前回、社内クーデターに合い、社員が35人から一気に2人まで減ったと話してくださった元システム会社経営者のMさん。その後、さらなる大事件が起こり、自分の会社から追放されてしまいます。そのいきさつと、その後たどり着いた経営に対する考えについて伺います。
コラムが炎上。会社を追放される・・・
会社を追い出されたとは!いったい何があったのですか?
さっきも話したけど、その当時僕は積極的に情報発信をしていました。「君たちのやってることはコレコレこういうことだ。今の現状はこうだけど、僕はこんなふうに変えたいんだ!」みたいなメッセージをね。
熱いですね!
なんだけど、そんなことを続けていたら、ある日僕が書いたコラムが、とあるお偉いさんの逆鱗にふれちゃって・・・
どんなふうにブチ切れさせちゃったんですか?
「お前たちの製品は買わないってお達しを業界中に出す」って本気で言われて。このままだと社員を守れないなって思いました。
まさにピンチですね。
「僕が社長を辞めたら、そのお達しは出さないですか」と言ったら謝罪を受け入れてくれて、会社はなんとか守れました。
それで、自分は会社を去ったわけですね。
そう。ちなみに僕が辞めた年の売り上げは11億。クーデターからたった数年で、会社は超優良企業に成長しました。銀行の評価も抜群に高かったんですよ。
クーデターと会社追放を経てわかった“手放す経営”の本質。
そんなすごい体験をしたMさんが「手放す経営」に大変共感してくださっているとお聞きしました。
はい。とても共感しているし、これからの時代なぜこういう考え方が必要なのか、納得しています。
たとえば、どんな点にですか?
例えば、情報共有の大切さについて。坂東さんのあのセンセーショナルなコラム「社長の給料まる見え日記」(笑)
私の給与額を社内で公開して、社員みんなで社長の給与を決めたというアレですね(笑)
社長の給料って、社内のナンバー2やナンバー3の三倍とか四倍とかもらってるのが当たり前なんだけど・・・完璧にトップシークレット扱い(笑)
そうですね。絶対に触れちゃいけない世界というか・・・
なぜ3〜4倍の給料をもらっているかというと、そこにはちゃんとした理由があります。それは税制上のことだったり、会社の会計システムの問題であったり。
社長の給料はオープンにしたほうがいい。その理由は?
社員の給料と社長の給料は、会計上の役割が違いますもんね。
社員の報酬って利益が減っても減らせませんよね。いわゆる固定費です。会社って固定費を増やすと、簡単に傾いてしまう。でも、社長の給料って固定費じゃないでしょ。
そうですね。
役員報酬っていうのは利益が減ったら減らすことができる。だから、銀行もそのあたりはわかっているわけで、利益と役員報酬を一緒に見るわけですよ。それらを合わせた額で、会社の本当の利益や経営状態を計算している。
たしかに、銀行は役員報酬と利益のバランスを見ますね。
結局、中小企業は社長の節税マシーンみたいなところがありますよね。利益を圧縮させると、全体として税金が安く済むわけですよ。
社長の給料にはそういうカラクリがある。
あの頃はこれを社員にわかってもらえるとは思っていませんでした。だけど、わからないなりにも説明したほうがよかったのかなって、今は思っています。承認してもらうのって大事だと思います。
そういう意味でも“手放す経営”に共感ができたと。
そうそう。説明して「見える化」することって大事。
ほかに“手放す経営”について何かありますか?
任せることを大切にしている点もいいですよね。社長がやらなきゃいけないのは、ビジネスモデルを作ることと、今ある仕事以外の仕事を作ることでしょ。
そうですね。
実務は社員がやるべき。これを社長がやっているということは、本来の仕事が出来ていないということになるわけです。パッとしない会社の社長は忙しい。逆にパッとしてる会社の社長は忙しくはないけど、簡単には捕まりません。でも、ピンときた人と会うための時間はちゃんと作ってる。そういう感じです。
社長のためにも、任せることは大事ってことですよね。
自発的に仕事をしない社員に対する処方箋
よく社長が「社員が自発的に仕事をしてくれなくて・・・」という悩みを話をしているけれど、それは無理な話。社員のやる気を引き上げたいなら、一緒に会社を作るのが一番なんですよね。会社を作る立場になれば、おのずと自発的になります。
同じ立場になりますもんね。
そうそう。自発的にやって欲しいなら、そこまでやるしかないですよ。逆にそこまで出来ないのであれば、社員は言われたことを言ったとおりにやってくれるだけで十分だと思わないと。
私が書いてるコラムが面白いっていうのも、その辺りの考え方が一緒だからですか?
本質的にちゃんとマネジメントしようと思ったら、あの発想が必要です。社長の給料も自分たちの給料も自分たちが決める。これって究極のオープン化ですよね。これはやるべきです。
だから、仮に会社を一緒に作らなかったとしても、それと同じようなことを社内でやったら、それは究極のオープン化になりますよね。
絶対にそう思います。社員として雇ったからこいつは俺の身内で安心だ、というわけはないんです。でも社長はそう思い込んじゃう。
社長はそう思いたいんですよね(笑)
うん。そう思いたい(笑)でも、僕はあんなことがあったから、全くそう思っていませんが!
次世代型の組織づくりとは?
今後もし組織を作るとしたら、どんな組織にしたいですか?
前提として、僕は一人がいいんだけど(笑)気楽だし一人が合ってるんです。でも、もし組織をつくるとしたら、どんな制度を用意したら働きやすいかなとか、いろいろ考えがあります。以前の自分とは違います。
“手放す経営”みたいな。
はい。僕もそっち側に行くような気がしています。だから、坂東さんのコラムを初めて読んだとき、その試みを知って、僕自身がノリノリになった(笑)
そっちに行かざるを得ないですよね。
従来型の組織運営って、社長の甘えの上に成り立っています。社長だから偉いわけじゃないんだよね。社長の役割を説明して、だからあなた方の5倍の給料をもらってますよと。そしてそれを納得してもらわないと。
昔、社長は偉くしていられたけれど、今はダメですね。なぜでしょう?
時代がよかったんだと思います。お父さんと一緒でしょ。昔はお父さんってだけで家の中に君臨して偉かった。先生もそう。社長も一緒じゃないかな。
でも、今は違う。
偉そうな社長がいて「さすが社長!」なんて社員に崇めさせていたとしても、そんなのうわべだけでしょ。今は。でも腹の中では思ってるよ「絶対辞めてやるぜー」って(笑)
だから、そこに気づかないといけないですよね。
僕も昔は思っていました。リスクに対するリターンと考えれば、この給料は普通でしょって。でも自分の中で罪悪感もあるんですよ。接待交際費を1日15万使って中洲で飲んでるって、どうやって正当化するのかって(笑)
あはは(笑)それも仕事の一部だったりすることが多いんですけどね。
そうなんだけど、でも結局そこらへんも明文化しないといけないと思っています。やっぱり中洲とかで社長たちと飲むと会社が上向きになるというか、パッとするんだよね。だから、それも明文化したいなぁと。それか自分の小遣いで行くか。
小遣いになるでしょうね(笑)
いずれにしても、手放す経営の考え方や方向性は時代をつかんでいると思います。これからも応援しています。
今日は貴重なお話をありがとうございました!
こちらこそ、ありがとうございました!