筆頭株主が、株主の権力を無力化する?!
坂東:もう一つテーマとして伺いたかったのが、株主との関係性について。『会社の持ち主=株主』という概念は、
権力の集中を無くす際にどうしてもネックになる。
それを、ものすごく独自のやり方で解決しようとされていると思うんですが。
武井:極論、会社って株主の物じゃないですか。法的には。
坂東:法的にはそうですね。
武井:株を67%以上持っていたらある程度好き放題できてしまう。
社長「この事業、売ることに決めたから!」
社員「マジですか!?聞いてないよー!」みたいな。
坂東:反論はできても、従業員側に決定権はないですからね。
武井:そうなんですよ。決定権が無い状態で議論しても「あなたの言うことはよくわかりました。
でも、もう決定ですので」とか言われたら、自分は尊重されていないと感じますよね。
すると、心の分断が生まれてしまう。
だからうちでは役職を無くして権力を無力化したんです。
代表取締役というポジションも無くしたいんですけど、
法的にそれはできないので、選挙で決めるという苦肉の策を考えたり。
坂東:サラッとめちゃくちゃ大胆なこと言ってますね(笑)
武井:ところが、いくら社内の権力集中を防いでも、その上には会社の持ち主である株主がいる。
坂東:それはそうですよね。
武井:ただ、会社の価値を金銭換算して、株主がその所有権を持ちつづけるのって、
昔ならまだしも今の時代には合わないと思うんですよね。
坂東:なぜ、今の時代には合わないんですか?
武井:例えば、昔の製造業では設備投資が何よりも重要で、人は機械を扱うだけの存在だった。
つまり、会社の中身はほとんどが『物』だったので『所有』という考え方とマッチしていました。
でも、今は『人』の重要性がどんどん高まっている。
坂東:確かにそうですね。
武井:『アクイハイアリング(※)』みたいに、人材獲得目的でM&Aすることもあるくらいですから。
そうなったとき、株主が会社を所有し続けるというのはすごくナンセンスに感じたんです。
『株』というものを分解すると『資産』という側面と『権力(議決権)』という側面に分かれますよね。
両方いっぺんには解決できないので、まずは権力部分を無力化してしまうことにしました。
坂東:当時の筆頭株主って武井さんですよね?武井さん自身が、
自分の権力を無力化しようというのがおもしろ過ぎるんですが・・・(笑)
武井:ずっと色んな権力を無力化してきたんですが、最後に残ったのが株主の権力だったんです。
そこで、経営管理組合をつくって、そこに株を移すというスキームを実行した。
今は組合が70%議決権を持っていて、僕は12%しかない。
法的にも、僕は一人ではもう何も決定できないんです。
坂東:代表者が、自分の決定権を実質的に手放すって・・・。
それで、社内の雰囲気は変わりましたか?
武井:元々そういう経営をしていたので、ほとんど変わらないですね。
ただそれまでは、僕が万が一「殿、ご乱心!」みたいになって、めちゃくちゃなことを言い出しても、
ストッパーがいなかったんですよ。でも今は、もしそういうことがあれば、僕が弾き出されるだけなんで(笑)
坂東:へ~!(笑)では大きな決断をするときは、誰が決めるんですか。
武井:みんなで話し合って決めます。多数決ではなく、アドバイスプロセスみたいなやり方で。
坂東:例えばどこかの会社をM&Aするというときも?
武井:みんなで相談します。
坂東:お金借りるときは?
武井:それもみんなで相談。たとえば、会計財務をやっている人間が事業部と相談して
「あと2000万くらい融資受けときますか?」みたいな。そうやって、どんどん銀行と進めちゃう。
坂東:進めちゃうんですね!(笑)
武井:もちろん、どんな議論がされているかは僕もなんとなく把握していますし、
必要なときは僕に相談に来ますけどね。
坂東:なるほど。借り入れする際の連帯保証とかは?
武井:最終的には、僕のところに「武井さん、ハンコお願いします」って持ってきますね。
僕は代表がハンコを押すとか連帯保証すること自体意味が無いと思ってるんですけど、
今の社会システムでは必要なので、しょうがないかな、と。
坂東:普通は、会社が傾いたときに連帯保証人である社長がケツを持たなければいけないので、
その責任があるからこそ、自分が決める権利を持つのが当然。
みんなで決めるのは不平等だって思いがちだと思うんですが。
武井:それを言ってしまうと、社員は「会社は社長の持ち物なんだ」って当然感じてしまう。
坂東:それはそうですよね。となると、あとは社長がどうしたいかってことですよね。
武井:そうなんです。今の資本主義って、持つ者と持たざる者の対立構造があって、
持つ者が圧倒的に有利な仕組みになっている。株を持っている株主が絶対的な権力を持っていたり、
世の中の大富豪の多くが、筆頭株主である創業社長だったり。僕はそこに構造的なエラーがあると思っている。
思ってしまった以上は、この仕組みをそのままにしておくことは難しいかな、と(笑)
坂東:なるほど。思ってしまった以上はね(笑)
日本の市区町村にも、所有権をシェアする時代がやって来る?
武井:僕は今の株式市場にあまり魅力を感じません。所有権の強すぎない新しい経済システムを作りたいんです。
そう考えたとき、貨幣経済以外にも、交換経済、バーター経済、
ボランタリー経済っていうお金が実際に動かない経済の仕組みが世の中にはあって。
そういうものを扱える会社やシステムがあるといいな、と。
坂東:なるほど。それがミッションになっているんですね。
武井:多分できると思うんですよ。ヘタすると5年以内には。
坂東:可能性はありますよね。
武井:地域通貨もそう。地域のごみ拾いをしたらコインがもらえて、それを地域のお店で使えるっていう。
貨幣じゃないものを貨幣化させることだってできるんです。僕らはそういうことにチャレンジしたい。
坂東:なのに、不動産業界の仕事をしてるんですね(笑)
武井:不動産って思いっきり所有権ですしね(笑) でも、所有権が強すぎる町って廃れていくんですよ。
坂東:へ~、そうなんですか。
武井:持つ人が所有権を手放して、みんなでシェアしている町ほど豊かな暮らしをしている。
逆に、所有者と利用者が分離している町ほど、モラルハザードが起きている。
例えば、そういう町って汚れてるんです。
公衆トイレが汚いのにはちゃんと理由があって。
あれはみんな自分のものじゃないと思うから汚すし、汚れていてもきれいにしない。税金で作られているのに。
坂東:もともとは自分たちのお金で作られているのにね。
武井:でも、自分がそれを作っているプロセスに関わっていないから、手触り感が無い。自分事化できないんです。
坂東:会社もそうですけど、所有感をいかにシェアするかということが大事なんでしょうね。
武井:そのためには、いかにプロセスを共有するか。税金もクラウドファンディングみたいになるといいんですけど。
『ここの道路を直したい』とか『公園の設備を整えたい』みたいなプロジェクトを市が立案して、
市民は好きなプロジェクトに税金を納めることができる。そうしたらみんなもっと主体的になれるし、
無駄な道路工事も減るんじゃないかな。
坂東:自分が関わってる感が強まれば、町にも愛着が出るでしょうね。。
武井:ふるさと納税も、ざっくり「教育に使う」「福祉に使う」とか分かれていて、自分で選べるんですが、
あまり手触り感がないんです。それよりはクラウドファンディングみたいに、
「このスクールゾーンで事故が何度も起きているのでガードレールを作りたい。目標金額100万円」
みたいなプロジェクトが立ち上がったら、小さな子を持つ親は喜んで納税しますよね?
坂東:確かにそうですね。市民が本当に必要とされているところにお金が回るようになりそう。
武井:そうなんです。人がなんで税金を納めることに抵抗感を覚えるかというと、
何に使われるか全くわからないからなんです。例えばアメリカのお金持ちは徹底的に節税するくせに、
チャリティーでは募金しまくる。「なんだそりゃ?!」って感じですけど、
あれは社会のためにお金を払いたくないのではなく、何に使われるかわからないものに払いたくないんです。
坂東:そうですね。用途が不透明ですからね。
武井:ITをうまく活用したり上手にプロセスデザインすれば、そういう仕組みはきっと実現できる。
飛騨高山なんかメチャクチャすごいですよ。地域通貨で納税できますからね。
ゴミ拾いしまくって貯めたコインで所得税を納められるとかすごくないですか?
坂東:確かにすごいですね。
武井:飛騨高山の事例も、信用金庫が中心になってつくっている。今後、
地銀とか信金の重要度はますます上がってくると思います。
坂東:メガバンクとかグローバルな銀行じゃなく?
武井:そうそう。おもしろいのが、最近そういうところからの相談が増えているんです。
例えば京都信金さんからお声がけいただき、京都で勉強会も開きました。
坂東:へ~!それはおもしろい。
武井:すごいシンクロニシティーを感じます。
坂東:地域の人が自分の町に所有感を持てるような施策が、今後日本中で生まれてくるかもしれないですね。
武井:そうなっていくと思います。
坂東:会社も同様ですね。社長は、「自分が会社の持ち主だ」という想いが強くて、
社員のみんなにも自分と同じように「会社は自分の物だ」と思ってほしい。
でも、それってちょっと矛盾しちゃいますよね。
武井:そう、矛盾があるんです。理想論としては素晴らしいんですが、実際にそう思ってもらうためには、
まず社長が所有感を手放さなきゃいけない。そうしないと、他の人が所有感を持つことはできません。
手放して、みんなでシェアするというプロセスが必要なんだと思います。
坂東:なるほど。進化型組織の実践を進めている手放す経営ラボのお手本のようなまとめ、さすがです!
ありがとうございました!(笑)
※acqui-hiring:人材獲得のために行う企業買収
※2 一般社団法人 自然経営研究会。「新しい形の組織運営」が実践されることを促し、支援するための活動をしている。