仲山さん(以下敬称略):2007年から兼業自由で勤怠自由の正社員というカタチです。
坂東:どうしてそんな特殊な雇用形態に?
仲山:2000年に楽天大学を設立して、出店者コミュニティを作りながら、「どうしたらより良い商売ができるか」「良い会社を作れるか」ということを一緒に考える係をしてきたんですが、あるとき、周りはみんな経営者なのに自分だけサラリーマンであることに違和感が強くなってきて。
坂東:同じ立場に立たないと見えないこともありますもんね。
仲山:そうです。だから「自分で会社を作って経営者の立場を経験したい」と会社に伝えたら、「兼業自由・勤怠自由の正社員でどう?」と言ってもらえて、今に至ります。
坂東:自由すぎるサラリーマンの誕生ですね。
「何をする」のでもなく「ただそこにいる」という価値。
坂東:そうまでして、会社が仲山さんに正社員として働き続けてほしかった理由は何なんでしょうね?
仲山:どうなんでしょう、わかりません。具体的なミッションを与えられてはいないので、特に何かを期待されてもいない気がします(笑)。僕は自分のことを「遊園地の北限の柵(さく)係」かなと思っているんですけど。
坂東:なんか新しい言葉が出てきました(笑)
仲山:楽天市場が遊園地だとしたら、そのときどきで流行りのアトラクションって変わりますよね?多くの人はたいてい最新のアトラクションに行列する。でも、僕は昔からあるアトラクションのあたりにずっといるんです。それは今のトレンドではないけれど、遊園地にとってなくせない大事なアトラクションなんですよね。
坂東:どういうことですか?
仲山:楽天市場って、全国各地の中小企業がネットに活路を見出そうと集まっていたんですね。でも、最初はネットショッピングなんてマイナーなので、ただ商品をアップしても売れません。だから、まずはお客さんとのコミュニケーション量を増やすためのイベントをやったりメルマガや掲示板でおしゃべりをして、関係性をつくることが大切でした。そのうち、商品が売れるようになって、お客さんから「ありがとう」のメッセージが届いて、店長さんのやる気に火が着いて・・・というのが初期の楽天市場でした。それが成長期に入るとどんどん売れるようになっていきました。「ネットでものが売れる」とわかった途端、大きな企業も楽天に出店するようになりました。
坂東:それはそうなりますよね。
仲山:出店者さん側も楽天側も、売り上げをいかに伸ばすかが大事だから、プロモーションのための広告やセールのウエイトが高まっていきました。遊園地の敷地の南側に新しいアトラクションができて、みんながわーっと向かうイメージ。僕がやっていることと対極の価値観が生まれたんです。僕はゼロを1とか10にすることをやっているけど、向こう側は100を1000とか1万にするみたいな違いです。会社としては当然向こう側に人を集めます。僕はそのまま敷地の北側にいて、「あんまり人が来ないなあ」なんて思いながら、店長さん仲間と「ネットショップでお客さんといかに遊ぶか?」みたいなことを続けていました。
坂東:なるほど。北側にいる仲山さんが少数派になって、トレンドに乗った南側の人たちが多数派という状態になっていったわけですね。
仲山:そうです。ただしばらくすると、売り上げ追求のトレンドを追っている人たちが消耗戦に陥って疲れ始めるんです。時計でいうなら、僕がいる北側が12時のところで、みんなは6時に向かって売り上げを追っていくイメージで、それが6時を過ぎると消耗戦が激しくなってきます。10時を過ぎる頃にはだいぶ疲弊している。「他のやり方はないものか」と考え始めたときに、「なんか12時のほうで楽しそうに遊んでるやつらがいる」と気づく。「何をやってるの?」と聞かれて、「お客さんとチームになれる商売のやり方を見つけたんですよ。最近は共創マーケティングとかコミュニティマーケティングって呼ばれるようになってきています」みたいな話をすると、「なにそれ教えて」となって、店舗運営のスタイルがらせん階段を昇る感じで一つ上のステージに上がる。その繰り返しなんです。
坂東:そういう意味で、『北限の柵』ということなんですね。
仲山:僕は北の一番はずれのポジションにずっと突っ立っていて、「ここまでは楽天遊園地の敷地内ですよ」というのを示す役割です。
坂東:普通、ビジネスが軌道に乗ってきてスケールし始めると、トレンドから外れたアトラクションは取り壊されそうなものですけど。
仲山:三木谷さんは、そういうのが直感的にわかるというか、たまに思い出したように言うんです。「あっち側も大事だよ」って。
坂東:なるほど!
仲山:それに北限の柵がなくなると、北側エリアが好きで出店してる人が、「楽天にはもう自分の居場所がなくなった」って思うじゃないですか。でも僕が相変わらずぼんやり突っ立っていると、まだ自分たちがいてもいいんだなって思えます。月商何億円とか目指さなくても別にいていいのね、と。そういう意味で、働き方には「DOの価値」だけじゃなくて「BEの価値」というものがあってもいいかなと思っているんです。
坂東:柵は何もDOしないですもんね(笑)。組織がアップデートしても、そういう人を許容できるだけの余力を持つことが大事なのかな。
仲山:アップデートって、昔やってたものを捨てることとは限らなくて。たとえ今のトレンドからは外れていても、捨てちゃダメなものもある。だけど経営者は、会社全体の成長に責任を持たなきゃいけないから、トレンドの真ん中に軸足を置かなくてはいけない。それなら、トレンドを追う責任までは負わされていない僕が「柵の役割やっておきます」という感じでしょうか。
退屈耐性が低すぎるから、常に新しい遊びを探しています。
坂東:今も楽天市場のショップオーナーとの交流は続いているんですか?
仲山:そうですね。僕は、自分がやりたくてやっている仕事は全部『遊び』だと思っていて、これまでもずっと店長さんたちと「お店の理念をつくる遊びを考えたんですけど、一緒にやりませんか?」みたいに働いてきました。正解がない中で試行錯誤するのって、遊びだと思ったほうがうまくいくんです。
坂東:一緒にネットショップを作ってきたわけですね。楽天大学の学長なのに「教える」っていう感じではない?
仲山:入社した1999年当時は、そもそもこっちが「Eコマースについて教えてあげます」という立場に立とうとしても、出店者さんのほうが圧倒的に商売経験があるわけです。そういうところからスタートしているので、「出店者さんのリアル商売の経験をネットに置き換える方法を一緒に考える」というスタンスのほうがうまくいくんです。
坂東:「会社の垣根を超えたチーム」という感じですか?
仲山:そうです。出店者さんたちとはそういうフラットなチームを作れていました。最初は、「どうやったらネットで売れるか」がテーマのチームなんですが、それが「どうすればいい会社がつくれるか」とか「どうやったら自分の地域を盛り上げられるか」というふうに広がっていきました。岐阜県庁さんと「ぎふネットショップハイスクール」というプロジェクトを立ち上げて、地元の出店者さんと僕とで岐阜の高校に行って、商品を企画してネットで売る実践プログラムを1年間授業でやったりしました。出店者さんは本来、楽天の「お客様」ですが、もはやそういう関係を超えています。社外の人と新しいプロジェクトをゼロから作るときには、そんな感じのチームができるとうまくいきます。
坂東:会社組織のような上下の関係じゃなくフラットな関係で。
仲山:そのときは岐阜県庁の担当職員さんもベンチャー体質で、かつフラットな方でした。
坂東:そういう、プロジェクトベースの働き方だということですね。
仲山:そうです。ただ、プロジェクトが軌道に乗ってくると、引き継いでいきます。
坂東:え!なんで引き継いじゃうんですか?
仲山:退屈耐性が低いんです。
坂東:退屈耐性? また新しい表現が出てきましたね。
仲山:退屈に耐えられないんです。同じことを繰り返すだけというのはつまらなくて。僕は、「なんだかよくわからないけど面白そう!」と集まってきた人たちとカオスな状態で遊ぶのが楽しいんです。楽天の草創期はそんな感じでした。ネットでモノを売る方法を誰も知らない中で、みんなでワチャワチャやったのが僕の仕事の原点。そういう働き方があるって知ってしまったので、ずっと続けている感じです。
坂東:今後も楽天ショップの方々との遊びを続けていくんですか?
仲山:最近は、楽天とは関係ない人にまで遊び仲間が広がってきました。チームビルディング講座を2年ほど前から誰でも参加できるかたちでやり始めたら、異業界の人がワーッと来てくれました。後は、ネットショップつながりの経営者も、退屈耐性の低いタイプが多いので新しい遊びを始めています。ネットで培ったノウハウを活かしたリアル店舗を立ち上げたり、保育園を始めたり、プロバスケットボールクラブのオーナーになったり(笑)。もうネットショップというカテゴリーでは括れないです。
ハンドが許されているうちは、サッカーはうまくなりません。
坂東:仲山さんが遊びの軸足に置いているのは、チームビルディングなんですか?
仲山:この10年くらいはそうです。ただ最近、チームビルディングという言葉にもだんだん違和感を覚えてきて。ビルドって建物に使う言葉じゃないですか。僕がイメージする組織とかチームって生き物みたいなものなので、その単語は合わないんですよね。坂東さんも『組織文化醸成』という表現を使っていますよね。僕もまさに同じ「組織文化醸成」という言葉を使うようにしています。
坂東:その感覚、すごくわかります。
仲山:僕は「よなよなエール」というクラフトビールをつくっているヤッホーブルーイングという会社にエア社員というかたちで関わっていて、社内ファシリテーターを増やすプロジェクトをやっているんですけど。
坂東:エア社員、いいですよね~。
仲山:このあいだ、ビールを作っているブルワーの人が「ファシリテーション、難しいですね」と言うので、「ビールの発酵と同じですよ」という話をしたんです。「微生物は言うこと聞かないから、それぞれの個性に合った環境を整えることしかできないですよね?」と。そうしたら、「なるほど!わかりやすい!」ってめちゃめちゃ腹落ちしてくれていました。
坂東:そうそう!組織も同じですよね。
仲山:人は言葉が通じちゃうから、言葉で相手を動かそうとしてしまいます。去年、ソニックガーデンの倉貫さん(倉貫さんのインタビュー記事はこちら)が話していてすごく印象に残っていることがあるんですが、「うちは本当にフラットなので、社長の僕もメンバーに指示はできないんです」と。「これやって」とは言えなくて、「こういうことやってほしいんだけど、どうかな?」と相談しかできないのだと。
坂東:指示というより、許可をもらいに行く感じですね。
仲山:それを聞いて、すごくしっくりきたんです。ティール組織のような「指示命令のない組織づくり」って、要はスポーツでいえばサッカーみたいなもので、思い通りに動かせる「手」を使わずにやろうとしているわけです。でも、サッカーをやろうとしてるのに社長だけ「ハンド」が特権的に許されていたら、足を使う練習はしないですよね。指示命令というハンドを使える選択肢を社長が持っているうちは、その会社は絶対にティールにはなれないだろうなって、倉貫さんの話を聞いて腹落ちしたんです。
坂東:なるほど、指示命令はハンドなんですね。
仲山:「いざというときには指示命令すればいいや」と思っていたら、相談ベースで社員とすり合わせながらやることを決めていくなんて面倒くさい作法は練習しないですよね。だから、組織をティール化するために、少しずつ制度を変えていくみたいなことってうまくいかないと思うんです。
坂東:少しずつの制度変更ではうまくいかない、ってどういうことですか?
仲山:ティール診断の項目で「どれかが当てはまって、どれかが当てはまらない」という状態は、まだティールと呼べないじゃないですか。1個でも当てはまらないものがあるうちはティールではないというか。
坂東:なるほど、厳しい!さすがティール度診断、史上最高得点(笑)
仲山:僕は、プロジェクトベースで誰かと組んで仕事をする働き方をしていて、診断は所属している会社ではなくプロジェクトのパートナーをイメージして答えたので、ティール的なチーム作りができているという結果が出たと思うんですけど。
坂東:仲山さんはティール組織というか、『ティール個人』って感じですもんね。
仲山:ティール個人同士でアライアンスを組むと、自然とティール組織になるんです(笑)
坂東:ティール個人が集まった組織って、お金の面はどんな風にチーム運営されているんですか?
仲山:コラボしてイベントなどをやるときは、「売上から経費を引いて、残ったお金は等分」みたいな感じが多いです。
坂東:完全にオープンにしてるんですね。
仲山:「それでいいよ~」という人と一緒にやっています。
坂東:なるほどなあ。倉貫さんの会社(ソニックガーデン)も賞与は山分けらしいですしね。
仲山:僕がつくったフォーミング体質度チェック(※下記図)というティール診断みたいなものがあって、10項目のうち1つでも当てはまったらティール的な組織ではありませんね、という診断なんですが、倉貫さんに試してもらったら、見事に一個も当てはまらなかったです。
坂東:さすがですね。やっぱりティール化がうまくいかない経営者は、ハンドが使えると思っちゃってるんですかね。
仲山:というか、指示することをハンドだとさえ思ってないかもしれない。
坂東:僕も最近社員にすごく指示を出しづらいんですよね。
仲山:指示をして社員が思い通りに動く状態を「気持ち悪い」と感じ始めたら、ティール化が完了したということじゃないですか。
坂東:確かに。今は、どんな権利があって、自分が命令なんかできるんだろう?って思いますから。
編集後記
独自のチームビルディングを、遊びのサッカーに例えてお話しくださった仲山さん。
後編のテーマは、
「仲間とビジョンが食い違ったときにはどうするか?」
「仕事を遊びと言えるくらい楽しむ秘訣は?」
さらには、ヒエラルキー型の組織で、新しい働き方を模索している会社員の方へのアドバイスなど、盛りだくさんな内容です。
お楽しみに!後編につづく・・・