2018年から飲食業界においてティール組織に取り組んでいる
六本木の繁盛店「肉汁水餃子 餃包」(株式会社アールキューブ)。
(※「ティール組織」の解説はこちら)
今年4月にはCEOすら手放し、アルバイトに譲ったという、攻めの組織づくりをしている代表の坂田健さんをゲストに招いて、手放すトークライブを行いました。
ここでは、トークセッションで私が特に印象に残ったトピックについて触れたいと思います。
ティール組織に取り組んだ理由は、事業承継。
坂田さんは、創業者である父親から事業承継をし、経営をスタートしました。
その際にすごく苦労した経験(※1)から「自分のあとは、どう引き継いでいくか?」というテーマがずっと念頭にあるそうです。
「将来経営トップを引き継ぐのが、自分の子供なのか、社員なのかはわからない。
でもどんなかたちにせよ、スムーズに事業継承ができる仕組みを模索しているときに、ティールが良さそうだと考えた」という坂田さん。
私も同意見です。
経営者にとって経営権の手放し方は何種類かあります。
もっともポピュラーなのが、後継者に引き継ぐ。
または、事業を売却してより伸ばしてくれそうな人に経営を委ねていく。
そしてもう一つが、経営権を社員に分散する“セルフマネジメント型組織”への移行です。
環境の変化が激しいこの時代に、経営トップが、迅速に精度の高い経営判断をし続けていくというのは、かなりの重荷です。
社員が自主的に意思決定できる組織に変え、チーム力で経営スピードを上げていく。
それができれば、経営トップへの依存度は減り、後継者の負担が軽くなります。
給与は自分で決める。
セルフマネジメント化を進めている餃包では、アルバイトも社員も、給与は自己申告制です。
正確にいうと、バイトの時給は一律で同額です。
もし給料を上げたければ、店舗業務以外に、何らか会社運営に関する仕事をする必要があります。
具体的には、たとえば「この仕事をするので、給料を〇〇円にしたい。」
といったプレゼンテーションを社員会議の場で行います。
そののち、質問や意見などのフィードバックを受けた上で決定、という流れになっています。
ちなみに坂田さん自身も、希望する役員報酬額について、その根拠とする資料を作成し、全社員にプレゼンしているそうです。
さらに、なんと、“店舗の月ベースの利益と給料が連動するルール”に数ヶ月前から改訂したとのこと。
基準は、前年対比。
前年の利益を上回れば、その分給料に上乗せになる。
しかし前年を下回った場合は、マイナス分をみんなの給料から補填しなくてはならないというルールです。
バイトも含めて、全員で負担するということなので、かなり思い切ったルールです。
ちなみにスタートしてからの2ヶ月は「1勝1敗」。
スタッフたちが、経営状況を把握し、自分ごととして考えるようになったのが大きな変化だそうです。
たとえば…
いつ、どんな投資をするか?
社員旅行に行くのか?幾らかけるのか?
人件費を、どうコントロールするのか?
そうしたことを、社長の坂田さんがいなくても話し合い、判断するようになったそうです。
まさに全員経営。
できるものならやってみたい、という経営者は多いのではないでしょうか?
相談しなかったら、解雇。
書籍「ティール組織」には、セルフマネジメントを進めるための「助言プロセスの活用」が書かれています。
意思決定したい内容について、利害関係者にアドバイスを求める。
フィードバックを受けた上で、自ら意思決定する。
このプロセスがあることで、各人が意思決定しやすくなり、また誤った意思決定を防ぎやすくなるわけです。
餃包では、入社したばかりの高校生のアルバイトでも意思決定できる権限があります。
このテーマについて話している時に、参加者からこんな質問が出ました。
「相談もなく、勝手に変な意思決定されてしまう心配はないか?」
坂田さんは
「アドバイスを求めることはルールです。もしそれがなされないなら解雇事由に相当します」と。
会場はどよめきました。
坂田さんは、厳しい。しかしその厳しさはルールに対してであり、まっとうだと感じました。
坂田さんは「事実に厳しく、人に優しく」をモットーにしているそうです。
たとえば経費精算について。
もし提出期限が1分でも遅れたら、坂田さんは叱らない。けど、経費は支払わないよ、というスタンスです。
一般的には、めちゃくちゃ叱るけど、今回は特別だと言って許してあげるというケースが多いでしょう。つまり「事実に優しく、人に厳しく」です。
セルフマネジメントは、ガイドラインとセットで初めて機能します。
自由に意思決定していいけど、ルールは守らなくてはいけない。
給料も自分で決めて良い。だけど黒字というガイドラインを守れなければ責任は取らなくてはいけない。
自由を得るための、責任範囲の明確化。ルールづくり。
これがセルフマネジメントを進める上でのカギを握りますね。
ティールは経営者にメリットがない。おすすめしない。
「ティールはおすすめしません。何度も辞めようって社員に言いましたし。」
という坂田さんのぶっちゃけ話がとても印象的でした。
私も同感なので、話が盛り上がりました(笑)
▲社長のトップダウンの方がスピードが速い。
▲意思決定に慣れないうちは、精度も低いし間違えたりする。
▲権力を行使できず、決めたいことも社員に諮らなければならず、社長のうまみがなくなる。
デメリットを挙げればまだまだあると思いますが・・・汗
それでも、組織改革の手をゆるめないのはなぜか?
それは既存の組織づくりでは限界が見えているからです。
・企業の存在目的を追求する。
・一人ひとりの自主性を引き出す。
・社員に権力を分散して、後継者の負担を減らす。
そうしたことは、ヒエラルキー組織では実行が難しい。
だから、新しいカタチの組織づくりにチャレンジするのです。