レビュー
ホワイト企業大賞の受賞企業であり、2007年の創業時からティール組織的な経営を実践している、次世代型組織のパイオニアともいえるダイヤモンドメディア株式会社代表取締役、武井浩三さんの2冊目の本。
(※「ティール組織」の解説はこちら)
手放す経営ラボラトリーのアドバイザリーもしていただいてます。
「上下関係のないフラットな組織構造」
「メンバーに対する徹底的な情報公開」
「給料はみんなで話し合って決める」
「社長と役員は、選挙で話し合って決める」
「自由な働き方(働く場所、時間、休みは各自が決める。副業・兼業も自由)」etc.
といった、ユニークな組織を、なぜ?どのようにつくったのか?
ということが、具体的に書かれていて、貴重なケーススタディーです。
特にタイトルにある「管理しない」と「組織を育てる」
この2つのことばは、どちらもいわゆる“組織人”には違和感があると思います。
Q.管理しないで、どうやって組織が成り立つの?無法地帯になりそう
Q.組織を育てるって・・・事業を育てるとか、会社を成長させる、ならわかるけど・・・?
この2つのテーマについて、わかりやすく読み進められるようになってます。
(ふつうの組織にいる人には疑問が湧きまくるとは思いますが笑)
私たち(株式会社ブレスカンパニー)のことも、ちょこっとだけ取り上げてもらっています。嬉しい(笑)
本書のポイント
①組織づくりと子育ては似ている。組織はモノではなく生き物だと考える。
②「情報」と「権力」のコントロールで、マネジメント不要の仕組みをつくる
③管理しない経営が、これから必要になる理由。
①組織づくりと子育ては似ている。組織はモノではなく生き物だと考える。
『僕はダイヤモンドメディアを経営するにあたり「組織自身が何を求めているか」を観察することに終始してきた。ある時から、組織は生き物であり、有機的なものだと考えてきた。
今までのヒエラルキー型の組織づくりは「パーツを集め、上手に組み立てる」「正解がある」という、言うなれば「プラモデル式」だったのではないかと思う。
僕たちが取り組んできたのはそうではなく、「組織自身がどこに向かいたがっているかを観察し、成長を妨げる要素を減らす」「正解がない」という組織づくりだ。(はじめにより)』
この視点こそが、武井さんのユニークな組織づくりの根幹を成しています。
いままでのヒエラルキー型の組織は、極端に言えば社員もモノととらえる考え方です。目標達成のためにもっとも合理的なパーツ(社員)の組み合わせが、組織なのだと。
それが悪いというわけではありません。
ただし、今の時代には合わなくなってきているのではないか?という問題意識です。(その理由については後ほど触れます)
もし、社員と組織を、無機的ではなく有機的なものとして捉えるとしたら・・・
組織のカタチはどうなっていくんだろう?
ということを、武井さんは自社の経営を通じて追求しているのです。
(かなり哲学的な方ですね)
といっても、なかなかイメージが湧かないですよね。
これを子育てにたとえると・・・
子供はモノじゃないし、一人ひとり個性が違う。
親の思う通りには育たないし、誰にでもあてはまる“子育て法の正解”などない。
↓
組織はモノじゃないし、一社ごとに個性が違う。
社長の思う通りには育たないし、誰にでもあてはまる“組織づくりの正解”などない。
という感じです。いかがでしょうか?
“正解はない”のですが・・・
ダイヤモンドメディアでは、どんな組織づくりをしているのか?
ということが本書では具体的に書かれているので、参考になります!
②「情報」と「権力」のコントロールで、マネジメント不要の仕組みをつくる
もし、マネジメントをしなくても、社員一人ひとりが主体的に仕事に取り組み、事業が伸びていくとしたら・・・
マネジメントは必要ないですよね?
でも・・・
「管理しないと、サボるでしょ?」
「誰かがマネジメントしないと、好き勝手に間違った意思決定されたらまずいでしょ?」
と、ふつうは思いますよね。
ダイヤモンドメディアでは、この“常識”に、本質的に向き合っています。
武井さんは、ヒエラルキー型の組織で管理が必要なのは、“権力”と“情報”の扱い方の問題だと考えています。
★権力を持っている人がいると、その人を向いて仕事をするようになるし、依存心も高くなる。
権力の偏りをなくせば、社員一人ひとりは、顧客やミッションに忠実になる。
★全ての情報を公開することで、議論を正しい方向でできるようになったり、意思決定の精度も上がっていく。
極端に言えば、経営者と同じ情報を持っていれば、経営者と同じような意思決定ができうる。
上記のような発想で「情報を全て公開し、権力の偏りをなくす」というテーマを追求しています。
情報公開については、近年のITツールの劇的な進化によるところが大きいです。
昔のように紙ベースでの情報管理、電話でのコミュニケーションの時代には、物理的に情報公開ができませんでしたから。
その意味で、現代は“管理しない経営スタイル”という組織づくりの選択肢が取れるようになった、ともいえるでしょう。
③管理しない経営が、これから必要になる理由。
『いままでの社会システムは「インフレし続ける社会」つまり無限成長の世界を前提につくられていることがわかる。
人口が増え続けるから経済も成長し続ける。その前提でデザインされている。
でも今日本や他の先進国は、人口減少期に入っている。
ITが発達して経済から無駄が削ぎ落とされてきている。そんな中でGDPをKPIにして成長を求めるのは、むしろおかしい。
これから求められる社会は、インフレの時もデフレの時も同じようにサステイナブルである社会。(6章より)』
日本の人口、特に労働人口のメインとなる15〜59歳は、2050年には2000万人も減ります。
でも企業は、その状況と反比例して“人を増やして会社を成長させていきたい”と考えている。
全ての企業がです。
「会社は業績も社員数も、伸ばし続けなくてはいけない」という固定観念が、柔軟性を欠いているのではないか?という武井さんの視点は、鋭い。
さらに言うと、社員にも等しく成長を強制するのも、おかしいのではないか?と。
業績も、個人のスキルも、右肩上がりの成長を前提とするのではなく、持続可能(サステイナブル)であること。状況の変化に柔軟に対応し続けていくことがこれからの組織づくりのポイントではないか?と。
ここに、次世代型組織が、いま、登場してきた理由が、あるのです。
《まとめ》
この本は、武井さん本人ではなく、ライターさんが書いているそうです。
でも、だからこそ客観視点も取り入れながら、体系的にまとめられているのだなあと感じました。
武井さんのスゴいなあと思うところは、ストイックさです。
権力と管理を徹底的になくそうと考えて、ついに、武井さんも含めて、誰も議決権という権力を持っていない状態をつくったというくだりは、ヤバいです。こだわりが変態レベル(笑)ですね!
次世代型の組織づくりは、本質的に考え、思考錯誤の旅を続けていく以外にない。その旅路こそが、豊かで価値があるのだ。
そんなことを改めて感じました。
※「管理なしで組織を育てる」武井浩三著(大和書房)