2019年6月にティール組織への移行を宣言し、驚くほど順調に組織改革が進んできたように見えたFREEPLUS 。しかし、今年2月末に驚きのニュースが飛び込んできました。なんと、代表の須田健太郎さんが辞任するというのです。いったい何があったのか? FREEPLUS は、須田さんは今後どうなるのか?
ティール組織化のプロセスを密着取材してきた我々が、須田さんに直撃インタビューしてきました!
ティール組織化したからこそ、自分とメンバーの方向性の違いが明らかになった。
坂東:須田さんの辞任、すごい反響だったでしょう? Facebookに「辞めます」という投稿があって、それから1時間くらいでコメント量が爆発してましたよね。ドッカーンみたいな(笑)
須田:ホントに、ドッカーンでした(笑)
坂東:ほとんどの人が知らなかったということですよね?
須田:そうです。
坂東:ということで、今日は代表辞任の経緯や今後のことなどをぶっちゃけてもらいたいと思います!
須田:まじか!!分かりました!!
坂東:まず、なぜ辞めることに? いつ頃から考えてたんですか?
須田:辞めると決めたのは2019年の10月ですけど、それ以前から考えていたというわけではないんです。1日で決めたんで。
坂東:1日でっ! 何か事件があったんですか?
須田:たまたまその日に、会社の多くのメンバーが考えている方向性と、僕のやりたいことが全然違っているということが分かったんです。それで、「あぁ、僕はここで自分の人生を費やすべきではない」と感じたんですよね。
坂東:方向性の違いが、急にその日に分かったということ?
須田:そうです。ティール組織になったから明確になったんですよね。
それ以前もかなりフラットな組織を体現していたとは思うのですが、それでも、みんな意見を言ったとしても本当の自分の意見は見えにくい状態だったんだと気づきましたし、見えない中でも自分が意思決定をすれば、会社の方向性を決めることができました。
ティール組織になると会社の全員が意思決定権限と責任を持っているから、みんな本心で意見を言えるようになったと実感しました。そうなったときに、「大多数の人がこう思っている」「みんなの意見の総和はこう」という方向性が僕の思っていたものと違うことが明らかになったんです。
別に多数決で経営方針を決めるのがティール組織ではないのですけど、みんなの総和と僕の考えが違うということがティール組織を導入することで見えました。
バランスを取るのが経営者なら、それは僕にはできない。
坂東:その、須田さんが感じた「違い」って、どんなものだったんでしょう?
須田:僕は20歳の頃に「世界レベルの偉業を成し遂げて死ぬ」という夢を抱き、手段として会社を作ってそれを世界企業として遺すということを決めて、FREEPLUSを 設立しました。
僕はサービスを提供してお客様に喜んでもらうことがすごく好きなので、そういうことで世界にインパクトを与えられる「世界レベルの会社」にしようと努力してきました。そして、その会社が僕が死んだ後も続いていくようにしたかったんです。
もしそれが実現できれば、人類社会に対して僕が生きていた意味があるんじゃないかと。
坂東:それと、FREEPLUS の皆さんがやりたいことが違った?
須田:目指す方向としてはそんなに違いはないですが、僕が考えていたようなレベルでは「できない」と分かったんですよね。
この2年くらい、僕がやろうとしていることって、この人間世界では難しいだろうな……と薄々感じてはいたんです。
ただそれを変えられると思って起業しました。
お金を儲けようというような目的で起業したわけではないこともあって、退職する頃には貯金は400万円程度しかありませんでした。
僕にとっての報酬は、自分が思い描く最高の組織が作り上がっていくことでした。
約12年、それくらい人生を注いで、丁寧に育ててきたFREEPLUSであっても難しいんだと分かり、「この夢を追い求めるのはやめよう」と決めました。
坂東:人間世界ではできない……。壮大ですね。具体的には、人間のどんなところがダメなんでしょう?
須田:僕が退職を決めたことの本質的なこととは、少し話がずれるのですが、
例えば、人って「健康になりたい」とか「痩せたい」とかしょっちゅう言うじゃないですか。
でも「痩せる」方法って、科学的に明らかなんですよ。筋肉を増やして基礎代謝を上げて食事を変えて有酸素運動をする。
それらの方程式はすでに明確だし、そのための本もプログラムもたくさんある。だけどやらない……これは一体なんなんだろう。
痩せたいと言うのであれば、実行すれば良い。逆に実行する気がないなら言わなくても良い。
坂東:やりたいならなんでやらないのか! と思っちゃうわけだ(笑)
須田:やればいい話でしょう? でも、多くの人はやりません。そういう人たちに対して 「痩せたいんだったらがんばろうぜ」とモチベートしたり、痩せられるようなフレームワークを作ったり、そういうことに労力を割くのはもうやめようと。僕の一度きりの人生なんだから、方程式を提供すれば自分でできる人たちに対して僕の才能と努力を提供した方がいいと思ったんです。
坂東:それは同感です。僕らはこの数年で社員研修の仕事を手放したんですけど、それは会社から言われて、費用も出してもらって受け身で研修に参加している人たちに、いかに学んでもらうのかを考えたり、寝ないように工夫したりするのって、すごく非効率だと感じたからなんですよねぇ。
須田:そうそう、それに近いです!
坂東:その点、FREEPLUSの人たちは相当自律度が高いと思いますけれど、須田さんの求めるレベルを満たすのは難しかったんですかね?
須田:FREEPLUSメンバー達の多くは素晴らしい方々だと思っています。ただ自律度が高いとか素晴らしいと言うのは、相対的なものです。
僕が達成したい世界というのは、相対的なものではなく絶対的なものだったのです。
今回の辞任に際して、ある先輩経営者に報告しに行ったんですよ。
そしたら、「須田くんは宗教家だね」と言われました。「経営者は、もっとバランス取らなきゃダメだし、人間の様々な部分も分かった上でやらないとダメだよ」と助言をいただきました。
確かにそうだなと納得できました。ということならば、「あーだったら僕には無理だ」と思ったんです。僕は、0か100の世界で生きていきたいのです。
坂東:世界企業を作るために、いろんなことに妥協して経営を続けていこう、ということにはならなかったんですか?
須田:そうやって作ったものは、僕が目指していた世界企業ではないんです。
坂東:なるほど。須田さんが言う世界企業というのは売上とか規模ではなくて、質の問題なんですね。世界に一つしかない最高の組織というか……。
須田:もちろん、FREEPLUSは良い会社ですよ。でも、僕はもっと最高を目指していました。だから、FREEPLUSが嫌いになって離れるわけじゃないんです。
FREEPLUSには創業者として生み出したDNAが残っていますし、創業者としてFREEPLUSがどうなっていくのかを見守り続けられることが楽しみです。
代表に依存しない体制だから、辞任による実務的な問題はない。
坂東:須田さんが「辞めよう」と決めてから、社内の人にはどう伝えていったんですか?
須田:翌日の朝には取締役に伝えて、その15分後には全社員にメール送りました。
坂東:速っ!
須田:情報の透明性を重要視してるので、重要な経営情報は即座にシェアするのがメンバーに対してフェアです。
坂東:取締役の方はどんな反応を?
須田:「えっ! 次何するんですか!?」とか、そんな感じでしたね。
坂東:引き留めるわけではなく、次のことを聞かれたんですね(笑)
須田:僕が意思決定をしたということは、そこに迷いはないんだと、ずっと一緒にやってきた彼らはよく分かってますからね。
メンバーの中には、「辞めないでほしい」という方もいました。
坂東:なるほどね〜。10月にそういう話をして、社内の体制づくりなんかは大変じゃなかったですか?
須田:いえ、そんなことないんです。
もともと自分に依存した組織というのは嫌だったので、僕がいなくても事業運営に問題がない体制にしていたんです。
だから、辞めると決めてからは必要な時以外は出社しておりませんでした。
坂東:後任の代表さんはどんな方なんですか?
須田:小西宏明というんですけど、2011年に新卒で入社する前年からインターンシップ で働いてました。僕はその時に、「彼は、僕より上にいく器だ」と思ったんですよ。
坂東:学生さんに対して「自分より上にいく!?」と?
須田:はい。当時、僕はまだ25歳とはいえ会社を作って3年目で、リーマンショックも乗り越えて、経営に関する経験値なども積んでいる状態でした。
でも、彼とはインターンシップのときから物事の本質的な部分に関しては対等に話ができたんですよ。
「こんな奴は今までにはいない」と思ったので、僕に何かあったときには彼に会社を任せようとずっと考えてました。
坂東:スゴイなぁ。そんな人なら安心して任せられますね!
会社の進化の過程において僕が離れるタイミングだったのかもしれない。
坂東:FREEPLUS を辞めて、須田さんは何をしているんですか?
須田:ティール組織の導入コンサルティングと、「すごい会議」の導入コンサルティングをやっています。
何社かクライアントがおりますが、例えば売上高1,000億円規模の企業にティール組織導入の依頼を受け、アドバイザリーとして関わっています。
導入準備期間を経て、4月から運用が始まるところです。
坂東:これまでの経験が生かされますね!
須田:僕の今の一番の楽しみは、自分が持って生まれ持った才能と今まで培ってきた会社経営に関する知見、そして努力を、必要としている人、主に企業のボードメンバーに提供して役に立つということです。
坂東:他の会社を経営しようとか、そういうことは考えていない?
須田:ないです。
以前は僕が死んでも残る世界企業を作りたいと思っていたんですけど、今は組織を率いることよりも、自分の脳味噌をどれだけ活用できるかということに興味があります。
最近改めて「生きてることってなんなんだろうな」と考えています。
「世界企業を作る」という夢が実現したとしても、いつか太陽系がなくなったら全ては無に戻ります。
この「全ては意味をなさなくなるということが怖い」ということに気付いて、20歳の頃に夢を持ったわけですが、また20歳の頃に逆戻ってそれを考えている。
意味をなさないなら、自分の死後のことを考えるのではなく、今できることに全てを費やすことの方がいいんじゃないか、と。
坂東:大きな転換ですね。
須田:僕は、努力すれば夢は叶うと思ってきました。それは多くの先人が言っていることでもあるし、特別でもない僕自身が20歳の頃に、夢を持ったことによって、ものすごくエネルギーが溢れてきて、たくさんのことを実現してきました。先人の言っていたことは正しいと自分でも立証できました。
だから、誰だって同じことができると確信していました。
ただ、2年くらい前から「僕、普通の人と違うのかもしれない」と思い始めて……。
坂東:須田さん、自分が「普通」だと思ってたんですね(笑)
須田:はい。(笑)例えば、死んだ後の世界のことを考えたり、太陽系が終わるときのことを考たりする人って、そんなにいないことに気づきました。
僕は気付いたら考えているのですが、そういう意味では先天的な違いがあるのかもしれない、それが結構重要なんじゃないかと思えてきました。
坂東:なるほど〜。違うから悪いということではなく、ただ違うんだと気付いたわけですね。
須田:そうです。例えば今回の件も、FREEPLUS のみんなが考える方向性が悪いということではなくて、もしかすると会社の進化の過程において、このタイミングで僕が必要なくなったということなのかもしれません。それなら、僕が離れていくのが自然だと言えます。
坂東:会社の変化の過程で社員が辞めたり新しく入ったり、新陳代謝が起きるというのはよくあることですけど……それが創業者で代表の須田さんに起きたというのが、とてもユニークなところですよね!「もうこの会社は自分の価値観とは合わない」という感じで。
須田:もともと自分の会社という感覚はないんですよ。常に「株主としての自分」と「いちメンバーとしての自分」を切り分けることは、意識してきてました。
坂東:いちメンバーとしての自分がいるべき場所はここではない、と決めたんですね。すごくティール組織っぽいなぁ!
今日はこれまでの連載の中でも一段とぶっちゃけたお話をありがとうございました。須田さんのこれからを応援してます!
須田:ありがとうございます!
所長のひとり言
何度もお会いして、須田さんが類い稀な情熱や本気度をもった経営者であり、かつ繊細な感受性を持った方だなあとも感じていました。だからこそ、退任した須田さんに会うとき、これまで全身全霊をを傾けてきたフリープラスから離れることになって、身体の一部がもがれるような痛みを感じているのではないか?放心状態なんじゃないか?……と想像してたんです。
でも、目の前に現れた須田さんはいつもと全然変わらない……というか、気持ちも行動も、すっかり切り替わっているように見えるじゃないですか!
須田さん自身「一度意思決定したら迷わない」と言ってましたが、常に「自分の命を、今、何に使い切るべきか」という基準で徹底的に考えて意思決定をしているから、ブレないし、決めたことに全力集中できるんでしょうね。
今の須田さんは、「会社を変えたい」という確固たる意志を持った経営者のために、自分の持てる能力をフル投入するのが楽しい!と話してくれました。(須田さんのような覚悟満点の人材が経営者の右腕として加わってくれたら、頼もしすぎる!というか、並の経営者ではびびり上がりそう笑)いつか、須田さんが関わって変化した企業も取材させてもらいたいです!