2019年6月にティール組織への移行を宣言した株式会社フリープラスのリアルタイムレポート、第6弾です。
(※「ティール組織」の解説はこちら)
前回のインタビューでは、ティール組織への移行3ヶ月目までにどんなことが起きたのか、具体的なお話を須田社長と若手社員の方に伺いました。それでは、その間に立つ立場だった中間管理職の皆さんは何を感じているのでしょう。マネジメントの役割を上手く手放すことはできたのでしょうか? 元マネージャーの方にティール移行後の変化や課題、今の率直な気持ちを聞きました。お話してくださったのは、浅利薫平さん、霍田賢一郎さん、基文遠さんです。
基文遠さん(写真左)、霍田賢一郎さん(写真中央)、浅利薫平さん(写真右)です。
ティールになって起きる問題は最初から想定していた。
坂東:元マネージャーの皆さんには、ティール組織への移行で役職や権限がなくなって何が変わったのか? どんな気持ちを抱いているのか? 正直なところをお話しいただきたいと思います! まずは以前の役割と、それがティール化でどのように変わったのか、教えてください。
浅利:訪日旅行事業本部の営業マネージャーをしていました。今は営業と開発に携わっています。一営業担当者と同じですね。
坂東:マネージャーという肩書きがなくなって、戸惑いはありませんでしたか?
浅利:あまりなかったです。
坂東:でも、それなりの権限があったんでしょう?
浅利:経費の申請を承認するとか、そういうのはありましたね。1日のうち20%くらいはそれに費やしていましたが、今は各自が勝手に処理するので僕の手間は一気になくなりました。それと、メンバーが問題に直面したとき、以前はまず私に問い合わせがありました。それが、問題を解決してくれる適切な人材に直接話をしに行くようになってメンバーの問題解決スピードは125%増加したと感じています。私も自分がやりたい仕事に時間を使えるようになって、すごくハッピーです。
坂東:寂しさ、みたいなものは、ないんですか?
浅利:全く!現場のことは各営業担当が一番わかってますから、承認依頼があっても「あ、そうなんだ」という感じで、却下することもほとんどなかったですからね。
坂東:なるほど〜。それなら各自に任せちゃえるとラクですね! 霍田さんは、どうですか?
霍田:僕は経理財務のマネージャーをしていました。今も経理財務の担当で、メンバーのマネジメントをするという役割がなくなりました。
坂東:マネジメントしていたのをやめてしまって、大丈夫なんですか?
霍田:問題は起きるんですけど、それはティールになったらそうなると想定していたことなので、「そうだろうな」と。
坂東:どんな問題が?
霍田:例えば会計ソフトに計上される内容の精度が下がるとか。これまでは、事前に相談やチェックをした上で計上されていたものが、みんなが自分で「こうだろう」と判断して入力するようになったからです。月次決算の時に間違いが見つかって修正が必要になったりすることは、デメリットだと思います。
坂東:お金の管理だから重要なところですよね。大変じゃないですか!
霍田:そうですね。特に資金管理なんかについては、これまで以上に細かくチェックをするようになりました。
坂東:会社のお金の情報をオープンにすることにリスクを感じたりは?
霍田:そういう情報が外に出てしまうかも……というようなこともひっくるめて、想定していたマイナスのところに含まれています。それよりもプラスになることが大きいので、仕方ないかなと。怖いところもありますけど、もう進むしかないですよね。
坂東:信じてやるしかない! ということですね。
マネージャー時代にできることはショボかった。今の方ができることが広がっている。
坂東:基さんは、前回の座談会にも出ていただきましたね。バスやホテルの仕入れに関するマネージャーをされていたということでしたが、今は?
基:仕入れについては、今はバスしかやってないです。バスが好きなんで(笑) でも、マネージャーだった時よりも今の方が権限が増えたと感じています。
坂東:なんと! それはどういうことですか?
基:マネージャーって、マネージャーとして与えられた範囲までのことしかできなくて、ショボいんです(笑)
坂東:ショボい(笑)
基:マネージャーだったときは、自分の部署の目標はもう決まっているんですよ。その目標をどうやって達成するかを考えて、都度必要なことを指示していたわけです。目標そのものについては、会社全体のデータが公開されていないから考える余地がない。全部が公開されて、会社としての長期的な目標が共有されていれば、「僕らの目標が売上1%増って正しいの?」とか「これぐらいなら3%とってもいいんじゃない?」みたいなことも考えられるわけです。ティール化して情報が圧倒的に開示されるようになったので、全員が経営者目線で考える環境が整いました。
坂東:マネージャーという役割がなくなって、自分の位置付けが下がったというよりは、広がった、という感じなんですね!
基:そうです。
浅利:僕も、ティールになってから自分の目線が上がっていることを感じています。以前は「FREEPLUSの中で自分ができること」を考えていたんです。でも今は経営者として「FREEPLUS=自分」という意識で、「社会の中のFREEPLUS」を考えるようになりました。「FREEPLUSはどのようにすれば人類社会に貢献し続けられるのか」に思考がシフトしていっています。
坂東:すごい! 人間的にも大きく成長できそうですね。
経営者として動けるようになるには、まず自分の生きる意味を問わなければいけない。
坂東:元マネージャーの皆さんから、メンバーだった方たちの変化はどう見えていますか?
基:チームのみんなも成長してますよ。例えば、前は部署の会議を主催するのは基本的に僕でした。「このままだと目標達成できない!」みたいな問題を発見しては問題解決会議を開いて、必要なアクションを決めて、「じゃあ、東京のこのホテルの送客をやめて、こっちのホテルに送客してください」みたいなことを細かく指示していました。でも、今はそれぞれのメンバーが問題に気づいて会議をやったりしています。もちろん、僕も気づいたことがあれば「これやった方がいいよ」とは言うんですけど、言うだけで、業務としてはバスしかやってないです(笑)
坂東:自分から動ける人が増えてきているんですね。その人たちにとっては何が変わったんでしょう?
基:会社の数字が見えるようになって「これ、自分でやったほうがいいんじゃない?」と分かるようになったんじゃないでしょうか。
坂東:指示されなくても「自分が」という気持ちが自然に起きるということですか?
基:前から自ら動ける人は多かったけど、動ける範囲が決まっていたんですよね。メンバーは上の人に確認をとらなきゃいけなかったんです。確認があったら、僕としては「はい、いいですよ」と言うだけなんですけど。
坂東:情報開示と権限移譲の効果は大きいですね! 逆に、課題に感じることは?
霍田:「経営者として判断してください」と言われても、急には難しい人もいますよね。経営者やマネージャーと同じ視点には立てなくて、最初は個々に勝手な判断をしてしまったり……。
坂東:最初はそうですよね。わかります! それでも、やってもらうというのが大事だと?
霍田:はい。全員が経営者の視点で考えられればすごい組織になれるはずなので、そこに到達するまでの問題ですね。最近は、同じ目線に立ってもらうために必要な知識を共有する時間を、結構とっています。
浅利:僕は、個人の目標の決め方が少し変わったと感じています。営業の場合、以前は「チームでこれを達成しようという」意識が強かったけれど、今は自分の決めた報酬ベースで目標を立てている人がいますね。自分はこれくらいの利益を作るからこれだけの給料をもらう、という感じで。
坂東:なるほど、ちょっと視野が狭くなってしまっている可能性があると。
浅利:個人が生き残るための目標、みたいになってしまっているのかな、と。会社の未来を考えて目標設定した方がワクワクすると思うので、ゆくゆくはそうしてきたいですけどね。
基:それもやっぱり、経営者になりきれていないということですよね。例えば、会社全体のことを考えると売上利益の目標だけでなく、企業文化を作っていくことも重要です。FREEPLUSには「FREEPLUS DNA」というクレドがあって、経営者としてはそれをきっちり浸透させるのが大事だと思うんです。だけど経営者になりきれていない人には、「企業文化って、どうしてそんなに大事なの?」というところから説明しないといけません。まだまだインプットが足りない気がします。
坂東:そうですよねぇ。経営者になるにもトレーニングが必要ですよね。
基:もっと根本的な話をすると、「何のために経営者になるの?」ということを、自分自身に問わないといけないんですよ。この会社は自分にとってどんな意味があるのか。経営者って、そこに人生をかけるわけですから、人生の目標と会社の成長が重ならないんだったら経営者にはなれないはずです。逆に、FREEPLUSの存在目的と自分のやりたいことがかぶるのであれば、日々のアクションは自然に変わると思うんです。言われなくても変わります。でも、そういう目的が全員にあるかどうかはわかりません。本人にしかわからないことです。
坂東:まずは自分に向き合う必要があると。
基:本気でやる人しか、残らないんだと思います。
坂東:厳しい世界だ! FREEPLUSという社名だけど、”フリー“という感覚とは程遠いですね(笑)
浅利:ティールって「自由に働ける」というイメージが強くて、僕も最初はそういう印象を持っていたんですけど、実際にやってみると真反対だな、と思います。目標に向かう手段は自由なんですけど、何でも好きなようにやっていいよ、というのとは違うんですよね。
坂東:さすが、実感がこもってる……。
会社ができたときから上下関係を作らないことが徹底されてきた。
坂東:FREEPLUSの“フリー“は「サボれる自由」ではない、というのがよく分かりました。山の頂上に登っていくときの登り方は自由なんだけど、目指すところは結構高いよ、ということですよね。
浅利:自由があるのは組織の目標にコミットするためだから、自己中心的な行動や個人のエゴのために好き勝手にやるのはおかしい、ということです。
坂東:皆さんが、わりと自然にそういう考え方を受け入れているのがすごいな、と思います。マネージャーの方々も、権限を手放すことに特に抵抗はないようだし。
基:この会社では、権力にしがみついていても美味しいことは何もないんですよ。ティールになる以前から、そういう人は評価もめちゃくちゃ下がるので居づらかったと思います。
坂東:そういう評価基準だったんですか? それとも文化?
基:最初から、上下関係が生まれないようなルールや制度の設計をしていたんですよ。敬語を使うというルールも、インセンティブ制度はつくらないというのもそのためです。他にも、おかしいと思うことがあれば誰でもすぐに声を挙げやすい仕組みや文化がありました。例えば、上司は部下に命令をしてもいいんですけど、その理由を説明できなければいけません。部下から理由を聞かれてちゃんと答えられなければ、部下は他のマネージャーに対して「基さんが、おかしいことを言ってます」と訴えることができます。そういう環境があるから、上の人が威張るということはないんです。
坂東:なるほど。徹底してますね。
基:そのベースを作ったのは社長の須田さんです。会社ができたときから、狂信的と言っていいくらいに絶対的に、上下関係を作ることを許さなかった。当時からその考え方が浸透して文化ができていたから、人が増えていっても変わらなかったんです。
浅利:途中から入った人も、その狂信的なほどの文化を受け入れられる素直な人ばかりなんですよね。
坂東:やっぱりティール化するためのベースがあったんですね。示唆に富む話だ……。今日はありがとうございました! ぜひまた、お話を聞かせてください。