第15回はコミュニケーション論・モチベーション論を中心に研究されている、
若新さんに取材を行いました。
それではどうぞお聞きください。若新さん、よろしくお願いします。
つまり自分と他人っていうことですよね。自分と他人っていうものとコミュニケーションが密接な関係っていうか、表裏一体なんですよ。
そもそも僕の関心っていうのは、今はみんな本当だったら「ITの時代だ」とか、AIとか、IoTとかも色々言ってるじゃないですか、もあるし、「バイオがこれから」とか言う人もいるし、なんですけど、僕は世の中がどういう流れかっていうことと関係なく、僕の関心としてやっぱ自分と他人っていう問題が結局僕の人生でほとんど重要な……。
その中で自分自身っていうものがどうあると幸せかとか充実かっていうことって結構大きな問題だと僕は思うんですよね。だけど、「自分」って学校生活の中とかであんまり主張できなかったっていうか、「俺は自分に関心があるんです!」とかって言いにくかった。分かります?
つまり、僕らが言ってる「自分」っていうのは、部屋で自分のことを自分1人で観測して分かる自分じゃなくて、自分以外の人たちと関わる中で見えてくる自分なんですよ。これを「社会的自己」って言うんですけど。
そういう関わりの中で自分ができてて。
じゃあ社会的な自分っていうのはどうやってできるかっていうと、まさに自分と自分以外の人のコミュニケーションでできてると考えられてるんですね。
だから、「10キロ痩せる」っていって目標を決めて、それを到達するっていうのは部屋でトレーニングすれば良いんですけど、例えば「この職場の中で必要とされる自分」「この仕事の中でお客さんに喜んでもらえる自分とは何か」っていうことを考える上で、職場の中で認められるとかお客さんに喜んでもらうってことは、職場の人とかお客さんっていう他者との関わりを考えていかないといけないくて。
でも、僕らが悩んでる自分っていうのはそういう意味での自分じゃなくて、他者との関わりの中で見えてくる人っていうか。
自分らしさって有名な言葉で言えば「アイデンティティ」っていうのがあるんですけど、アイデンティティっていうのは日本語に訳すと「自己同一性」とかっていうんですね。自分の同一性っていうんですけど、同一性って何かっていうと、自分が思ってる自分と他人が思ってる自分に対する自分の印象が一致してることなんですよ。
だから、「俺はできるビジネスマンだ」って自分で思ってて、お客さんも「あの人はできるビジネスマンだ」っていうふうに思っていたら同一性があるから、その人は「できるビジネスマン」というアイデンティティを持ってるっていう意味なんですね。
つまり、「自分らしさ」っていうことを考えると「アイデンティティ」っていう言葉が一般的にはまず取り上げられるんですけど、「あの人はすごい自分らしいアイデンティティを持ってるよね」って。
アイデンティティは「俺はこうなんだ」ってことを主張できる人が良いアイデンティティを持ってるっていう意味じゃないんですよ。「俺はこうなんだ」っていうことと、周りの人も「そうだね」っていうことが一致してると、その人らしさっていうものが存在すると。
その人らしさなんですけど、べつに迎合して周りに合わせろって意味じゃなくて、つまり、「自分がこうだ」っていうことを発信して、それに対して周りが「いや、おまえそうやって言ってるけど、実はこうじゃない?」っていう反応があって、このやり取りを繰り返していく中で「じゃあ、おまえが言いたかったことはそういうことだったのか」と。
僕もよく誤解ありますよね、「若新さん、どういう意味?それ」みたいな。「だからこうこうこうで」「ああ、そういうことだったのか!」みたいな、「それだったらそれで良いと思うわ」とか、「あれだったら、もうちょっとこうするとさらに良くなるんじゃないの?」っていう、AさんとBさんの間でキャッチボールっていうか、やり取りを繰り返していく中でその人らしさとかその人の価値っていうのができていくと。だから、これは何かっていうとコミュニケーションとって、やり取りをして、お互いに納得できる状態をつくってるっていう意味ですよね。
だけど、貧しい国とか貧しい時代の人たちって、周りの中の自分ってことも考えてなくはないと思うけど、でも、腹が減ってきたらそれどころじゃないじゃないですか。
だから、やっぱり「自分」というものが大きなテーマになってるんじゃないですかね。
世の中における自分の価値、職場における自分の価値、お客さんから見た自分の存在意義っていうのは何かっていう、これ、ないから満たすというよりは、よりそれを探っていきたいというか、つくっていきたいっていう難しいことだと思うんで。
つまり、仕事内容とか、それがマッチして満足するっていう人は減ってきてるんじゃないですかね。もちろん仕事内容がまったく関係ないわけじゃないと思うけど、でも、やっぱりそれよりも関わる人たちとの中で自分がどんなことを期待されていて、どんなことを求められていて、どうすれば自分が認められるのかっていう、認めてくれるのは他者なので、しかもお客さんとか同僚は認めてくれなくても、突然神様が降りてきて「君のやってることは人間レベルでは認められてないけど、本当に神様から見たらすごいよ」とか言ってくれるわけじゃないんですよ。
結局、職場とか顧客が認めてくれなければ仕事上の価値はなくなっちゃうわけですね。お天道様が見てるかっつったら、お天道様はボーナス払ってくれないんで。
だから、これって何が大事かっていうと、多分「場」だと思うんですよ。仕事内容ではなくて、どんな場にいて関わりをつくれるかっていう。だから、職場っていうのは、もちろんエアコン効いてて綺麗な机のほうが良いですけど、それはもちろんそうなんですけど、常に自分というものについてちゃんとやり取りができる場所、どんな人とも自分のことを伝えれば反応が返ってくるので、それが毎日丁寧にできて、自分というぼんやりした存在について不安にならなくて済むように、常に対話がないとダメなんじゃないですかね。
これは面談シートみたいなのに今の自分の良いと思ってるところとか直したいところとかっていうふうに書いて、カウンセラーが面談すれば……っていう問題じゃないと思うんですよ。
で、おしゃべりがちゃんとできる場であるかどうかって大事で、どんなに仕事内容とか役割が明確になってても、日常的なおしゃべりがなくなった職場って働き続けんのはキツいかもしれないですね。
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