新型コロナウイルス感染症 (COVID-19)の影響でテレワークに注目が集まっています。働き方改革の手段の一つとしてテレワークだったものが、企業が生き残るための手段に変容してきました。
変化のスピードに柔軟に対応していくことが求められる現代において、企業が柔軟に変容し、進化し続けることができなければ生き残る道はない、とも言えます。
今回は、セルフマネジメントが機能するコツが数多く掲載されている本「超・時短術」に感銘を受けた所長の坂東と編集長大山が、働き方改革のスペシャリストでもある著者の越川慎司さんにインタビューを敢行。
「テレワークで手放すべき7つのこと」を実践できれば、あなたの会社も働き方改革の向こう側に進化できるはず。
ゲストプロフィール
越川慎司 Shinji koshikawa
株式会社クロスリバー
代表取締役社長
株式会社キャスター
執行役員
国内大手通信会社、外資系通信会社に勤務、ITベンチャーの起業を経て、2005年に米マイクロソフトに入社。のちに日本マイクロソフト業務執行役員としてOfficeビジネスの責任者等を務めた後、株式会社クロスリバーを設立。メンバー全員がリモートワークで週休3日。これまで529社の働き方改革を支援。2018年より株式会社クロキャスター 執行役員を兼務上。著書6冊。
新書:科学的に正しいずるい資料作成術 2020/02/05発売
新書:ビジネスチャット時短革命 2020/03/16発売
結論からいうと、僕はテレワークを目指さないほうがいいと思ってます。テレワークすることが目的の企業が8割以上で、どこも成功していません。あくまでもテレワークを通じて何がやりたいのかを明確にしないと成功はないというのが、これまで529社対応した学びです。
テレワークは目的じゃなく手段。正しい目的がないと正しい手段が選べないですから、まずは登るべき山の頂上がわかってないと、やっぱり山登りしちゃいけません。
目的を明確にしてから手段を正しく設定するという当たり前のことをやるだけで、成功確率は3倍以上になりますよ。
会社が「利益を上げること」と、自分のモチベーションが紐ずいている人は2割しかいない。ほとんどの人は、会社が儲かることよりも自分が幸せであることのほうが、優先度が高い。
テレワークを含む働き方改革成功の正しい定義は、会社が成長することだけではなく、会社を支える社員が幸せになること、この2つが両立されていること。
そのためにどうやって働き方を変えるか?と考えたほうが、健全です。
企業の生産性や成長ばかりフォーカスして社員の幸せが忘れられがちですが、決して忘れてはいけません。
そこで、会社が登るべき山の頂上がどこなのか明確化した上で、そのためにテレワークが必要だったらやればいいですし、テレワークによって売上が下がったり社員のモチベーションが下がるのなら、それはやるべきじゃないですね。
新型コロナウイルスの影響でテレワークをやってみて初めて「働く」=「通勤する」ということではないということに多くの方々が気づくと思います。
本来、「働く」=「価値を生み出すこと」
労働ではなく、価値を生み出すことが働くということだとみなさんわかってきたので、働く意義を考える上では、一度止まって考える機会が得られた、いい機会なのだとも思います。
テレワークに反対する経営者って7割以上いるんですね。その理由は「テレワークにするとサボるから」なんです。
悔しかったので、8社約300名のテレワークを実施している企業の人たちの仕事上のログをとりました。
結果、サボってる人は存在しました。
パソコンの電源を1度も入れない人、ソリティアのゲームを4時間やってる人、楽天のオンラインショッピング3時間やってる人などいましたね。
しかし、さらに衝撃的だったのは在宅でサボる人の94パーセントはオフィスでもサボってることがわかったこと。
出勤してオフィスにいる時でも、後ろに課長がいないときにはゲームをやっていたり、部長がいないときはオンラインショッピングをやってるんです。
この結果からわかったことは、サボる原因が働く場所ではない。ということ。
本質的な原因は職責にあるんです。
職責とは、自分の仕事上の職務責任のこと。英語で言うとjob description。
この役割が明確でないと人はサボる。
まずは原点に返る。「私の役割って何だろう?」実は、それがわからない人が多い。
これまで評価についても、役割を全うしているか否かではなく、頑張ってるかどうか?で評価してしまっていた。
今ここに来て、「個人の役割とは何だろう?その役割に対して何をやったら貢献できるだろう?」というこの2つの評価制度がクローズアップされていると思います。
テレワークが成功するか否かは「行動と成果と評価」この3つの透明性を高めることに尽きます。
具体的に言うと、一つ目は行動。それは何をやったかという業務を透明化すること。
二つ目の、成果。アウトプット、成果が何だったのか?成果の透明化。
三つ目の、評価。成果を出すことによって評価されますが、「私は何をやったら評価されるのか」という評価の透明化。
この3つが必要です。
この条件を整える必要があることは、リアルかテレワークかに限らず、して然るべきことだとは思います。しかし、今までそれができていなかったということが、実際にテレワークをやってみて明るみになったわけです。
ただし、制度よりも何よりもまずやるべきことは心理的安全性を担保することなんです。
心理的安全性というのは、好きなことを話せる、包み隠さない、何でもしゃべってもいいのだと信じている状態。
上司・部下の関係性の中でそんな状態をつくってください。そのために増やすのは、会議ではなく会話。関係性ができていなければ、まずは雑談をしてくださいと。毎回冒頭2,3分は、仕事と関係ない雑談してください。
腹を割って話ができるようになると、次に上司がすべきことは、行動目標を決めること。「今週はこの提案資料を先週よりも5パーセント少ない時間でやってみよう」とか、「他の部門の何でもいいから、ひとつお手伝いしてみよう」とか。
そういった行動目標を設定して、それを振り返って、良かったのか悪かったのか、ということを繰り返す中で行動を少しずつ修正していく。結果的に個人の職責、それから部門のミッションに到達するという、これを全体設計するのがリーダーの役割ですね。
29社16万3,000人にアンケートを実施した結果、「心理的安全性がありますか?」という質問を上司と部下に聞くと、「ある」と答える人が実は約25パーセント。75パーセントは好きなことが言えない状態なんです。
実はここが長時間労働を生んでいます。
世の中でつくられる資料、パワポとかエクセルなどの資料の23パーセントは、実は上司への過剰な気遣いで作成された資料で、その資料は実際に使われない。
だから、この気遣いをいかに取っていくかというのがベースとしてすごく重要。これはオンラインであってもオフラインであっても、関係なく、どちらにも重要ですね。
働き方改革の流れから、会社の電気を強制的に20時で消灯するという企業が増えています。これによる弊害は、2つあります。一つ目は、当日中に終わらせなければならない仕事かどうかに関わらず、電気が消えるまで仕事することが習慣化すること。
2つ目は、20時に強制退社とはいえ、人手不足で20時に終わらないケース。
そのせいか、オフィス街の近くのカフェは、18~20時以降の売上が過去最高なんですよ。
電気が消えたから、仕事を終えるわけではなく、黙ってパソコンと書類を持って近くのスタバに移動する。ただそれだけなんですよ。
電気を消す企業としては、どうしたら残業時間を削減できるのか?というHow思考から「まずは意識を変える」ということを目的にしているのかもしれません。しかし、人間って意義と目的を理解して腹落ちしていない行動は8〜9か月で元に戻ってしまう仕組みになってるんですよ。
夜、電気を消すことに納得いかないと、みんな仕事をし続けちゃう。
一方、うまくいく企業は、“How”を考えるのではなく、「なぜ早く帰れないのか」という“Why”を考える企業。
「なぜ20時になっても帰れないんだろう?」という発生原因を追究している“Why”思考の企業は、どうやって時間が奪われていくかを分析しています。
たとえば、あるメーカーさんでいうと、就業時間の43パーセントが社内会議でした。その社内会議を調べると、なんと4割がアジェンダが決まってなくて、椅子に座ることが目的の会議だったということがありました。
そこで、「アジェンダが決まっていない会議は開催禁止」という会社のルールで決めて運営したら、会議は2割ぐらい減って、夜、電気消さなくても帰れるようになりました。
解決策じゃなくて、まずは発生原因をたどるっていうのが成功のポイントですね。
社員の7割が、実は残業をしたがっています。残業したいのに電気消されて帰らされちゃうので、モチベーションは下がります。
残業したい理由は3つあって、一つ目は残業代目当て。二つ目は、そもそも仕事が終わらないから。どんどん仕事が降ってきて「売上を落とさずに労働時間減らせ」というパターン。三つ目は、市場価値を高めたいから会社でスキルアップしたい。それなのに早く帰らされてしまう。特に若年層、20代30代が多いんですが、思うようにスキルアップできないから不満だっていうことですね。
このマインドは、生産性改善ということをテーマにやろうと思うと、障壁になります。
そこで、働き方改革への取り組みの中で一番はじめにやることは、全社員の働きがい、いわゆる幸せの源泉である、働きがいを徹底的に可視化することです。
働きがいを感じている社員の割合を6割以上にするためにはどうしたらいいかっていうことと、売上を恒常的に上げていくためにはどうしたらいいか、この2つを両立させるためにはどういう施策がいいかということを設計します。
「生産性」というワードはよく聞きますが、働き方改革における、本当の高めるべき生産性とは「時間生産性」ではなく「事業生産性」です。
時間生産性というのは、いわゆる時給。売上が変わらずに労働時間が減れば、それで目標が達成されてしまう。
今年、労働時間は全国で18パーセント去年より減ってます。
もし売上が一緒であれば時間生産性を改善したということが言えますが、ただ売上が一緒だとだめなんですね。売上を増やすために、無駄なことをやめたことで生み出された時間を未来のビジネスに再投資しなきゃいけません。
会社側で言うと、再投資先や、新規ビジネス開発。社員でいうと、未来で必要になるスキルアップ。いまの仕事時間の無駄をなくして、事業開発と、スキルアップに振り分ければ、労働時間は同じか、もしくは減ったのにも関わらず、利益率が上がった。ここまで目指さなきゃいけない。これが事業生産性っていう考え方ですね。
働き方改革はダイエットと一緒。贅肉を減らして筋肉を増やしたいわけですね。
自分の労働時間がどうやって奪われているかを、しっかりと見ていかないといけません。
ダイエットではまず何をしますか?
体重計に乗りますよね?自分の現状を知るためです。
仕事では自分の仕事がこの1週間どういうことに費やされたかっていうのは、ちゃんと現状を分析しないと、何が無駄か、何がプラスになったかがわかりません。なので必ず1週間に1回は最低でも自分の仕事・作業の振り返りの時間をとることが、最低限必要です。
その中で「贅肉が何か」を振り返るんですが、16万人の結果を見ると、時間が奪われているトップ3は、社内会議、資料作成、メールの処理なんです。その中でじゃあ費用対効果を考えた上で何を減らすべきかを考えます。
振り返って無駄だったらやめます。その時間を内省って呼んでるんですが、内省タイムは金曜日の午後3時から15分間とることを決めます。
コーヒー飲んででも、たばこ吸ってでも、なんとなく1週間の作業を振り返ってみて、「この資料は無駄だったな」とか「この会議のための会議は無駄だったな」とかっていうのがわかって、「じゃあ来週はやめてみよう」といった具合です。無駄を取るためには、まず内省を入れるっていうのがポイントですね。
結果として、内省タイムをとっただけで、労働時間が約1割減りました。
止まって考える時間がいかに必要かっていうことがよくわかりました。
もちろん会社としての取り組み、たとえば捺印の必要な書類をなくすとかも必要なんですが、ただ、個人レベルでも削減できることって山ほどあります。
会社の取り組みのトップダウンと現場の取り組みのボトムアップを組み合わせていくのがポイントですね。
金曜日の午後3時というのがポイントです。「週末までに終わらせたい」という心理から金曜の夕方からは作業効率が上がるんですが、その前に振り返りの時間をとっておけば、来週の月曜日から減らすことをトライできますし、金曜日にそういった前向きな考え方があると「サザエさん症候群」が起こりづらいと言われています。目的を持って月曜日に出社すると、むしろワクワクして出社する社員が増えるという、これが行動実験の結果ですね。
そして、土日は頭を休めたほうが圧倒的にパフォーマンスが高いことがわかってるので、いかに“休日脳”をつくるか。
上司でいうと、「頑張って、我慢して土日にメールを送らないか」っていうのが結構重要です。
土日にメールを送ってしまうと、送られた方の部下の人たちもやっぱり見ちゃうので、いきなり仕事脳にさせてしまうことになる。
もちろん、溜まった仕事をこなしたいのはよくわかるので、管理職の方にお伝えしてるのは、メールつくるのはいいが下書きに置いておくか送信予約をしてくれと。月曜日の朝9時に送信されるように簡単に設定できるので、送らないで、ためといてくれ、と。それをやるだけでも、ぜんぜん社内の満足度は変わってきます。
生産性を上げて残業時間が減ったとして、空いた時間に何をすれば良いのか分からない。という声も聞きます。
その答えは、簡単で、生産性を上げて時間ができたら何するのか、ということを先に決めておくことです。
そこに「超・時短術」という私の本に「超」をつけた理由があります。
「時短」というと67パーセントの人がネガティブに捉えるので、時短を超えた先という目線を持って欲しい。だから、はじめにやりたいことを決めて、自分にとってテンションが上がることが待っている。というマインドになって欲しいわけです。
「時間を削る」という感覚じゃなく「時間を生み出す」という感覚に変えるんですよ。そうすると、仕事上の贅肉が落としやすくなってきます。
「働きがいを勝ち取るために無駄なことをやめて、こっちに時間を振り分けよう」とか、若手に「スキルアップしたいんでしょ?だったら、派手なエクセル・パワーポイントをつくるのをやめよう」とか、そういったことのほうが定着・浸透しやすいですね。
パナソニックの松下幸之助さんが日本で初めて週休2日を始めたんですけども、もともと週休2日というのは「休養と教養のため」という目的でつくられたんですね。
体を休めるのが1日、勉強するのが1日なんですが、多くの方が休養のほうに2日間費やしちゃっていて、インプットの教養の時間っていうのは自分でつくり出さなきゃいけないんです。
ただライフスタイルが変わってきて、土日は家族と過ごしたりというのが多いのはたしかだと思うので、「教養の時間を平日つくりませんか?」と。平日、たとえば「1時間とか30分でも、自分の学びたいこと、やりたいことの勉強にあてるためには、「1週間のうち、30分を捻出するためには何をやめますか?」というふうに社員にお伝えしたほうが、行動を変えていきやすいですね。
編集後記
今回、越川さんとのご縁はTwitter。越川さんがあるラジオ番組に出演されていたのをたまたま視聴していた編集長大山。ラジオで話している内容に共感と納得しかなく、「本も買ってみよう!」とスマホを手にした瞬間にTwitterの通知が鳴りました。
「越川慎司さんにフォローされました」と。「!!!!!!!」運命を感じた私は1秒後に越川さんにDMを送っていました。
という経緯で今回のインタビューに繋がった訳ですが、このインタビューに至る経緯も全く無駄のないやり取りでした。
大山がTwitterDMで取材交渉→了解を得て、アシスタントさん(越川さんが一度もお会いしたことのないオンラインアシスタントさんです)の連絡先を教えてもらい日程調整→日程が決まり取材→取材自体もZOOM(オンライン)で実施→記事のチェックは速攻で確認いただきました。
一連の流れを通じて最新最速の仕事術を実践されている方だな・・・と改めて感じた次第です。
さて、後編はそんな越川さんが経営する最新最速の組織クロスリバーの働き方についてです。お楽しみに♪
後編へ続く…